「！アンタ、さっき金髪のお客さんと話してたでしょ！！」
「え？ああ、あの人のこと？」
さっきの金髪のお客さんが帰った後、アンナに私は話しかけられた。
でも様子からして何だか彼女はおかしかった。
ほんの少し、喋っただけなのに
何だか驚いた表情で私を見ているし、今だってそうだ。
いつもならこんな反応を示さない彼女だからこそ
こういう様子が何だか不思議でならなかった。
「どうかしたのさっきの人が？」
「･･･アンタ、気づいてないの？」
気付いてないの？と言われても、よく分からない。
何処をどう見て気付いてない、と言うのだろうか？
見た目は確かにカッコいい、と言われる部類の人。
スーツの着こなし方や姿勢といい、何かの職に就いていることは確か。
几帳面な感じと、言葉遣いからは公務員のようにも思えた。
私がかの人を観察して分かったのはそれだけ。
「だから、何に気付いてないっていうの？」
「はぁ〜･･･相変わらず疎いわね」
「へ？」
疎い、と言われて私は目が点になる。
本当に彼女の言っている意味がよく理解できない。
「コレが知らぬが花ってヤツかしらね」
「ちょっと、どういうことそれ？」
「は知らないほうが可愛いって事」
アンナはニヤニヤしながら、私を見た。
何も教えてくれないアンナに私は諦め、花の包装をしていた。
「ねぇ、」
「ん？」
「今度さ、大学でパーティあるんだけど行こうよ。んでさ、彼氏作ってさぁ」
「また、その話題？行かないって言ってるじゃない」
いつもと変わらない、同じ質問をアンナは繰り返してくる。
彼女の大学のお友達が開くパーティに参加しよう、とか。
近くのダンスホールに行ってみよう、とか。
いつも彼女は私をそういった場所に連れて行って「彼氏」を作ろうと言う。
だけど、私はそういった誘いを一切断ってきている。
興味がないわけではない。
だけど、私にはどうしても行けない理由もあるし･･･好きな人を作りたくない理由もある。
「ねぇ、まだ根に持ってるの？を狙ってる男はこのダウンタウン中に居るのよ。
それなのに、････アンタは一向に誰にも靡こうとしないじゃない。
誰かを好きになる素振りもないし」
「私、もう嫌なの･･･あんな思いするの」
「だってあれは、アンタの小さい頃の話だってママも言ってるし･･･もう昔の事だって」
「それでも、私････もうこれ以上悲しみたくないの。ありがとう、気を遣ってくれて」
「」
過去の苦い記憶のせいで、人を好きになっちゃいけない。
大切な人を作っちゃいけないと自分の中で殻を作って閉じこもってしまった。
笑顔で明るくしてれば、誰も大切な人を作らなくてもいいし
誰かに好意を抱かなくても、いい。
もう、これ以上泣いたら････皆、心配する。
私が泣いてしまうだけで･･･誰かが悲しむ姿はもう見たくない。
私が原因で誰かを悲しませたり、苦しませたりしたくない。
そんな思いをするくらいなら･･････―――――。
「私は大切な人を作りたくない。誰かを好きになっちゃいけないの」
「････でもっ」
「お、ちゃんとアンナちゃんのツートップだね。････こりゃ良い事ありそうだ」
「いらっしゃい、小物屋のオジサンいつもの飾りでいい？」
「あぁ、ちゃんの飾りなら何でもいいよ」
常連のオジサンが花を買いに来た。
私はすぐさま笑顔を取り繕って、対応する。
お客さんが来たのかアンナも、言いたいことを私に言わず
そのまま奥の自宅へと引っ込んでいった。
そうだよ、。
これでいいのよ、これで。
何度もなんども私は心の中で呪文のように、そう言い聞かせてきた。
自分の殻に閉じこもって、悲しみを隠すしかない。
大切な人を作ってしまえば、その分失った時
私は一人になってしまう、一人ぼっちになってしまう。
『パパ･･･ママ･･･ッ、ヤダ！死なないで、死んじゃやだ･･･！！』
幼いあの日と、同じ思いだけは･･･もう、二度としたくない。
だから、私は大切な人を作りたくない。
最も愛すべき大切な人達を、私は幼い頃に突然失った。
その記憶が今でも私の中に茨(いばら)のように
体に絡みつき、痛みを伴い根付いていたのだった。
Thorn-消えない悲しみ-
(過去の記憶が茨のように絡みついてもう解けない)