「お葬式?日本に?」
「そうなのよ。実はね親戚が亡くなって
明日日本で葬儀が行われるから行かなくちゃいけないの」
私を養子として引き取ってくれた
ラグスお養母(かあ)さんが突然そんなことを言ってきた。
「ねぇ、ママ・・・・やっぱりも連れて行こうよ」
「アンナ」
「1人此処に残すなんて、私反対」
すると、アンナが私の腕を引きながら
一緒に日本に連れて行くと言ってきた。
別に、私は此処で1人残る事はそれでも構わないと思っていた。
何故かいつも旅行等に行く時。
アンナは必ずと言っていい程私を連れて行くと聞かないのだった。
「でもねアンナ。親族の集まりに、を連れて行くなんて」
「だって養子でも家族だよ。連れて行っても」
「私の事は気にしないで、行っておいでよ・・・・アンナ」
「・・・・、でもっ」
私がそっと、アンナの肩を叩いてニッコリと笑う。
でも、そんな私の表情を見てアンナは複雑な表情を浮かべた。
「大丈夫だって、1日中お店開けておけば平気だし。鍵だって閉めれば安心だよ」
「で、でもっ・・・・!」
「アンナ。もう私だって、貴女もだけど18よ?いい加減、私離れしたらどう?」
「私はが心配なのよ・・・だってっ」
「大丈夫だから。平気、安心して行っておいで」
満面の笑みを浮かべ、アンナに見せた。
それでもアンナは安心した表情を浮かべることはなかった。
「こんにちは、さん」
「あ、エーカーさん。いらっしゃいませ」
すると、其処にエーカーさんがいつものように現れ
私はすぐさま近づいた。
お客さんだと分かったのか、お養母さんもアンナも奥に戻った。
「どうかなさったんですか?」
「え、何がです?」
店に着くなり、エーカーさんは私の顔をまじまじと見る。
「いえ、何やらさっきまでお店の方たちと話しこんでいたみたいなので」
「あ、聞いてたんですか?」
「いえ、詳しい内容は」
「大したことじゃないんで大丈夫ですよ」
「そうですか」
明日から1日1人なんだと思うと、少し憂鬱だけど
お店を開けて、お客さんと他愛のない話でもしておけば
少しくらいは紛れると思っていた。
次の日から、お養母さんたちは日本に旅立った。
1泊だけしてアンナは帰ってくるといったが
私の説得で、家族で帰ってくることを勧め
結局アンナもそれで折れ家族揃っての帰国になった。
一方の私はというと1人でいそいそと、開店の準備をしていた。
「姉ちゃん!」
「あ、サム君」
すると、近所に住んでいる子供のサム君がやってきた。
「昨日アンナ姉ちゃんから聞いたんだ!姉ちゃん、今日1人だからお店手伝ってくれって」
「(アンナったら)・・・・ありがとう、でも大丈夫よ」
「うぅん、俺が此処居ないと帰ってきたアンナ姉ちゃんに怒られちゃうよ」
「そっか。・・・・じゃあ、私がお店に居るから配達頼んでもいいかしら?」
「うん!」
アンナもアンナなりに考えてくれてるんだろうと
私は思わずおかしくなり、小さな笑みを浮かべるのだった。
それからと言うもの、時間が過ぎるのが早かった。
サム君が配達から帰ってきたら、すぐさまお喋りを始めて
お客さんもチラホラやってきて、気づいたときには夕方になっていた。
「サム君、ありがとう。もう大丈夫だから、お家にお帰り」
「え〜でもまだ姉ちゃんと話してたい」
「お母さんが心配するからダメよ。今帰らないと遅くなっちゃうわ」
愚図るサム君を私は家に帰るよう促した。
この子には家族がある。
家に帰れば、待っている人が居る。
そんな子をいつまでも私の側に置いておくわけには行かない。
「もう大丈夫だから」
「分かったよ。本当に大丈夫なんだよね?」
「うん、ありがとう。大丈夫よ」
「そっか。じゃあ、明日も来るな!バイバイ!!」
「バイバイ」
そう言って、サム君は手を振りながら帰っていった。
私も彼の姿が見えなくなるまで、同じように手を振った。
アレが普通なんだ。
私はあの子の知らない環境で育った。
神様、どうかあの子から家族を奪わないでください。
私は心の中でそっと、お祈りをしていると
ポツポツ、と音を立てて落ちる音が、聞こえてきた。
そしてそれは次第に強さを増していく。
「やだ、雨。・・・・お花、入れなきゃ!!」
突然の雨。
私は店頭に並べていた花を急いで店内へと慌てて入れる。
ウチの花屋だけではなく周囲のお店の人達も
店先に出していた商品を中へと片付け、閉店の看板を掛けたりしていた。
「コレで最後っと」
最後の一つを運び終えた所で
雨は本降りへと変わり、外を歩く人は居なくなった。
私は汗と一緒に流れ落ちてきた雨粒を手で拭い
濡れた体を拭くために店の奥へと引っ込もうとした。
瞬間・・・奥の暗闇を見て、私は立ち止まる。
『聞いた?アレが、トーマス兄さんの娘ですって』
ふと、12年前のことが蘇ってきた。
私は、親族の集まりに出され・・・・親族同士の陰口を
幼い歳ながら、立ち聞きをしてしまった。
自分は明るい場所に居て
親族の人達は皆、暗い場所でヒソヒソと小声で話していた。
『アレがその子だっていうの?トーマス兄さん、戦火に巻き込まれて死んだんでしょ?』
『ユニオン軍の軍医をしていたそうだ。ゲリラに遭って。
家を継ぐどころか駆け落ちで、見ず知らずの女と結婚してあの子が産まれたんだぞ。
罰が当たったんだ。家を捨てた兄さんが悪い』
『誰が、あんな子供・・・・引き取るもんですか。
家を捨てた人間と知らない女から出来た子供なんて』
『俺もゴメンだな。厄介事を押し付けないでくれ』
『まったく。どうしてあの子の事でいちいち私達が呼ばれなきゃいけないの?
ホント・・・あんな子、産まれてこなきゃよかったのよ』
今でも耳鳴りのように、あの時の言葉が蘇ってくる。
聞いてしまった言葉。
胸に突き刺さった言葉。
忘れたくても、忘れれない言葉。
私は・・・私は・・・――――――。
『あんな子、産まれてこなきゃよかったのよ』
「いやぁぁあぁああ!!」
叫び声と共に、雷鳴が轟き・・・そして、地に落ちた。
Past-過ぎ去った日の恐怖-
(暗闇は、あの日の恐怖を思い出させる)