「・・・えっと、次は・・・北エリアの方ね・・・」
ある日、私は配達に追われていた。
久々の配達の多いこと、時間前には間に合わせるように
私は届け先まで走っていた。
しかし、私にはそれだけではない理由があった。
「エーカーさんがお店来るまでには、終わらせなきゃ」
配達を早めに切り上げて
すぐさま店に戻り、あの人が来るのを待って居なくてはならない。
この間の、お礼が・・・まともに言えずにいたからだ。
アンナたちが親族のお葬式に参列するために
日本へと向かったとき、私はアメリカに、お店に一人残った。
だが、私はあの日昔のことを思い出してしまい
泣いている所を、エーカーさんに見られてのダブルで
挙げ句の果て、ベッドで一緒に寝て欲しい、と図々しいことを言ってしまった。
でも、エーカーさんは・・・嫌な顔一つせず、優しい微笑を浮かべて・・・同じベッドで寝てくれた。
ちょっと、朝起きたらビックリしたけれど。
いつの間にか、エーカーさんが私を抱きしめて眠っていた。
あまりのことで私は恥ずかしくなり、お礼もまともに言えないまま
そしてエーカーさんと顔を合わせるだけで、それを思い出してしまい
彼がお店に来てもしばらくの間、話すこともできなかった。
「今日こそは、言わなきゃ!!」
そう意気込んで、配達を素早くこなしていた。
「えーっと、あっちが確か近道・・・・・・ん?」
私は近道と思い、墓標が並ぶ墓地へと出た。
すると其処にはエーカーさん・・・らしき人の姿を見つけた。
「エーカーさん?・・・お墓、参りかな?」
エーカーさんらしき人は、墓標をずっと見つめていた。
誰か亡くなったのか?とそう思いながら
私は徐々に彼に近づいていく。
すると、あのくせっ毛の金色の髪と青のブラウスに黒のスーツ。
それはまさしく私の知っているエーカーさんだった。
「エーカーさん?」
「ああ・・・こんにちは、さん」
話しかけると、私の存在に気づいたのか
エーカーさんは挨拶をする。でも、その表情は・・・とても、儚いものだった。
いつもの、あの優しいエーカーさんの雰囲気とはまったく違う。
何がこの人をそうさせているのか、分からない。
「ぁ、あのっ・・・誰の、お墓・・・ですか・・・?」
「・・・知り合い・・・ですかね」
「ご友人、じゃなくて?」
「・・・知り合いです・・・」
「そう、ですか」
私が話し終えると、沈黙が訪れた。
何だかいつものエーカーさんじゃない。
まるで他の誰かを見ているような気分だった。
いつものエーカーさんなら何か尋ねても
はっきりと答えてくれるのに、それが今日はなぜだか曖昧。
それに言葉が冷たい。
横目で彼を見ると、目を逸らさず・・・ずっと墓標を見ていた。
今にも泣きそうな顔で、でもそれを一生懸命堪えている。
『アナタは、死ななくていい人だったのに。私が、私が・・・』
そんな声が聞こえてきた気がして、私は彼の顔を見るのをやめた。
いや、もうコレ以上見ているのが怖かった。
あまりにも、残酷すぎると思って。
どうすれば、この人はいつものように笑ってくれるのだろう?
どうすれば、この人は私に明るく話しかけてくれるだろう?
どうすれば、この人の目は私を映してくれるだろう?
どうすれば・・・――――――。
い い の か ・・・ ワ カ ラ ナ イ 。
幼い頃のあの日も、そうだった。
ただ流れる沈黙を破るすべもなく
パパの親族たちは黙って私から目を背けていた。
その沈黙を思い出し、耐え切れず私はその場を去った。
彼に何の声をかけずに。
「・・・ただいま」
「お帰り、。・・・、どうした?」
私は、配達を全部終え店に戻った。
アンナは明るく出迎えてくれたが、私が重く沈んでいたことに気づく。
「・・・さっき、エーカーさんと・・・会った」
「お!・・・この前のお礼、言ってきた?」
「うぅん、言ってない。・・・ていうか、言える状態じゃなかった」
「は?どういうこと?」
あんな、悲しい顔をした彼を見たとき
自分の中でどうしたらいいのか、分からなかった。
沈黙を破る術を私は知らない。
いつも明るくて優しいあの人が
突然あんな表情していたら・・・私の思考回路は困惑する。
「分からないよ」
「え?」
「どうすればいいのか、分からないよ・・・っ」
「」
「分からないよ・・・もう」
どうしていいのか分からず
今あの人に会ってしまえば何か傷つけてしまいそうで
怖くなってしまい、私は・・・逃げ出すように、店を飛び出したのだった。
Why?-困惑-
(何故?どうすればいいの?私は困惑するばかり)