「グラハム、此処に居たんだ」


「カタギリか。何だか呼ばれたような感じがして」







私がある人物の墓標の前に佇んでいると
カタギリが花束を持ってやってきた。


彼はそっと花束を墓前に供えた。





「呼ばれた・・・?」




「あぁ・・・だから、此処に来たんだ。もう、1年になるんだな・・・この人が、スレーチャー少佐が亡くなって」




「グラハム」








昨年、私はフラッグのテストパイロットに選ばれた。

時期MSを決める模擬戦で対戦相手になったのが・・・私が師と仰ぐ
スレッグ・スレーチャー少佐だった。



凌ぎを削る思いで・・・戦った。
だが、私は大きな罪を犯してしまった。



その頃からだ・・・周囲の目が怖いと感じれたのが、償いきれないほどの
罪を犯したとき、そしてその人を失った時
私にはただ、絶望な思いだけしか残らなかった。



周囲からは『上官殺し』とだけで後ろ指を差され、とても怖かった。

それがきっかけで、もう二度と誰も殺させはしない
死なせはしないと・・・思っていたのに。





それだと、いうのに・・・・・・。









「少佐・・・私は、バカです。貴方を死なせてしまい・・・大事な戦友(とも)までも私は見殺しにしてしまった」









彼の翼を切り落とし、戦友を見殺しにした。








「グラハム。少佐のは事故だったし・・・それにイタリアに向かった軍だって、君のせいじゃない」




「分かっている。分かっているけれど・・・今でも私は”殺してしまった“と自分で、重い十字架を背負っている。
少佐や仲間のお陰で私が居るというのに・・・もう、少佐も彼らも・・・この世には居ない」











もう誰も死なせてはいけない。

自分のせいで、誰にも死んでほしくない。



そうやって、背中に幾つもの十字架を背負い続けて
いつか絶対に耐え切れず押し潰されてしまう。




いや、もう押し潰されて自ら「死」を選ぶつもりだった。




何もかも、私には重荷過ぎて。








「だけど今は、何故だか・・・重くないだ」







背中にあったはずの、数々の十字架。
背負いきれず、もう倒れて押し潰されていた・・・そんな時に――――。









「私は天使に救われた」









雨粒に打たれ、重い十字架を引きずって
誰も手を差し出してくれなかった。


そんな時、彼女に・・・さんに出逢って
あの、優しい微笑みに出逢って・・・肩の荷が一気に剥がれ落ちた。









「今は、毎日その天使に逢いに行くのが楽しくてな。
彼女が居れば・・・何も怖くないって、恐れる心配はないって・・・自信がついてきた」







死んでもいい命だと、さんに逢うまで思っていた。

なのに、死ぬのが突然怖くなった。




周囲の目とかそんなのじゃない。




さんが、居るから。


あの笑顔が、消えてしまう・・・それを考えただけで、死ぬのが怖かった。








「少佐。私は・・・今、彼女のために生きているようなものです。
軍人として、死ぬのが怖いと思うのは最低なことかもしれませんが
それでも、今私は死ぬわけにはいかないんです。生き続けなきゃいけない理由があるんです」







自分のためにも、彼女のためにも
今、此処で息絶えてしまうのは一番最低なことなんだと思う。


さんに出逢い、生き方が変わった。

私を変えてくれたのは紛れもなく・・・さん唯一人。


だから彼女のためにも、私は今死ぬ訳にはいかない。
生き続けなきゃいけないと分かった。










「いつか、貴方にも紹介します。それまで・・・待っててください、見守っててください」








貴方に胸を張って誇れるよう
私は彼女を、さんを守っていきます。



それを言い終えて、私はカタギリを見る。








「スッキリした」


「そうみたいだね。・・・何か、君・・・それを言いに来た様なもんでしょ?」


「違う。本当に呼ばれた気がしたんだ」






カタギリはクスクスと笑いながら私を見ていた。


墓前に置かれた花束をふと見て、私はさんを思い出す。







「そういえば」


「どうしたの?」


「すまない、カタギリ。先に軍に戻っててくれないか?」


「え?・・・あぁ、また花少女のところに行くんだね。いいよ、行っておいで」


「あぁ・・・ありがとう」





そう言って、私はその場から駆け出した。














『いらっしゃいませ、エーカーさん』










私を地獄の底から救ってくれた天使に逢いに行くために。
















「こんにちは。さんはいらっしゃ」


「ちょっ、どうしたんですか一体?!」


「は?」







私が店を訪れると、アンナさんが私に詰め寄ってきた。

あまりに突然のことだったので私には何が何だか分からない。







「ぁ、あのっ・・・私が何か?」


「エーカーさん、貴方のせいで・・・どっかに逃げちゃったわよ」


「え?」







私のせいで・・・さんが・・・?





「その話を、具体的にお願いします!」


「具体的にって言うか、ったら帰ってくるなりいきなり飛び出していくし
ただただ、あの子は口々に”分からないよ“ってしか言ってませんでした」


「え?・・・ま、まさかっ」







アンナさんに、そう言われ私は思わずハッとした。


そうだ。
あの時少佐の墓前でさんは私に話しかけてくれた。


それだと言うのに私は、何かに取り憑かれたみたいに
心此処にあらずで、彼女の声も届かない場所にまで意識が離れていた。






「思い当たる節があるんですか?」


「・・・はい」


「そうですか・・・。多分もう少ししたら帰ってくると思うんですけど
その時はちゃんと何があったのか話してあげてくださいね」


「ええ、もちろんです」







アンナさんの言葉に私は「もちろんだ」と答えたが
心の中では酷く後悔していた。



どうして、あの時・・・ちゃんと彼女の、さんの顔を見て
いつものように話せなかったんだろうと。





どれくらい謝れば許してくれるだろうか?

どんな話をすれば、彼女はまた笑ってくれるだろうか?




色々考えたけれど、答えが見つからず
途端体中が震えだした。








「・・・さん」








天使が・・・私の側から離れてしまいそうで、怖くなった。





私の体の震えは彼女が離れてしまうのではないか
という恐怖から来るものだった。




Leave-震え出した体-
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