「ただいまぁ〜」
「アレ〜、どうしたの?」
「ん、ちょっとね」
私はグラハムに養家に用事があるといって出てきた。
そして、養家である花屋に戻ると
店先にはアンナがレジカウンターで肘を付きながら私を出迎えた。
私はそんなアンナを見ながら傘を閉じ、中に入る。
「どう、お店?」
「売れ行き下降気味」
「仕方ないもん、雨降ってるしね」
「まぁね。それより何しにきたの?」
アンナに再び同じ質問をされ、私は答えようとした瞬間・・・――――。
「おや、お帰り・・・早かったわね」
「お養母さん。ただいま」
店の奥から養母であるラグスお養母さんが出てきた。
「お養母さん、頼んでたアレ来てる?」
「来てるわよ。ちょっと待ってて」
「うん!」
そう言って、お養母さんはまた店の奥に引っ込んだ。
「何?何の話?」
「ちょっとお養母さんに、お花の注文を頼んでたの」
「へぇ・・・何の花?」
「今に分かるよ」
アンナにそう言った。
彼女は何が何だか分からずただ、首を傾げていた。
すると、お養母さんがあるものを持って戻ってきた。
「はい、たくさん届いたわよ」
「わぁ〜、ありがとう」
「ちょっ、コレ・・・勿忘草じゃない。こんな大量に何するの?」
「ラッピングするの。場所借りるね」
お養母さんが持ってきたのは、大きな花束が出来るくらいの
大量の勿忘草だった。
この日のために、お養母さんに頼んで発注してもらったのだ。
「ったく、どうしたのよ急に」
「え?」
「突然帰って来たかと思えば、大量の勿忘草をラッピングって・・・何するの?」
「分かりきってることじゃない。わざわざ言わせないで」
「愛しのエーカーさんにプレゼントするんでしょ?分かってるわよそんな事」
確かにグラハムにあげるために、私は養家に戻ってきた。
だけど・・・花をラッピングするなら何でもいいと始めは思っていた。
でも、コレじゃなきゃ・・・忘れな草じゃなきゃダメな理由がある。
「コレじゃなきゃ、ダメなのよ」
「え?」
「他の花も、グラハム大好きだって言ってくれた。でも、私・・・これじゃなきゃダメなんだって思ったの」
「勿忘草じゃなきゃダメって、その理由は?」
私はラッピングする手を止めて、アンナの顔を見た。
「コレ、私が初めてグラハムに逢ってあげた花なの」
「へぇ〜」
「今日ねグラハムが、私に一緒に住まないかって言ってくれた日なの」
「そういえば。2年前の今日だったわよね。
エーカーさんが私やママの前で、誓いを立ててに一緒に住んでくれって言ったの」
「うん」
2年前のある日、私とグラハムは出逢った。
彼は雨の中、ずっと佇んでいたところを私が傘を差し出し、中へと招きいれた。
そして、彼の同僚が亡くなった話を聞いて
私はそんな彼を元気付けるべく、お店の花をラッピングして
彼に御代も払わせず渡したのだった。
その花の中に入っていたのが、勿忘草だった。
「『私を忘れないで』だったよね、確か」
「うん。とってもいい言葉・・・男の人が自らの命を犠牲にしてまで助けた子供、そして死に行く際
恋人の元に行けずに死んでしまうけど、私を忘れないで。と意味を込めてこの花を握り締め亡くなったのが由来」
「綺麗な話だけど悲しい結末よね」
「うん。でも、忘れて欲しくないのよ生きてる人間にとって、死んだ人間って言うのは」
今でも彼の中では
多くの亡くなった仲間の思い出とかあると思う。
一人も欠けることなく、彼の中ではそれで生き続けているのだろう。
「私もね、グラハムがこの世から、もしね・・・居なくなったとしても忘れないよって言ってあげたいの」
「」
彼は軍人。
私は一般人。
違いは生死の扱い。
彼はいつだって、自分の命を懸けて守るべきものを守らなきゃいけない。
だから、いつ、その命の灯火(ともしび)が消えてもおかしくない。
それと違って私は
彼の守ってくれる世界に居る。
彼が守ってくれるから、今自分が居る世界が守られているのだと安心して生きているだけ。
だから、彼が死んだとき忘れてしまいそうで怖い。
死んでしまったら、きっと悲しみに打ちひしがれて
泣いてしまって忘れようとする。
でも、本当は忘れてあげないほうが
死んだ人間にとってはそれは幸せなことなんだと最近になって気づいた。
「だからね、コレを渡したいなぁ〜と思ってね」
「記念日含めて?」
「もしかしたら、覚えてないかもしれないけど。覚えててくれたらすっごく嬉しい」
「覚えてると思うけどなぁ〜、あのエーカーさんだし。のことなら全部記憶してそう」
「きっと覚えてないよ。もう2年も前のことだよ?」
「いや、絶対覚えてるって!多分勿忘草の事だって」
「そうかなぁ〜?」
そう言って、花束に最後に大きなリボンをつけて完成させた。
私はそれを腕に持ち、傘を片手に店先まで出る。
「じゃあ、帰るね」
「コーヒーでも飲んでいけばいいのに」
「いいよ。早く帰ってグラハムに渡したいから」
「あー、もうアンタとエーカーさんのラブパワーには勝てないわ」
「ラ、ラブパワーって・・・恥ずかしい事言わないでよアンナ!」
「はいはい」
「でもね・・・これ、渡すとき絶対言いたい言葉あるんだ」
「何?」
私は満面の笑みを浮かべ――――。
「ありがとう、私すごく幸せだよ・・・って」
「そう。きっとエーカーさん喜ぶよ・・・今日のこと忘れてても」
「うん!じゃあね、アンナ・・・お養母さんにもお礼言っておいて」
「うん、足元気をつけて帰るんだよ」
「ありがとう・・・じゃあね」
そう言って、傘を差して養家を出た。
雨が降りしきる中、私はライトブルーのたくさん入った花束を抱えて
家に続く道を歩いた。
そして、花束を見る。
貴方の、驚いて喜んだ顔が目に浮かぶ。
優しく私の名前を呼ぶ、貴方の姿が目に浮かぶ。
「グラハムが喜んでくれますよーに」
そう言って、私は嬉しい気持ちを躍らせながら
貴方の待つ家に、今、極上の幸せを持って帰っています。
帰って来たときは、優しく出迎えて下さいね。
そして、私の言葉に耳を傾けてくださいね。
「 あ り が と う 」 と 「 幸 せ だ よ 」
その言葉に。
Remember-思い出の中で-
(彼が思い出の中に居る時、彼女は思い出の花を持って歩いていた)