――7月7日。


それは1年に1回の楽しみ。

私、の誕生日なのです。


毎年、養子先の家族に祝ってもらっていたのですが
今年から私を引き取ってくれた恋人のグラハム・エーカー・・・彼に
祝ってもらう事を心から楽しみにしていた・・・・・・のに。











、大変!!エーカーさんが、エーカーさんが・・・っ』







それは誕生日の3日前。
養子先の娘で、私の親友であるアンナからの電話で
私のテンションは一気にどん底へと急降下していった。






『エーカーさんが知らない女の人と、宝石ショップに入っていくの見たの!!』

「えっ?」






女の人と・・・グラハムが?

嘘よ・・・絶対嘘に決まってる。





「た、誕生日前で私をビックリさせようとしてるんでしょ?別にね、そんな嘘つかなくても」

『バカ!私が嘘ついてどうすんのよ!マジで言ってんだから。
エーカーさんが本当に女の人と宝石ショップに入って行ったんだから。嘘だと思うならこっちに来て見なさいよ。
私、今2人のすぐ近くにいるから。・・・場所は』





あんなに場所を教えてもらい
私はすぐさま部屋を後にして、アンナのいる場所へと向かった。


嘘だと、信じたい。


だって、グラハム私の事・・・「大好き」って、「愛してる」って・・・言ってくれた。


それなのに・・・どうして?

どうしてなの、グラハム?


自分の心の中で問いかけても答えが返ってくるはず無い。


私は心のどこかで、その事実が嘘であるようにと願って
アンナの待つ場所へと走る。


だけど、行った場所には・・・・・・―――。














「う、そ」
「ホラ、見てみ」











宝石ショップで、グラハムは女の人と
楽しげにショーケースの宝石を選んでいた。


しかも隣にいる女の人は、すっごく美人。

金色の長い髪に、海のように澄んだ青い瞳。
モデル並の長身で・・・グラハムと並んで歩く姿は
まさに美男美女の言葉にふさわしいほどの・・・・・・光景だった。

互いの腕を絡ませ、女の人はショーケースを指差す。
グラハムはそれをじっと見つめる。






「ゎ、たし」

?」

「グラハムのあんな楽しそうな顔・・・見たことない」

「えっ?」






一緒に暮らして、私は彼の色んな表情をずっと見ていた。
もちろん、手を繋いだり、腕を組んだりもした。

だけど、あんな風に楽しそうに笑うグラハムの表情は
1度も・・・見たことがない。


私は見るのも苦しくなり、ゆっくりとその場を去る。






「ちょっ、。何処に行く・・・」

「ぅっ・・・ひっく、・・・ぅう・・・」







泣きたい気持ちが涙となって、頬を伝い
外へと出て行く。

手で必死にそれを拭うも、決壊したダムのように
涙は止まろうとしない。





「グラハム・・・楽しそうに、笑ってた」

「そ、だね」

「私の事・・・嫌いになっちゃったのかな」

「まさか。あのエーカーさんだよ?落とすために、毎日必死だったの忘れた?」

「忘れてないよ。でも・・・それは、もう去年の話じゃない。やっぱり、一緒に暮らすなんて・・・無理だったんだよ」






去年。
グラハムに出会って、私の生活は変わった。

彼のマンションに一緒に暮らして
目に映る全ての情景が新鮮で、私は子どもみたいな表情や行動ばかりだったけど
それでもグラハムはただ笑って私を見てくれていた。

は可愛いね」と、そう言われるだけで
私の心臓はすごく跳ね上がって、グラハムを好きな気持ちがどんどん膨らんでいった。



一緒に暮らし始めて1年。


やっぱり、無理があったんだ。
私と暮らすなんて・・・グラハムには重荷だったのかもしれない。



こんな子どもみたいな私・・・やっぱり、グラハムには無理だったんだ。








「ゴ、ゴメン」
「何で、アンナが謝るの?悪くないよ全然」
「だって明後日、・・・誕生日だし。誕生日前に、何ていうか・・・その・・・っ」






私の事を気遣っているのか、アンナは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
何とか私は涙を拭って、彼女に笑ってみせる。







「大丈夫だよ」

「で、でも・・・っ」

「もし、辛くなったら帰るから。その時は皆でお祝いしよう」



「じゃあ、帰るね。アンナもこんな所で油売ってるとお養母さんに怒られるよ」

「・・・ぅ、うん」






そう言って、私は笑顔でアンナを花屋へと返した。
彼女の後姿が見えなくなるまで手を振ると、私はゆっくり手を降ろして
自分もグラハムのマンションへとゆっくりと帰る。


その間も、私の頭の中は・・・グラハムとあの女の人の楽しげな表情。

私の知らない、彼の表情。
腕を組まれても、それを振りほどこうとしない彼。

しかも、相手は・・・すごく美人な女性。
私よりもずっとずっと・・・綺麗な人。


やっぱり、グラハムの隣に立つのは私じゃない。

私なんかよりもずっと美人な、あの女性が立つべきなんだな。




そう思うと、すごく自分が虚しく思えた。




「もういいや。・・・帰ろう」





重いため息を零して、私は1人トボトボとマンションへと帰るのだった。






















それから、3日後の7月7日。

私の誕生日がやってきた。
グラハムはお休みの日だというのに、家に居ない。

それに最近、帰りが遅い。
それは3日前からじゃなくてもう1週間も前から。

理由を尋ねると「少し仕事に手間取ったんだ」とか「仕事が忙しくてな」とか
最初の1週間は大変だなぁ〜っていう言葉で片付けてしまったが
3日前の女性と一緒に歩いている姿を目撃した瞬間から
彼を疑うようになった。



もしかしたら、1週間前から・・・いやそれ以前からあの女性とは逢っていたんじゃないかと。



そう考えたら・・・・・・今日も、また・・・あの女性と逢っているに違いない。


私の誕生日だというのに、大好きな彼は・・・他の女性と逢引。
問い詰めてやりたかったけど・・・・・・証拠も何もないのに、そんなこと出来ない。
勘違いだったらそれこそ、嫌な子って思われそうで怖いから。




別に、誕生日忘れてたっていい。覚えてなくたっていい。

ただ、側に居て欲しい・・・純粋に、ただそれだけでいい。


それだけで、いいのに・・・・・・なんで?














「ただいま」






すると、突然グラハムの声が玄関先からした。
私は出迎えにも行かず、ソファーから立ち上がって彼が
リビングにやってくるのを待っていた。








。居たのなら返事くらいしてくれ、居ないかと思って心配したぞ」

「・・・おかえり」

「うん、ただいま」






グラハムは笑顔で、私にそう言った。





「何処、行ってたの?」

「え?・・・あぁ、ちょっとな」





私の質問に、グラハムは目線をそらしながら答えた。


その瞬間、心臓が張り裂けんばかりに動く。



嘘ばっかり。
本当はあの女の人と逢ってたんでしょ?


腕を組んで、2人でお茶して、キスをして・・・・・――。


もう、嫌・・・・・我慢の限界。


私は顔を伏せ、ゆっくりと我慢していた言葉を放つ。









「嘘つかないで。私知ってるんだよ」

「な、何をだ?」

「グラハムが女の人と街を歩いてるの・・・私見たんだから」

「っ!?」





きっとグラハムは、目を見開かせ驚いているに違いない。
私は彼の顔を見ずに言葉を続けた。








「何で嘘ついたの?そんなに私に知られたくなかった?自分が浮気してるから?」

、それは・・・っ」

「私の事、嫌いになった?」

「そんなワケないだろ!」

「じゃあ何で女の人とコソコソ逢ったりしてるのよ!それって、私の事嫌いになったからでしょう!!」

「違う。これには事情が」

「どんな事情よ!言えるはずないでしょうが!!」

「・・・・・・・・・」








私の言葉にグラハムは黙り込んだ。
やっぱり、嫌いになったんだ・・・・・・私の事。








「嫌いになったら、いっそそう言ってくれればよかったのよ!!それだったら、私だって
こんなツライ思いしなかった。嫌いになるくらいだったら、引き取らなきゃ良かったじゃない!!」

、違うんだ。私は・・・・・・」

「聞きたくない!!言い訳なんか、聞きたくないよ・・・っ」










せっかく、大好きな貴方が祝ってくれる誕生日を
私は楽しみにしてた、浮かれていた。

それなのに・・・その思いは見事に裏切られてしまった。










「やだ、やだよグラハム。お願い・・・嫌いにならないで、私を見捨てたりしないで。
グラハムがイヤだって言うところ、全部直すから。お願い・・・・・私を捨てないで」











誕生日にそんなツライ思いはしたくない。

それだったら私は何のために生まれてきたのか分からなくなってしまう。

大好きな貴方に見捨てられてしまえばそれこそ、悲しくて、寂しくて・・・・・――。










死 ん で し ま い そ う 。











「別に無理しなくていいから。私の事嫌いになったんだったらはっきり言って。
他の人が好きならそれでいい・・・出て行ってほしいと思えば、私出て行くから。
貴方の迷惑にだけはならない・・・もう、二度と会わないから・・・だから・・・っ」


・・・実はな、その・・・・・・」







ほら、やっぱり。
貴方は私の事、嫌いになったんだね。


それでいいんだよね、

死んで失うよりも生きて失うほうが、悲しみは少ないはずだから。



























「ちょっと、無用心よ。いくら最上階だからって玄関開けっ放しにする家があるの?」




「え!?」



すると、突然女の人が玄関先から聞こえ
リビングへやってきた。しかも、扉を開け現れたのは・・・・――。







「(グラハムと一緒に居た女の人!?な、何で此処の場所っ!??!)」






そう、グラハムと宝石ショップに居た女の人だった。
彼のマンションの場所を知ってるのは、片方の指で数えるほどで何でこの人が!?

私の頭の中は混乱し始めた。







「何しにきたんだ?」
「ちょっと、何よその態度」
「邪魔だ帰れ。今と話をしているんだ」
?」





すると、女の人は私に視線を向ける。
どうしよう・・・いきなり修羅場ですか!?私こんな美人さんに勝てる自信ないよ。

女の人は、私をジッと見つめ・・・。







「もしかして、貴女がちゃん?」

「え・・・えぇ、あ・・・はぃ」






、何をバカ正直に・・・しかも敬語で返事してるのよ!?

頭が混乱していて、次に何をしていいのか分からず
いつの間にか目の前に女の人が立つ。

向こうの身長が高い分、私は怯えるウサギのよう。


すると・・・――。







「いやぁ〜ん、可愛い〜!やっぱり写真よりも実物のほうがすっごい可愛い子じゃない!!」

「ふぇ?」

「握手、握手していい?」

「え?・・・あ、はぁ」






女の人は楽しげに、私の手を握って握手をする。
一体・・・何がどうなっているの?

私の頭はさらに混乱する。






「やめろ。が混乱してる」

「ちょっと、何よ。いいじゃない別に」

「初対面の人間にそういう態度はどうかと思うぞ」

「ったく、うっさいわね」





すると、グラハムが間に入り女の人は私の手を離した。
修羅場かと思いきや、異様に和やかな空気が流れているのは気のせいですか?






。紹介が遅れたこの人は・・・・・・・・・・私の姉だ」

「初めまして。グラハムの姉のメアリィ・スドウです」

「お姉さん。・・・・・・・・・お、おおおお、お姉さん!??!グラハム、お姉さんが居たの!?」






目の前の人は、浮気相手・・・かと思ったら彼のお姉さんという。
だが、しかし気になる事が。





「でも、苗字違う」
「あぁ、私既婚者なの。日本人の夫持ちで、1児の母でーす。ほら指輪」
「ホント、だ」




グラハムのお姉さんは、右手の薬指についた金色のリングを見せた。
それは結婚をしている人の証といえる、指輪。

それだったら苗字が違って・・・当然だ。







「ホラ、アンタに届け物」
「え?・・・あぁ、やっぱりそっちにあったのか」
「忘れるバカが何処に居るのよ。ヤバッ、帰りの飛行機に間に合わなくなる」



すると、グラハムのお姉さんはグラハムに何か渡して
慌てるように、玄関へと向かう。その去り際に、彼女は・・・――。





「・・・ちゃん、今度お茶でもしようね」
「え?あ、・・・は、はぃ」





そう言って慌しく出て行った。

呆気に取られてしまい、私の涙は止まっていた。







「すまない、
「え?」






途端、グラハムが私に謝ってきた。
私は驚いて彼を見ると、彼は本当に申し訳なさそうな表情をしていた。










「別に、君が嫌いになったわけじゃないんだ。避けてたわけでもない。ただ・・・その・・・・・コレを・・・・」


「コ、レ?」







グラハムが差し出してきたのは、小さくて綺麗な袋。
私はそれをそっと受け取る。





「わ、私に?」
「今日、誕生日だろ?」
「ぅ、うん。でも、何で?」
「さっきも言ったけど、を決して嫌いになったわけじゃない。姉さんには・・・・・手伝ってもらってたんだ」
「どういう、こと?」






この袋と、お姉さんと・・・一体何の関係があるのだろうか?

聞きたいことが山ほどあるけれど、今はグラハムの言葉に耳を傾ける。
すると、彼は頭を掻く仕草を見せる。そして顔を少しそらす・・・でもその頬がほのかに赤い。






「その・・・カッコ悪い話だが。・・・私は、あまり・・・女性に、こういったプレゼントをしたことが・・・なくて」

「え?」

「何を選んでいいのか、分からないから・・・・・・姉さんに、何が良いか・・・・・一緒に考えてくれと、頼んだんだ」






もしかして、それで・・・・・・・・・。





「それで、毎日・・・帰りが遅かったの?」

「あぁ。毎日仕事が終った後、色んな店を姉さんと一緒に回っていたんだ。
だけど姉さんに教えてもらうもの全部・・・に似合うと思ってしまって、選びきれなかったんだ。
ギリギリまで粘って・・・ようやく、君に一番似合うものを選んだ」





私は綺麗な袋を見て、彼を見る。







「開けて、見ていい?」
「いいよ」




その言葉を受け止め、私は袋を開ける。

すると袋の中に入っていたのは、小さな箱。
少し大きめの、でも両手に収まるほどの箱だった。

私はゆっくり箱を開ける。








「・・・ピアスだ」






箱に入っていたのは、蒼い色をしたワンポイントのピアス。

シンプルなのだが、派手なピアスよりも
充分に自らの美しさを主張していた。






「ネックレスも良かったんだが、切れてしまえば使い物にならないし。
かといってペアリングだと”まだ早い“と姉さんに言われてしまってな。
あれこれ考えた結果ピアスを選んだんだ。ピアスだったら、君は四六時中しているし身に付けている物だし」

「コレ、選ぶために・・・グラハム、毎日・・・っ」








どうしよう・・・嬉しい。

そして、私は何で彼を信じてあげれなかったんだろう。
グラハムはこんなにも私の事を想っていてくれているのに。

私は、私は・・・――。


嬉しさと、彼を責めた罪悪感に
箱を片手に持ち口元を押さえ、泣き声を押さえ込んでいた。


すると、グラハムはそんな私を見たのか
優しく抱きしめてくれた。





をビックリさせたかったんだ。去年は、出逢ったばっかりだったし。
それに、気づいたら君の誕生日が過ぎてしまっていた。だから、今年こそは!って思って」

「グラ、ハム」

「でも、君の誕生日当日に・・・私は馬鹿な事に、肝心のプレゼントを何処かに置いてきてしまって
それで今日色々探し回っていたんだ。まぁ実家に置いてあったみたいだったけどな」





それで、グラハムのお姉さんがわざわざ此処まで届けに来たんだ。
お姉さんなら、マンションの場所が分かって当然なんだ。






「でも、まさか君に私と姉さんが一緒に居る場面を見られてしまったから、
一瞬焦ったがそんな誤解をさせてしまって・・・本当にすまなかった、


「ち、違う・・・違うよ。私が勝手に勘違いして」


「いいや、君は悪くない。ちゃんと言えばよかったんだ。誕生日プレゼントの事を明かさなくても、誤解されるかもしれないが
姉さんと買い物をしていると。それに元はといえば、君に私の家族を紹介していないのが悪かったわけだし。
色々考えたんだな、悩ませたんだな・・・・・・ホント、ゴメン」


「グラハム」








グラハムは強く私を抱きしめてくれた。
あぁ、この力は、温もりは・・・紛れもない彼が私を大好きだって言う証拠。

何も言わなくても、それだけで伝わってくる彼の愛情。

プレゼントよりも何よりもそれが、それだけが嬉しい。


彼はゆっくり、私の体を離した。






「誕生日、おめでとう。

「ありがとう」





そう言って、彼は優しく私にキスを落とし
すぐさま離れる。






「ねぇ、何でピアス・・・蒼なの?」
「あー・・・最初は、その・・・・・・別の、色に・・・赤にしようと思ったんだが」
「赤?・・・何で色にこだわるの?」





特に気にはしてないのだが
何故蒼や赤といった色にこだわる必要があるのだろうか?






「赤は・・・君の、誕生石で・・・7月はルビーなんだ」

「へぇ。・・・で、蒼は?」

「・・・・・・9月」

「9月?・・・え?9月って・・・もしかして」






私の知ってる中で、9月生まれは・・・・・・――。









「9月は私の誕生月。誕生石はサファイアだから・・・・・・蒼なんだ」

「グラハム」

「ずっと私のモノであってほしい、そういう証でもあるんだ。迷惑、かな?」

「・・・うぅん、すっごく嬉しい・・・っ」





箱に入った、蒼々としたピアスは
彼がずっと私の事大好きだよ、っていう証。

何か、繋ぐ止めるものが欲しかった・・・繋いでくれる何かかが欲しかった。

ずっと、宙に浮いたままで・・・何か足りないとばかり思っていた。



これで、ようやく・・・私は・・・。








「グラハムの、モノだよね?」

「あぁ」







私が嬉しそうにそう言うと、彼もまた嬉しそうに答えてくれた。

そして、頬を優しく包み込んで
またキスをしてくれた。優しくて、温かい・・・愛が溢れるほどの熱い、口付け。









「もう一度、言わせてくれないか?」

「ん?」











「ハッピーバースデイ、

「ありがとう、グラハム」







次の日から、私は彼がくれた蒼いピアスを付けた。

無くさないように、四六時中・・・ずっと、付けていた。


それは、私が彼のモノだという永遠の証だから。










Eternal proof-慈愛の証-
(永久の証を今、この手に。貴方の愛を今、この心に)


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