「・・・んっ・・・ぁ、此処・・・は」
「目が、覚めましたか?」
グラハムはしばらくして目を覚ました。
其処は、ベッドの上。
そして、側には・・・先ほどの少女が
にっこりと笑みを浮かべていた。
この状況をうまくグラハムは飲み込めていない
「・・・私は、一体・・・」
「私が水飲んであがってきたら貴方が居て・・・突然倒れちゃうんですもん、びっくりしました」
「・・・倒れる・・・そうだ、私は・・・・・・くっ?!」
ようやく、自分の置かれている状況を把握したグラハムは
起き上がろうとした瞬間左腕の痛みに襲われた。
「あぁ、ダメですよ。出血ひどかったんで、応急処置程度しかしてませんから無理して動かないほうがいいです」
「・・・き、君は・・・私が、何者か分かっているのか?」
「・・・あの、多分だと思いますけど、・・・怪盗、フラッグですか?」
「ご明察。・・・ほかに気づいた点は?」
「それだけなんで。」
「へ?」
社交界屈指の若手侯爵グラハム・エーカーを知らないわけがない
大半の人は知っているため、すぐにバレてしまう。
だが、この少女は自分がその侯爵であることすら分からず
『怪盗フラッグ』という泥棒を認識していた。
「プッ・・・アハハハハ・・・!!」
「え?え?・・・な、何ですか急に?!」
「い、いや・・・こういう子も、居るんだな・・・と思って・・・ククク」
「あの、笑いすぎです・・・何か間違ってますか?」
「全然、間違ってない。確かに、私は怪盗フラッグだ・・・怪我の手当て、感謝する」
グラハムは微笑を浮かべながら少女を見ていた。
すると、少女は薬箱を閉めて立ち上がり
棚へと戻しに行く。
「それは良かったです。」
「だが、どうして私を助けたんだ?・・・そのまま警察に突き出せば、君には賞金が入るぞ?」
<怪盗フラッグを捕まえたものには、賞金を与えよう>
彼を捕まえられない、毎度のこと彼を取り逃がしている
もう警察の信頼はかなり下がっている。
だから賞金を出して、国民に協力を仰いだ
警察の汚名返上のために。
誰もが金に目がくらむはずなのに・・・少女は
「別に興味ありませんし・・・それに、貴方・・・悪人に見えないし」
「怪盗はみんな悪人だぞ?」
「貴方は違う・・・私はそう思ってますよ。世間は貴方に対しては賛否両論ですけど」
「そのようだな。だが、どうして、自分がこんなことをしているのか今でも疑問に思う。」
グラハムは開いた窓の外、空に浮かぶ月を見た。
どうして、自分が今『怪盗』という泥棒業をしているのか分からない
ただ、困っている人の大切なものを救いたくて・・・
自分の置かれている地位よりも、それが大事なんだと・・・グラハムは思っていた。
「怪盗さんでも、分からないこと・・・あるんですね」
「それはな、色々悩んでるんだよ。」
「大変ですね・・・いつか、分かるといいですねそれが」
少女は優しくにっこりと微笑んだ。
グラハムはその笑顔を見ると、心が熱くなっていた。
ドキドキと鼓動が動いて
体中の血液が、ふつふつと沸騰しそうになって
仕草の一つ一つに心を奪われてしまう
「どうしました?」
「い、いや・・・何でもない」
すると、少女と目が合ってしまいグラハムは
思わず目を逸らした
この気持ちは何だって言うんだ?
初めての気持ち、いつもならそう煩わしいとばかり思っていた
自分で抱いたことがないからだ
だから、どう表現していいのか分からない
でも、一つだけ分かったことがある
「さて、そろそろ行くとするか」
「え?ちょっ、その怪我じゃ・・・っ」
グラハムはベッドから立ち上がり、漆黒のマントを羽織り
シルクハットを頭に被せる
そして窓に、手をかけ外に出ようとする
「私にも帰るべき家があるからな、いつまでも此処に居座れないだろ」
「あ、・・・で、でもっ・・・」
「口封じとか私の美学に反する。それに、君は私の本当の姿を知らないから別にいい。」
「・・・え、あ・・・はぃ」
グラハムは笑みを浮かべ、少女を見ていた。
少女はこくんと頷き、再びグラハムを見た。
その見つめる瞳が愛しくて
今でも話すだけで心臓が動く
もっと、もっと、君が知りたいと私自身が望んでいる
「どうやら、私は・・・」
「えっ、」
すると、グラハムは振り返り少女の頬を
両手で優しく包み込み、顔を近づける。
「君に心を奪われてしまったみたいだ」
「え?・・・そ、それって・・・」
「考えてごらん・・・自分でね。」
そう言って、グラハムは少女に優しく口付けをし
颯爽と窓の外へを繰り出したのだった。
屋根の上を颯爽と走るグラハムは
手袋越しで唇に触れる
熱 い
まだ、あの柔らかい感触が
優しいぬくもりが残っている
「まったく・・・興味以上の対象になりそうだ」
軽く笑っているが、その笑みには
何故だか、とても楽しそうで、まるで子供のような感じであった
怪盗は、微笑む
(月夜の日、初めて出逢った君に心奪われてしまった)