「怪我の具合はどうだい?」
「カタギリ」






あの後、私は無事に家に帰り着くことができた。
応急処置が良かったおかげか、長い療養はしなくていいそうだ。

だが、やはり痛むため左手を固定する生活が続いていた
私は服を着こなし、腕を通すことができないため上着を上から羽織った。






「利き腕を失うとこうも不便になるとはな、やっぱりジョシュアを1発ほど殴るか」
「バレるからやめたほうがいいよ。それに君はただでさえジョシュアに嫌われてるんだから」
「私も嫌いだ、あんな奴」
「コラコラ。」







ジョシュアのおかげで自分がこのような状態に
なったのだからそうでもしなきゃ私の腹の虫がおさまらない






「旦那様、馬車の準備ができました。」
「あぁ、今行く」
「アレ?今日どっか行くの?」
「レイフ・エイフマン公爵に呼ばれた・・・なにやら話があるらしい、来るか?」
「そうだね、怪我人の君を放っておけないからね。付いていくよ」





そう言って、私とカタギリはレイフマン公爵の居る自宅へと
赴くため馬車に乗り込んだ。


馬車は颯爽と街中を駆け、目的地まで向かう。









「それにしても、どうしたの?」
「何がだ?」
「最近、君・・・物思いに耽ってるからさ。この間の、怪盗劇以来・・・どーも、考え込んでる」
「いや・・・ちょっとな。」

「その、怪我の応急処置がどうも気がかりなんだよね・・・」
「・・・・・・」







私は窓の外を見る。


つい、数日前の怪盗の際にこの左腕に怪我を負った
揺らぐ視界の中で、私はある少女に心奪われた


私はフッと鼻で笑った




「奪う仕事なのに、奪われたんだよ」
「え?」
「まったく・・・大笑いだ」
「何、どうしたの?」






たった一人の少女に、心のすべてを支配され
今度はいつ、あの子に逢えるのだろうといつも考えていた。



でも、それは


グラハム・エーカーとしてではなく


怪盗フラッグとして・・・





私はぼんやりと、窓の外を見ていると


あるものが目に止まった






「!!・・・止めてくれ」







私は馬車を運転するものに一声かけ、馬車を止め降りた




「ちょっ、グラハム・・・?!」




突然の私の行動に、カタギリは焦りながら声を出す

馬車を止めた場所・・・・・それは








「いらっしゃいませ・・・・・・?!・・・エ、・・・エーカー侯爵様っ」
「今日も天気がいいな。」





花屋だった。

だが、それだけが理由で止まって馬車を降りたわけじゃない


店先に居た、少女に・・・見覚えがあるからだ





そう、彼女こそ・・・この傷の手当てをしてくれた子なのだから




まさか、こんなところで彼女が働いているなんて私は想像しなかった

しかし彼女はおろか、店の者たちは突然の私の訪問に
驚きを隠せない。
当たり前だ、社交界の人間が町に、しかも普通の花屋に来るなど
あまりにも考えられないことなのだから。









「ぁ、あのっ・・・今日は、どういったご用件で・・・」
「そうだな・・・」





彼女に声をかけられ、私は焦った。
別に用件というわけで訪れたわけじゃない
ましてや、彼女に会えた喜びで考える余裕がなくなっていた




私は、どうにかしてこの場を切り抜けようと花を見つめ・・・



彼女と目が合う。



あの月夜と同じ、大きな瞳で私を見つめていた

私はそれだけで嬉しくなり、心が弾んだ








「バラを・・・」
「え?」
「店にある、ありったけの赤いバラを・・・頂こう」
「あ、は・・・はい」






そう言って、彼女は赤いバラが入ったバケツを
店の奥に運び花束にしていく
しばらくして、大きな赤いバラの花束が私の目の前に現れた

私は空いている右手でその花束を受け取った








「ど、どうぞ」
「ありがとう。御代は、これくらいで足りるだろ・・・おつりは取っておきなさい」
「ちょっ、こんな大金・・・!?」
「いいんだ。私からの気持ちだ・・・受け取りなさい」







そう、君に逢えただけで私は嬉しかった。

だから、この御代にはまた君に再会できた私の気持ちが混じっているんだよ








「じゃあ。」
「・・・は、はぃ」







そう言って、私は店を離れ
馬車へ乗り込み、走らせた。

すると、中で待っていたカタギリがクスクスを
笑っていた。











「何だ?」
「いや、君が物思いに耽ってる理由が何となく分かっただけ」
「・・・・・・」
「あの子が君の怪我を手当てしてくれたんだね。」
「奪う仕事をしてる人間が本当に」
「奪われてしまったね・・・心を」
「あぁ。」








そう、浅い返事をして


赤いバラを見つめていた



まるで私の心のように、赤く美しく咲いていた








情熱の象徴は赤い薔薇
(それは私の心のようで、今でも熱く君を想う)




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