「大勢の人の前で、怪盗をしろと・・・?」
「そうだ。・・・奪われた品は、そのパーティの中に居る人物がしている。」







私は、レイフマン公爵に呼ばれ仕事の依頼を受けていた。
だが私にとってもその仕事は、初めてのこと。






レイフマン公爵が主催するパーティに

依頼人が奪われた品を身につけている人物が居るという。

其処で、私はその人物から品を奪わなくてはいけない

大勢の人の前で怪盗するのは初めてのことだった。





「私の家にも、貴方の主催するパーティの招待状が届きましたが・・・」
「俗に言う、仮面舞踏会のようなものさ。・・・カタギリ君にも、招待状を送っておいた。」
「用意周到なことですね、公爵。」
「引き受けてくれるか?」
「もちろんです・・・私を誰とお思いで?」
「世を騒がしている・・・神出鬼没、怪盗・・・フラッグ。・・・期待しているぞ」
「えぇ。」



そう言って、私は自宅へと戻ったのだった。


















--パーティ当日--






レイフマン公爵主催、仮面パーティは開かれた。
もちろん、みんな顔半分を仮面で覆い隠す。
個性的な仮面が多い、派手だったりシンプルだったり、と様々な人が其処には居た。




私とカタギリも、目元を仮面で隠し行動していた。
ちなみに私のオプションとして、カタギリが開発してくれたステッキ付だ
普段の生活でも使い心地がよく、あまり怪しまれていない。







「誰なんだい、ターゲットは」
「公爵の話によると、ミセス・アイアンが首から提げている宝石らしい」
「ミセス・アイアンと言えば、資産家で有名だけど・・・裏じゃ相当汚いことしてるみたいだよ」
「そういう女性は好まないな。」
「だって君には意中の人が居るでしょ・・・花屋の女の子。」
「彼女が此処に居るなら、ワルツの一曲でも洒落込みたいものだな」







私はため息を付き、現実に戻った。

ターゲットをこの大勢の中から見つけ出す。
それこそ、至難の技だと思う・・・しかも、人は会場内で動き回る。

固定に縛り付けてあるものではない。

いつもなら、そう固定されているケースが多いのだが・・・今回は身に付けている
まずはターゲットを探して、印のようなものでもつけない限り奪うに奪えない。


私は首を動かしながら、ターゲットを探していると・・・






「グラハム居たよ・・・ミセス・アイアン!・・・グラハム、どうしたの?」
「な、何故だ・・・」
「え?」
「何故、彼女が此処に居る?!」
「え、嘘っ?!」









目に止まった、ターゲットよりも・・・私の目に入ったのは
そう、この場所に居るはずのない彼女だった。

何故、どうして・・・?


仮面を付けているから、自分の身分など互いが分からない


何せ、政財界のトップやら資産家やらが此処には大勢居るからだ
だが、全て5階級制(公爵から始まり、一番下は男爵)と身分は区切られている。
もう何度と会っている顔なじみが多いこの世界。


ましてや、彼女は一般人だ。見慣れない顔に違いない。





「彼女が此処に居るってことは・・・」
「多分、連れてきたのは・・・アイツだ。」






すると、彼女にすぐさま近づく
少し薄い金色をした、頭髪の男・・・そう・・・あれはジョシュアだ。




覚束ない足取りの彼女をエスコートする、ジョシュアに私は腹が立った
思わずステッキを握る手が強くなる。
沸々と、内に隠していた想いがこみ上げてきた。








「やはり、アイツをこの前屋根の上から突き落としておくべきだなったな」
「グラハム・・・物騒な」
「本心さ。・・・まったく、肋骨を2本ほど折ったのに・・・あんな風に元気に動かれては困るよ」
「君・・・も、もしかして・・・その、ステッキで・・・ジョシュアの」
「・・・これで、私も人を傷つけた・・・もう戻れないよ、カタギリ。」







私は、笑いながら・・・でも顔は少し儚げにカタギリを見た。



傷つけるつもりはなかった

いや、しないと心に決めていたはずだった

だが人は時として、自らを守るためには人を傷つけなければいけない

例えそれが・・・愛する者の、想い人だろうが









「グラハム・・・」
「誰かを傷つけてしまった以上、私はもう戻れない。悪人だよ・・・コレで。」
「さっきの言葉に、少し君の憎しみが見えたけど・・・あれは本音かい?」
「・・・さぁ、な・・・どうだろう。・・・行こう、そろそろ時間だ。・・・印は付けたか?」
「バッチリ。・・・後は君の力次第だよ・・・」
「任せておけ、完璧にこなしてみせる・・・フォロー、頼む。」
「あぁ。」






そう言って、私とカタギリはそれぞれの持ち場についた。



私の頭の中では、依頼を達成することと・・・同じくらいに

彼女の存在が気になって仕方なかった。










私は、怪盗フラッグになり会場の客に気づかれないように天窓から見渡していた。

もちろん依頼物もそうだが・・・彼女も同じくらいに、じっと見つめていた。






『・・・グラハム、グラハム!』
「あ、・・・あぁ、カタギリ・・・すまない。」



すると、レンズに搭載された通信機からカタギリの声が流れる






『そろそろ、行くけど・・・準備OK?』
「いつでもどーぞ。」
『の、割には人の声耳に入ってなかったね。また彼女を見てたんでしょ』




やけに鋭いな・・・。




「気になるんだよ・・・仕方ないだろ」
『グラハム・・・今日は公爵も居るんだよ・・・彼の前で失敗は許されないよ』
「分かってる・・・分かっているさ」






私は目を閉じて、全神経を集中させた。



今日は公爵直々にこの舞台を用意してくれたんだ

それで失敗するわけにはいかない

いや、私に・・・この怪盗フラッグに失敗は許されない


今は、ただ・・・取り返すことだけを考えるんだ






私は、目を開けた。






「カタギリ・・・頼む」
『了解!』






通信機越しに、合図を出して私は華やかな場所へと行くのだった。








後戻りはもう、許されない
(誰かに傷を負わせた以上、後ろは振り返れない・・・ただ、前に進むだけだ)



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