「・・・・・・」
「ねぇ、どうして・・・答えてよ」
振り返ると其処に彼女が居た。
彼女は泣きそうな顔をして、私をじっと見ている
「どうして・・・ジョシュアさんを、傷つけたの?」
「・・・・・・」
「答えて、フラッグ!」
大声を上げて、彼女は私の・・・いや、怪盗である
私の名前を呼んだ。
今、此処で彼女に優しくしてしまえば
返って、私自身を苦しめていくだけだ。
もう、これ以上・・・君の側には・・・
「忘れたかな?私は、悪人だ・・・君の大切な人は、私の仕事に邪魔な存在なのさ」
「そ、んな・・・でも、貴方は・・・っ」
そんな顔しないで
「いいかな?・・・私は、世を騒がす大怪盗・・・己を守るためなら、何だってする。」
「嘘よ」
本当は誰も傷つけたくなかった・・・ジョシュアも、君も・・・
「君の大切な人だって、簡単に殺せる・・・彼の肋骨を折ってあげたのは、動かれては困るからさ。」
「う、そ」
これ以上、私に近づかないでくれ・・・心が軋んで、痛む。
「さて、今度は・・・彼の何処の骨を折ってあげようかね」
「やめて!!」
すると、彼女は大声で叫んだ。
私は心の中では驚いているが、それをオモテに出さず
彼女を見つめていた。
「どうして・・・どうしてなの、・・・じゃあ、キスは・・・・・・あのキスも、嘘だったの?」
彼女は目に涙をたくさん溜めて、私を見ていた
心が、ギシギシと音を立てて
痛みを持っては、私を苦しめていた。
此処で引き離さないと・・・君を知らずに傷つけてしまう
優しくしてしまうと・・・いっそう、君を離したくないと
ジョシュアなんかに渡したくないと・・・束縛してしまう。
「・・・当たり前じゃないか。」
「!?」
「コレだから、お子様は遊びと本気の区別もつかないから困る。」
「ぁ、そ・・・び・・・」
「そうだよ、遊び。君をからかって私は遊んでたんだ・・・楽しかったよ、お嬢さん」
「・・・貴方って・・・っ」
すると、彼女は私に近づき手を振り下ろそうとした
パシッ。
「危ない危ない。綺麗な私の顔に傷でもついたらどうするんだ?」
「・・・っ、ぅ・・・さ、い・・・ていよ・・・貴方っ」
私は、彼女の振り下ろされた手を
いとも簡単に受け止め顔を近づける。
彼女は泣きながら、私を罵る。
本当は抱きしめてあげたい
その涙を拭ってあげたい
今までの言葉は嘘で、本当は君を・・・一番に愛してると・・・言いたいのに
心の奥底では、君と同じように悲しんでいる私が居るんだよと
信号を送っているけど、それもきっと今の君には
見えていないのだろうな。
私は、彼女の手をそのまま掴み
自分の元へと引き寄せた。
「そうだな、最低な男だよ・・・遊びだと気づかず私に近づいた君もバカだな」
「ぃ・・・イヤッ!・・・は、離してっ!!」
今は、こうやって最低な男を演じていれば君は私を離れていく。
それでいい・・・それでいいんだよ・・・グラハム、いや・・・怪盗フラッグ
「うるさい口だな・・・無理やり、塞いでくれようか」
「ぃや!・・・イヤッ・・・やっ、んぅ!?」
コレが、最後の君とのキスだよ
これで・・・君とサヨナラだ
ガリッ!
「っ!?」
すると、唇に激しい痛みが走る
突然その痛みに耐え切れず、こもった声を出して力が抜けたと同時
彼女が私を突き飛ばした。
「・・・はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」
「じゃじゃ馬が・・・私の口を噛み切ったか」
「もう、二度と・・・私の前に、現れないで・・・貴方なんか、貴方なんか・・・」
「 大 嫌 い よ 」
彼女は泣いて、私にそう言った。
唇の痛みよりも、心が痛い。
泣かないで
抱きしめてあげることのできない私を許してくれ
優しいキスをしてあげれない私を許してくれ
君を、君を
愛 す る こ と が で き な い 私 を 許 し て く れ
私は踵を返し、彼女とは反対の方向を歩く。
「Good-bye、My sweet princess...」
私は、唇を拭いながら・・・小さく、決して彼女に気づかれないよう呟いたのだった
私はその場に座り込み、泣きじゃくっていた。
「ぅっ・・・うぅ・・・ひっく・・・う・・・」
「おい、おい・・・大丈夫か?」
「ジョ、シュア・・・さっ」
「・・・泣くな、もう大丈夫だから」
すると、其処にジョシュアさんがやってきた。
私はジョシュアさんに抱きついて、彼の胸の中で泣いていた。
ごめんなさい、ごめんなさい
貴方とは違う人を愛してしまった私を許してください
貴方じゃない人を愛した、私はダメな子なんです。
ごめんなさい、ごめんなさい
フラッグ、それは貴方の本当の気持ちなの?
もし、違うなら・・・お願いです、私に逢いに来て・・・貴方を罵った私を許してください
「お疲れ様」
「カタギリ」
しばらく歩き、木の陰からカタギリが出てきた。
私はすぐさま彼に近づき、帽子を取り彼の肩に頭を乗せた。
「アレで・・・よかったんだよな」
「君なりの愛し方だから・・・僕がとやかく言う必要ないよ」
「・・・私は・・・最低・・・だな」
「グラハム」
こんな形でしか、君から離れることが出来なくて
もう君にどういう風に逢えばいいのか分からない
あぁ、時間よ
戻れるなら、戻ってくれ・・・彼女に出逢う前に
彼女に恋に落ちる前に、時間を戻してくれたら
こんなつらい思いをしなくてすむのに
「っ・・・く・・・クソッ・・・っ、ぅ・・・」
「僕見て見ぬフリするからさ・・・泣くだけ泣いたら」
「ぅ・・・クソッ・・・クソッ・・・っ・・・ぅぁああっ・・・あぁ、・・・ぁ・・・」
何年分の涙を流しただろうか?
もう覚えていなかった
こんなにも、こんなにも、一人の女性を愛して
愛してやまないのに、想いが・・・途切れてしまう辛さが
こんなにも苦しいなんて・・・
「ぁああぁっ・・・うぅ・・・ぁああっ、ぁ・・・すまなぃ・・・すま、なぃ・・・」
泣いて謝っても、もう彼女は私の側に居ない
零れた、涙と愛した気持ち
(手に入れた愛を今、壊して失くしてしまえ・・・想い出と共に)