「み・・・Mr.ブシドー」
「はい、何でしょうか姫?」
「ぃ、いえ・・・その特に意味は」
「姫は本当に面白い方ですね」
「なっ?!ぅ、・・・ぅううっ」
相変わらず姫様は、私と喋る時は
切羽詰ったような喋り口調だ。
いつも緊張しきって、上手く舌が回らない。
だが、普段の彼女はこんな風ではない。
大勢の人の前では、それはもう凛々しい御姿。
背筋を天にと伸ばし、崩れる事のない表情で明日を見据える大きな黒眼。
出す声には覇気さえも感じられるほど。
しかし、私と一対一になると・・・・・・
「姫は、私とお喋りするのが苦手ですか?」
「そ、そんなんじゃありません!・・・その・・・あのぅ・・・」
覇気すら感じられないほど・・・逆に言えば空気が柔らかくなる。
まるで人見知りをする子供のよう
いつも顔を真っ赤にして、私に喋りかけてくる姿は愛くるしい。
普段の彼女とはまったくの正反対なのだ。
「では、何故?」
「ぁ・・・あ、貴方と・・・話すと・・・」
「私と話すと」
「何を話せばいいのか、分からなくて・・・・・貴方のような、とても優しい人・・・今まで出会ったことがないのです。
だから、何を・・・話せばいいのか分からないし・・・何の話をすれば・・・貴方が喜んでくれるのかを・・・考えてしまうばかりで」
「姫」
彼女は、いつもそんな事を考えていたのか。
確かに、あの御館様を父に持つと、自然とどう接すればいいのか分からなくもない。
「姫・・・何でもいいんですよ」
「で・・・でもっ」
「姫の御言葉には、私は一言一句逃しはしません。私はもっと姫とお話がしたいのです・・・これでは、いけませんか?」
「ゎ、私も・・・もっと・・・貴方と、お話が・・・したぃ・・・です」
仄かに朱に染まる頬は、私の胸が早く鼓動を立てる証。
あぁ、貴女に仕える喜びは・・・私の至福とも言えるものです。
「姫・・・今度から、私の事を・・・”グラハム“とお呼び下さい」
「ぇ?」
「此れは一度は捨てた名です。今やこの名を知るものは数少ない・・・貴女様がそう呼んで下されれば
きっとこの名は生きてくる、生き続けると思います。」
「・・・・・グ、ラハム」
「はい、何でしょうか姫?」
恥じらいを含んだ声で、呼ばれた捨てた名前で
私は返事をする。
すると、彼女はホッとするように笑みを浮かべた。
「グラ、ハム」
「はい、お呼びですか・・・姫」
そして、また私の名前を呼ぶと嬉しそうに笑う。
一度は捨てた名
だけど、貴女からもう一度呼ばれれば、きっとこの名は生き続けるだろう
そう、永遠に・・・貴女の中で
普段の貴女は誰もが知ってる
だけど、本当の貴女は、私しか知らない
此れこそ・・・・・・
仕える者の特権
(誰も知りえないだろう、本当の彼女の姿を)