「知ってるかい?」
「何がだ?」
「姫様に縁談の噂が流れてきてるらしい」
「は?」
思わず弓を引いていた手が狂い、矢は的の外を射抜いた。
私は弓を収め、私の友人かつ参謀役のカタギリに顔を移した。
「見事に外れたね」
「どういうことだ、カタギリ」
「何が?」
「姫様に縁談の噂が流れてるというのは」
「あれ?知らないの?・・・姫様に仕えている君が知らないはずないと思ったんだけど」
「そんなの一つとして聞いていない・・・相手は誰だ?」
「さぁ・・・僕も其処まで。・・・でも、縁談の噂は本当だよ」
「・・・・・・・・」
「グラハム?」
文から、ようやく話すようになった。
でも、縁談するという話も、相談も私にはされていなかった。
何故?
「まぁ、あくまで・・・噂だし」
「しかし・・・っ」
「あんまり気にすると、御館様にまた怒鳴られるよ。この前も姫様の事考えすぎて
御館様に叱責されたそうじゃない・・・君、何だかもう家臣の範囲を超えてきてるような気がしてるんだけど」
「・・・かも、しれないな」
「え?」
私がそう呟くと、カタギリが驚いた表情を見せていた。
「ちょっと、グラハム・・・それは」
「分かっている・・・分かっているさ。此れが許されるものではない事くらい」
「だったら・・・まだ後戻りは出来るよ。今此処で姫様への想いを断ち切らないと」
「もう、無理だ・・・無理なんだよカタギリ。私は・・・・」
彼女のへの想いが溢れすぎて
文にも、全て彼女のへの想いを書き綴っている。
好きだ、愛しているという表現はしていないものの
それに似た表現をしている。
「止められないんだ、もう・・・」
「グラハム」
「一国の姫を愛してしまった私は・・・きっと地獄に落ちるな」
きっと、縁談の相手が決まっているのであれば
死んでも構わない・・・あの方を誰かに取られるくらいなら
いっそ縁談相手を殺して・・・私も死ねばいい。
だが・・・この後に起こる事に、私はまだこの時は気付いていなかった。
ただ、縁談の噂があったというその事実に少し落ち込んでいた。
縁談の噂
(これが最悪の事態を招くとは誰も知る由もない)