「姫・・・今、何と?」
「・・・っ・・・聞けないんですか?此れは、”命令“ですよ」
「し、しかし・・・っ」
ある日のこと、私は姫に呼ばれ、彼女の目の前で跪いた。
滅多に、彼女は私を呼んだりしない。
何事かと思い、急いで私は姫の御前に向かった
すると、姫はとんでもないことを口走ったのだ。
「グラハム」
「はい、何でしょうか姫?」
「私を・・・・・・」
「?」
「私を、攫ってください・・・此れは”命令“です」
そして、最初に戻るのだ。
あまりに突然の事で、私は驚きを隠せない。
「姫、いけません。いくらそれが命令であったとしても」
「聞けないというのですか、グラハム。・・・姫の命令です!私を・・・私を」
「姫落ち着いてください、何があったんですか?・・・私に理由をお聞かせください」
「理由など話す必要はありません!・・・お願いです、今すぐ、今すぐに・・・っ」
まるで、泣き縋るように姫は
私に訴えかけてきた。
「もぅ・・・もう、イヤ・・・イヤなんです・・・私は、此処から・・・貴方から離れたくない・・・っ」
「姫」
抱きしめたい
それだというのに・・・これは許される事なのか?
いくら命令と言えど、決して許されるものではない。
この世で愛してやまない・・・貴女を、攫うなんて
「姫、やはり・・・いけません。・・・いくら、それが命令だとしても・・・その命令を受け入れる事は私には出来ません」
「グラハム・・・ッ」
きっと分かっている
数日前にやってきた縁談の話。
それがこの方の望むものではないはず。
ようやく、互いに”好き“だと文を交わす程度ではあるが
気付いてきた。
いや、もう私は随分前から・・・この方に・・・恋慕を抱いていた。
武将としてではなく、一人の男として
一国の姫様としてではなく、一人の女性として・・・彼女を見ていた。
だが、身分の差が私と彼女の間に隔たっていた。
攫いたい・・・攫いたい・・・攫いたい・・・だけど、それは叶わない事。
決して・・・許される事ではない。
「グラハム」
「姫」
すると、姫は泣きそうな顔で私を見て・・・・・・
「では、命令ではなく・・・一人の女性として・・・私を攫って・・・姫としてじゃなく、そして命令としてじゃなく・・・」
「姫・・・貴女と言う人は・・・」
なんて、狡(ずる)い人なんだ
命令範囲外の命令
(命令としてではなく、命令という名のお願い)