「姫様ー!姫様ー!!」

「姫様、どちらに行かれたのですか!?」

「おい、姫様は見つかったか?」

「いや、まだだ・・・姫様ーっ!!」




「・・・グラハム・・・まさか・・・っ」




「姫はまだ見つからんのか?!」

「ほ、報告します!!・・・馬小屋で黒馬が一頭居なくなっておりました!!」

「黒馬・・・じゃと?」












「Mr.ブシドーの・・・黒馬が・・・その・・・居なくなっておりました・・・っ」









グラハム・・・やっぱり・・・君・・・・・・・・・。
































「大丈夫ですか?・・・姫」

「はい、何とか」

「振り落とされないようしっかり掴まって下さい」

「はぃ」





そう言って私は、馬の手綱を引いて再び馬を走らせた。

黒馬の鬣(たてがみ)が、漆黒の闇に揺れ、月明かりで揺ら揺らと輝く





姫の腕が私の腰に絡みつき、背中に付き
彼女の温度に、心臓の鼓動は早く動く。





もう随分と馬を走らせた。


城から抜け出し、姫の願いどおり私は連れ攫った。



多分今頃城中では大騒ぎになっているに違いないだろう





馬の軽快な足音が森中に響き渡る。





「少し、休憩しましょう」

「はぃ」







そう言って、馬を今度は歩かせ、小さな川辺へと出た。

私が先に馬から降り、すぐさま姫を降ろした。




姫は月が映った川を見た。





「今頃・・・」

「そうですね・・・きっと、城中が大騒ぎですね。今度こそ私は叱責だけじゃ済まされないでしょう」

「そんなっ・・・グラハムッ!」

「姫・・・」









すると姫は私に抱きついてきた。

分かりきっていた事だろう・・・こうなる事くらい。



彼女に触れてしまえば、彼女を攫ってしまえば、私を待っているのは”死“だけだと。







「貴方は、貴方は何も悪くありません・・・っ、悪いのは全部私なの・・・貴方は悪くないわ」

「それでも、貴女様を攫ってしまった事には変わりはありません」

「でも・・・っ・・・貴方から私は離れたくない」

「姫」









月がゆっくりと、雲に隠れていく。

そして、辺りを闇が包み込む。



今なら・・・許されるだろうか・・・誰も決して見ていない

人も、空の月も、星も・・・今は雲が全て隠してくれた。








今なら・・・・貴女との間にある、その身分が消え去ったと感じれた




私は顔の半分を覆い隠していた、仮面を外す






「グラハム・・・」

「今なら、貴女と同じ立場でいれる・・・武士や姫としてではなく、一人の人間として」













愛 す る 貴 女 の 前 で










「本当の私を見て欲しい」

「グラハム・・・っ」






そっと、彼女の手が私の目元に触れる。


火傷や傷だらけの・・・目元に触れた彼女の手・・・とても優しくて、温かい。


私はそんな彼女の手を握る。





「心から愛しています・・・貴女を」

「私も、愛してるわ」





今なら、そう許されるだろう


貴女と一つになりたいと望んだ・・・私の気持ちも


闇に隠れてしまえば、決して何も分からないはずだから。






身分差を埋める

(その差を闇は埋め、隠してくれるはずだから)





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