「ねぇ、グラハム・・・その眼鏡、どうにかしてくれない?」
「ん?似合わないか?」





化学準備室が私の唯一の安らぎ場所だ
物理と化学の教論で旧友のカタギリがくつろいでいる私に話しかけてくる





「だって、君・・・視力いいだろ?かける必要ないと思うけど」
「この方が知的に見えるじゃないか、これでも教師だからな」




元々、視力は良い方で眼鏡をかける必要はない
だが教師=眼鏡っていうフレーズがどうしてもしてみたくて
このようになったのだ。




「君の中で、眼鏡かけてる人間は皆知的なのかい?」
「そうではないが・・・しかし、勘違いされやすいんだ。眼鏡をかけていると」
「それはそうだろうね。普段付けてる人間が外してると、目が悪いと思われてるからね。」
「だからそのとき、生徒に聞かれるんだが私はこう切り替えすさ・・・コンタクトをしてるんだって」
「アハハハ、いい逃げ道。」





そう言ってカタギリと他愛もない話をする





「ところで、君は彼女と、さんだっけ?逢う時はそれは外すのかい?」
「コレか?・・・状況によるがな」
「何それ?」




肩眉を吊り上げて、私に問いかける。




「普段会うときはかけてる」
「それはだって、学校だからね。」
「でも、キスをするときは邪魔だから外す。しっかりと彼女を目に映したいからな」
「君の眼鏡は度が入ってないから付けたままでいいじゃないか」
「邪魔なんだ、これが・・・あっ」





すると、私は外していた眼鏡を手元から滑らせ
床に落ちて・・・







ガシャン、パキッ!







「あ、割れた。」





打ち所というか、当たり所が悪かったのか
眼鏡がフレームからはずれ、レンズが割れた。
そして、数秒して私は思い出した




「しまった!次・・・授業だった。」
「彼女のところ?」
「別のクラスだが・・・持ち合わせがない。」
「家には?」
「ある。今から車すっ飛ばしても時間内には戻ってこれないな」
「どうするの?」
「ぅ〜ん」














「失礼します・・・アレ、エーカー先生どうしたんですかこんなところで?」






すると、其処にがやってきた






「何故君が此処に!?」
「次授業だから、問題集を取りに来てもらったんだよ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。あの、それで・・・どうしてエーカー先生まで・・・」




すると、カタギリはニコニコしながら



「ねぇ、何か彼のおかしな所に気づかない?」
「おかしな所?・・・そういえば、眼鏡・・・は?」








パキッ!!






「ぁ、」
「追い討ちかけられたね、グラハム」
「あぁ、これじゃあ使えない」







すると、がレンズを踏みつけてしまい
跡形もなく粉々に砕けた。
多少のヒビなら何とか修復できたのに、コレじゃあ使い物にならない






「あ、あぁあ・・・私・・・その・・・ごめんなさいっ、エーカー先生!!」




彼女は焦って割れたレンズを拾おうと屈んだ
私はため息を付いて肩膝をついた



「いや、いいんだ。すぐにレンズを拾わなかった私も悪い・・・危ないから触らないほうがいい」




下手に拾って伊達眼鏡だとばれたらかっこ悪い
しかも相手がなら尚更ダメだな。




「ご、めん・・・なさぃ・・・」




まるで子猫のように彼女は目に涙を浮かべながら
私に小さな声で謝った







あぁ、カタギリが居るがこのまま抱きしめたい



すると、私は思いがけない事を思いついた。





「そうだ。なぁ、今日残り半日・・・私の目になってくれないか?」
「グラハム、君は・・・むぐっ!?」



何か口出しをしそうだったので、私はカタギリの口を手でふさいだ





「え?それって・・・あの、私が先生の眼鏡代わりになるってことですか?」
「家に替えがあるんだ。あぁ、もちろん君が帰るまででいいんだ、弁償もしなくていい。」
「わ、私に勤まりますか?」
「君が目になってくれるんなら、私はそれで満足さ。な、いいだろ?」



そう言うとは「わかりました」とだけ答えた。

たまには役に立つな、眼鏡も。




「じゃあ、すまない・・・3年生の教室まで連れて行ってくれないか?」
「はい。じゃあカタギリ先生・・少し遅れますね。」
「気をつけるんだよ・・・」





そう言って、私と彼女は準備室を出た











「先生、見えますか?」
「ぼんやりとなら」
「そうですか・・・すいませんでした、眼鏡。」



あぁ、もう頼むからそんな顔しないでくれ
本当にこの場関係なく抱きしめてしまうぞ



「もういいから、気にしてないよ。そんな悲しい顔しないで」
「でもっ」
「まったく、仕方のない子だ」
「へっ・・・きゃっ!?」




私は死角に彼女を追いやり、覆いかぶさり
おでこを合わせ顔を近づける




「せっ、せんせ」
「ホラ、見える・・・君の顔、綺麗な瞳と形のいい唇、君の息遣い・・・全部だから、大丈夫だよ」



本当は最初っから全部見えてるんだが
此処までしないとはまた悲しそうな顔して私を困らせる




「此処まで近づいたら君が見えるな」
「せ、んせっ・・・誰か来たらっ!!」
「もうすぐチャイムが鳴るな、さぁ早く私を3年生の教室まで連れて行ってくれ」
「は、はぃ。」






そう言って、その日半日彼女を私の眼鏡代わりにさせた
でも楽しかったよ、君とずっと居れたから。


え?でもまだ喋らないよ
私が本当は視力が良いって

ほら、よく言うじゃないか


大人の事情ってものがあるんだよ


まだ、コレは使いようがあるからね

さて、今度はいつ眼鏡を壊して彼女の側にいてやろうか








大人の事情






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