「あー暇だ。」
「暇だったら、職員室で仕事すれば?・・・こんなところでだらけてないでさぁ」
「職員室は堅苦しくて嫌だ。それに此処のほうがくつろげる」
「やれやれ」
次の授業がないことを理由に、私は化学準備室に居座っていた
一方、準備室の主であるカタギリは次の授業の支度をしていた
「授業が?」
「そうだよ・・・さんのクラスのね」
「何ッ!?」
彼女というのは、私の恋人である・・・・そして学校の生徒だ。
「危ない実験じゃないだろうな?」
「うーん・・・まぁ、薬品とガスバーナー使うから・・・少し危ないかも」
「怪我させるなよ」
「あのね・・僕に言われても困るんだけど・・・実験するのは生徒だからね。」
キーン、コーン、カーン、コーン
すると、チャイムが校内に鳴り響く
「じゃあ、僕行くけど・・・絶対に出てきちゃダメだからね」
「分かっている」
「もし、万が一彼女が怪我をしたとしても出て行っちゃダメだからね」
「善処する」
カタギリは私に忠告して、準備室の隣にある化学実験室に移った
まぁ彼女の事だ、怪我なんてするはずないと思い私は再びそこでくつろぐのだった
「はい、じゃあ今回は少し危ない薬品使ってるから気をつけてね。」
化学の授業で、今日は少し危ない薬品での実験が行われる
「じゃあ、薬品を取りに来て。危ないから気をつけて、自分の班に持っていくんだよ」
カタギリ先生の指示で、私は先生のところに薬品を取りにいく
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます」
「怪我、しないようにね」
「え?」
すると、カタギリ先生が小さな声で私に言ってきた
「油断すると、小さな爆発が起こって大怪我しちゃうから」
「あのっ・・・カタギリ先生?」
「グラハムに言われてるんだ・・・」
「あー・・・それで」
エーカー先生に脅されてるんだ・・・可哀想なカタギリ先生
私は笑みを浮かべながら班に戻っていき、実験が始まる
「薬品をバーナーで熱して・・・あまり近すぎると試験管が割れるから注意してね」
私は少し火から離して試験管を熱していた
「沸騰遅いなぁ〜・・・ねぇ、もうちょっと近づけたら?」
「えっ、でも・・・」
すると、友人が火に試験管を近づける。
試験管の中に入った薬品はすぐさま沸騰する
「ホラ、沸騰してきた!」
「そう、だけど・・・危なくない?」
「平気平気。あ、私他の班も見てくるね」
そう言って、友人は他の班の様子を見に行った。
私はため息をつきながらも、薬品を温める
「(もう、すぐ私に押し付けるんだから)」
心の中でそう思っていても、敢えて口には出さずにいた
ピキッ!
「え?」
試験管から、ヒビ割れるような音がした次の瞬間・・・酷い痛みと、熱が私の手に降りかかった
パン!---パリンッ!!!
突然、隣からガラスが割れるような音がした
私は思わず立ち上がり、実験室を覗ける小窓を見た。
『大丈夫!?』
『えっ・・・えぇ、まぁ』
彼女の近くにカタギリがいる・・・そして彼女の表情がとても苦しそうだ
私は彼女の手元に目線を移すと・・・手からは大量の血が流れていた
『ご・・・ごめんなさい!・・・私が、もう少し試験管近づけたらって・・・』
『まったく、気をつけなさいと言ったでしょう・・・出血が多い、保健室に行ってきなさい』
『は、はぃ』
『私も付いて行きます』
カタギリに促され、彼女は実験室を出て行った
私はいてもたってもいられなくなり、準備室を駆け出した。
「はい、どうぞ。・・少し、出血が多くて火傷もしてましたけど、大事には至らなかったので安心してください」
「ありがとうござます、ラルフ保健医(せんせい)」
「ごめんね、本当に」
友人は謝ってくるが、私は気にしないでと言った。
「君は授業に戻って、先生にこの事を報告しなさい。貴女はしばらく安静」
ラルフ保健医はにっこりと笑って、友人を授業に戻した。
「あ、そうだ。火傷に効く塗り薬があるんです・・・別室にあるんで、取って来ますね」
「ありがとうございます」
そう言って、保健医は保健室を出て行った。私1人でそこにいると・・・
ガラッ!!!
「大丈夫か!?」
「っ・・・エーカー先生!?」
すると、突然エーカー先生が保健室にやってきた・・・あまりの事で私は驚く
「せ、先生!?・・・どうしてっ」
「君が、怪我をしたから・・・飛んできた」
「授業は?」
「今は、ない」
「あのぅ・・・何故、私が怪我をして保健室に居るって・・・分かったんですか?」
「ぃや・・・あの・・・それは・・・」
先生は目を泳がせながら、焦っている
もしかして、この人・・・隣の準備室に居たんじゃ
でも、先生は私のことを心配して来てくれたんだ
「怪我は・・・大丈夫か?」
すると、先生は私の手を優しく握ってくれた。
それはまるで、ガラスを扱うみたいに
「えぇ。出血が少し多くて、火傷してましたけど・・・大事には至らなかったので大丈夫です。」
「そうか・・・よかった。」
先生はホッとした表情で肩を撫で下ろした
「まだ、痛むか?」
「えぇ・・・まぁ」
「じゃあ、私が痛くならないよう魔法をかけよう」
笑みを浮かべながら、先生は私の怪我した手にキスをした
「先生っ!?」
「子供によくすることだ、安心しろ」
「フツー・・・しませんよ」
「痛くならないよう魔法をかけたんだ、これでもう大丈夫だからな。」
先生はそう言ってまた、笑った
魔法、の効き目は絶大で
痛みなんか吹っ飛んでいくくらい
私の手には先生の触れた熱が残っていた。
とっておきの魔法
(触れた唇の感触が熱を帯びて、痛みを忘れさせてくれた)