古(いにしえ)より、神々の間では赤い眼は不吉を呼ぶと言われていた。
いつしか、それは、その国一帯で言い伝えられ
今でもその赤い眼をした者を怖がる傾向が見られている
----ザザッ
「ひぃっ!?・・・貴様、その・・・眼・・・っ」
「これか?・・・怖いか、この眼が」
「私の赤く染まったこの右眼が」
「不吉だ・・・貴様の存在こそがっ」
「どっちが不吉なんだか・・・お前のやってきたことのほうがよっぽど不吉だよ」
「何だと!?」
「そうか・・・この私に口答えをするつもりか・・・いいだろう、我が崇高する神の名の下に」
「やめろ・・・っ、やめてくれ・・・っ!!」
「命の灯火よ、今・・・空へ還るがいい」
「セトホルス?・・・何ですか、それは?」
「おや、ちゃん・・・知らないのかい?」
とある、砂漠の町に一人の旅芸者が商人と他愛もない話をしていた
「盗賊集団だよ・・・此処一帯、いや国全土じゃ知らない奴はいないさ」
「盗賊、集団・・・ですか。」
商人はケラケラ笑いながら、に話を続けた。
「セトホルスの由来は、エジプト神である嵐と砂漠の神・セト。それから
天空の神・ホルスから来たって言う噂だ。」
「へぇ、ちゃんと神様の名前に因んでるですね。」
「そのセトホルスのリーダーって言うのが・・・金髪で、左眼が碧で、右眼が赤いんだよ」
「右眼が赤ですか?」
商人はに小声で喋り始めた。
はワケが分からなかったが、耳を澄ませながらその話を聞いていた
「あぁ。さっきもセト神の話はしただろ?」
「はい・・・嵐と砂漠の神様だって」
「だがな・・・そのセトっていうのが、赤い眼をしていたんだよ。」
「え?」
「昔から、赤い眼をした者は不吉を呼ぶとされて・・・皆から怖がられてるんだよ。」
「じゃあ、そのリーダーも?」
「あぁ、赤い眼をしてるっていう噂さ。・・・ま、デマかもしれないけどな」
「そうですか。」
「これから、北の方に向かうんだろ?気をつけるんだよ、ちゃん」
商人が話を終えると、に気をつけるよう促した。
話を聞き終えるとは商人に、にっこりと笑って見せた。
「大丈夫ですよ、夜までには町に着くと思うので・・・おじさんありがとう、心配してくれて」
「いやぁ〜ちゃんの踊りは、皆大好きだからね。気をつけるんだよ」
「はい!・・・あ、お水ありがとうございます。数少ないのに、分けてくださって」
「いいんだよ〜。ちゃんにはいつまでも輝いてほしいからね。じゃあね」
「えぇ。」
そう言って、は日差しから肌を守るように布を纏い、商人と離れた。
が去った後、話していた商人とは別に、他の商人たちが集まる
「元気だね、ちゃん」
「あぁ、何たって<砂漠の花>だよ。彼女の踊りは渇きを潤すほど美しいからね」
「人々の癒しだよ。俺たちの活力でもあるけどな」
「次は、何日後に来てくれるだろうな?・・・いや、何ヵ月後だろうな?」
「考えるな。・・・とりあえず、次彼女が来るまでの辛抱だ!頑張るぞ!!」
「「おう!!」」
そう商人たちは誓うのだった
「うわぁ〜・・・それにしても、熱いなぁ・・・」
町を離れ、砂漠地帯を一人歩く。
炎天下の中、は黙々と次の町へと足を進めた。
砂漠地帯の上、草1本と生えてはいない・・・ましてや花なんて咲いてもいない
ただ、ただ砂の地平線だけが続いていた。
「今日中に次の町に着かなきゃ・・・夜は盗賊さん達が動き回るんだから・・・ん?」
は照りつける太陽を見て、目線を地表へと戻すと
「あ、・・・珍しい、花が咲いてるわ」
珍しいことがあるものだ
砂漠のど真ん中に懸命に咲いている花をは見つけた。
すぐさまその花の元に彼女は近づき、マジマジと見る
「凄いな・・・こんな熱いところに花が咲くなんて・・・あ、そうだ・・・お水あげよ」
は、商人から貰った水を花に与えた。
水を与えてもらったのか、花はうな垂れていた茎をピンと伸ばした。
「あ、生き返ったみたい・・・たくましいね、お前は。」
は、花に微笑み、話しかけた。
-----ドドドドドド・・・
すると、地平線の向こうから凄まじいまでの足音が聞こえてきた。
は立ち上がり足音の聞こえる先を見る。
砂埃を立てながら、馬が走ってくる。
しかも、馬の上には人が乗っている・・・先頭を走る馬は黒い鬣を揺らしながら走る黒馬
いかにも偉い人が乗るような馬だ
「凄い音・・・何か、急いでるのかしら?」
は首をかしげながら、その集団が自分の横を去っていくのを見た。
あっという間に、集団は横を通り過ぎ先ほどが居た町に向かっていく
「やだ。・・・こうしちゃいられない、早く行かなきゃ!・・・あ、お前もおいで。こんなところじゃ死んでしまうわ。」
は土に埋まった花を砂ごと掬い上げ、大き目の布袋の中に慎重にしまい込み、止めていた足を再び動かしたのだった
-----ザザッ。
先ほど、の横を通り過ぎた集団の先頭を走っていた
黒馬の主は手綱を引いて動きを止め、後ろを振り返る。
「・・・・・・」
「?・・・どうしたの?」
黒馬の横を走っていた、多分次に偉い人物が彼に尋ねる
だが、黒馬の主は・・・
「・・・いや、何でもない・・・行くぞ。」
そう言葉を濁して、馬を走らせた。
彼は金色の髪をして、左眼は新緑よりも深い碧色
そして、右眼には黒い眼帯がかけられていた
乾き潤う一輪の花に
赤眼の神は恋をした
(去り際に見た、あの華麗な花は一体?)