天空の神・ホルスは
エジプト王・オリシスの息子であり
次期王位争いで叔父であるセトと争い、王位の座を奪った
また、戦いの神として彼は古より皆から慕われている
「・・・ぅ・・・ぁ」
目が覚めた
天井は、布で覆われている
あぁ、テントなんだね此処。
「あぁ、目が覚めましたか?」
「・・・ぇ?」
すると、私の隣に黒髪のメガネをかけた男の人が
にこやかに声をかけた
私は勢いよく起き上がった
「・・・な、何・・・此処っ?」
「ちょっと待ってくださいね。・・・リーダー、彼女目を覚ましましたよ」
「そうか・・・すまないな、ラルフ」
すると、ラルフと呼ばれた男の人は外に居る
リーダーを呼んだ。すると、その人はテントの中に入ってくる
黒い布を身に纏った・・・金髪碧眼・・・右眼に黒い眼帯をしていた。
あ、この人・・・私を助けてくれた人・・・それだけは1発で分かった
リーダーさんはすぐさま隣に着き、片膝をついて私の顔を窺う
「目が覚めたみたいだな。」
「は・・・ぃ」
「体の痺れは?」
「・・・ぃ、今のところ・・・大分無くなりました」
「そうか。何よりだ」
その人は、にっこりと私に微笑んだ。
あまりに綺麗な顔して微笑まれるから私は恥ずかしくなり、顔を伏せた
「自己紹介が遅れたな・・・私は、グラハム・エーカー。・・・このセトホルスのリーダーだ。」
「セト、ホルス・・・!!!・・・と、盗賊っ?!」
聞き覚えのある名前に私は思わずゾッとした
あの、男たちと同じだと思うと・・・・背筋が凍る
触られるのも・・・嫌。
「怖がらなくてもいい。私たちは盗賊たちを取り締まってるようなものだ」
「え?」
盗賊が盗賊を取り締まる?
「物取りや、殺人等は一切行わない。残虐非道な盗賊たちを私たちは懲らしめてる・・・セトホルスとはそんな集団なのさ」
「そう・・・だったんですか」
でも、商人たちは盗賊と言うだけで怯えていた。
やっぱり悪い人たちなのかなと思ったけど・・・この人や私を診てくれたラルフさんという人を見ても
どうにも悪い人たちには見えない・・・第一印象で決めるなってよく言うけど
グラハムさんの喋り口調とか、話を聞いてる限りに悪い人には見えないことが窺える
「・・・あの、どうして、私を・・・」
「ん?・・・あぁ、そうだな・・・しいて言うなら、拘束したい」
「え?」
今、何て・・・
「ぁ、あの・・・仰ってる意味が・・・」
「せっかく助けたんだ・・・それなりの代価は払ってもらわなければ困る」
「それで・・・私を、拘束・・・ですか?」
「いけないかな?金を払うより、君自身が私の側に居ればそれでいいんだよ。別に体目的じゃないから安心してもいい」
「あの、それじゃあ・・・私の自由は」
「奪われたと思ったほうがいいだろう・・・安いものだろ?これくらい」
グラハムさんはニヤリと口端を上げ、笑みを浮かべながら私を見ていた
そうか、やっぱり・・・この人も・・・
「・・・分かりました・・・」
悪い、盗賊と変わらないんだ
それから、私は自分の殻に閉じこもるようになった
「どうして、あんな事言ったの?」
「カタギリ」
テントから出ると、私の右腕的存在で
集団の参謀役でもあるビリー・カタギリが私に言葉を投げかけた
「何のことだ?」
「彼女のことだよ・・・<砂漠の花>・って言ったら有名な旅芸者だよ」
「彼女の・・・の事がどうしたって言うんだ?」
私はオアシスに水を飲みに、テントから離れる
後ろをカタギリが付いて歩いてくる
「どうして、条件なんかだしたの?」
「・・・・・・」
カタギリの言葉に、私は進んでいた足を止めた
「素直に、好きですって言えばいいじゃない」
「・・・言える訳、ないだろ」
「まだ、根に持ってるの・・・その右目・・・」
「別に、そうではないんだが・・・そうでもしなきゃ・・・」
彼女は蝶のように何処かにまた飛んで行ってしまいそうで
そして、この忌まわしい右目を見てしまえば
「縛り付けておかなきゃ・・・ダメなんだ」
「グラハム」
「あの子が辛いように、私だって・・・辛い・・・」
あの子の前で優しい自分を見せてはいけない
今、見せてしまえば確実に私自身が彼女を求めてしまう
優しくしてはいけないんだ・・・一人の男として、そして・・・
「この集団のリーダーとして・・・忌まわしい呪縛を背負わされた者として」
そう言って、右目に掛けていた眼帯を外す
オアシスの水面に映った自分を見る
左眼は新緑よりも深い碧色
だが、右眼は血のような赤色
「嵐と砂漠の神、セトの赤眼を・・・不吉を呼ぶとされる呪われし眼を受け継いだ者として」
今、私は彼女に優しくしてはいけなんだ
それぞれの想いを胸に
(花は水を失い枯れ、神は己の想いを閉じ込めた)