赤眼の神は花に恋をした
だけど、今は想うだけしか出来ないけど
いつか、いつか伝えようと心に決めていた
「(・・・・・・遅い・・・・・・)」
私は、が踊りをするために
テントをこっそり抜け出して行くのを暗黙の了解だった
だが、何だか今日はやけに戻ってくるのが遅かった
私は体を起こし、外套を羽織って外していた眼帯を付け
が踊っているオアシスへと向かった
この前同様、木の陰からの様子を窺っていると
何だか様子がおかしい。
何かを探すように、せわしく地面を掻き漁っている
の表情は今にも泣きそうな表情
一体どうしたって言うんだ・・・?
私は居てもたっても居られなくなり、木の陰から出た。
あたかも偶然を装って
「・・・どうした?」
「あ、グラハムさん・・・ご、ごめんさないっ・・・テント勝手に抜け出して・・・で、でもっ・・・今、どうしてもテントに戻るわけには」
「分かった・・・分かったから、理由を話してごらん」
私は片膝をついて、の顔を見る
彼女の顔は涙がたまっていた。
「お守り・・・なくしちゃったんです・・・」
「お守り?」
「はい・・・アレ、肌身離さず持ってたんですけど・・・気づいたら、無くなってて・・・」
「私も一緒に探そう・・・特徴は?」
そう言って、私も砂を掻き上げ彼女の手伝いをする
「・・・赤褐色で・・・薔薇の・・・形をした・・・石なんです」
え?
もしかして・・・それは・・・
私は、腰に下げていた袋から、あるものを取り出し
の前に差し出す。
「コレのことか?」
先日拾った、デザートローズ
赤褐色で、薔薇の形をした鉱物と言ったらコレしかない
「あ・・・あった・・・何処で、コレを・・・」
「あそこの、木陰に落ちてたぞ」
「よかった・・・・よかった・・・っ」
見つかったのか、はホッとした表情で
私からデザートローズを受け取った。
受け取るなり、彼女は手の中でそれを包み込んだ
「お守り、なのか?」
「亡くなった両親の形見です・・・唯一コレだけが残って・・・」
「そうか。大切なものなんだな、にとって」
「はぃ・・・ありがとうございます、グラハムさん・・・お礼、って・・・私、お礼できるもの何も持ってないや
タダでさえ、グラハムさんに拘束されてるのに・・・。」
は苦笑しながら、私を見た。
お礼・・・か
すると、私はあることを思いつきの手を握り
キスをした。
「グラハムさっ・・・!」
「じゃあ、踊って」
「え?」
「私のためだけに、君の舞いを見せておくれ・・・石を見つけた代価はそれでいい」
「で、でもっ・・・」
「・・・踊って・・・私のためだけに」
誰の目にも映さないで
誰かの前で、踊らないで
ずっと、ずっと・・・私のためだけにその踊りを見せておいて
「・・・はぃ・・・」
は顔を真っ赤にして、立ち上がり、踊りを始めた。
本当に美しかった
夜に輝く、星よりも、月よりも、指先からつま先まで
しなやかに流れる動きが、の表情が、何よりも美しかった
いつまでも、いつまでも、見ていたい
いつまでも、いつまでも、側においておきたい
「・・・グラ、ハムさん・・・終わり、ましたよ?」
「あぁ、素晴らしかったよ・・・」
私は立ち上がり、彼女に近づく
は私の言葉を聞くなり、照れくさい表情を浮かべる
「一人の人に見せるのって初めてで・・・凄く緊張しましたけど、グラハムさんに見てもらうととても安心しました」
「・・・え?」
「貴方の優しい眼差しが、私には凄く心地いいんです。」
私の眼差し・・・が
そうか、そうなんだな・・・
私は、の言葉を聞くなり
彼女の腕を引っ張り、自分の腕の中に収めた
「グ、グラハムさん!?」
「・・・私は、こんな気持ちが初めてなんだ」
「え?」
「些細なことで、花を縛り付けて、水を与えなかった。でも、心を開けば、いつか花に水を与えれると信じていた。」
「グラハムさん」
「恐ろしかったんだ・・・自分自身、君に全てを知られるのが・・・そして、この眼帯の奥の眼のことも」
「やっぱり、何かあるんですか?」
は心配そうな顔で、私の右目の眼帯に触れた
「話してくれませんか?・・・その、右目のこと・・・」
「今は・・・ゴメン、話す勇気がない・・・でも、いつか・・・いつかきっと!」
赤眼の神と同じ眼の色をした、赤い色の眼の事も、何もかも全部
「話すよ、必ず。」
「約束・・・できますか?」
「あぁ、もちろんだ」
そう言って、私は優しく彼女のおでこにキスをした
「グラハム、さん」
「おでこじゃ不満だろうが、今はコレで許してくれ・・・これ以上、私は君に触れる権利はない」
「で、もっ」
「・・・大丈夫、私はずっと君だけを想い続けるから・・・君が私の側に居る限り、ずっと・・・。」
頬に優しく触れると、は優しく微笑んだ
いつかきっとこの赤い眼の事を話すときが来る
きっと、君は怖がるかもしれない
それでもいい・・・今、君が私の側で幸せで居るのであれば
赤眼の神、セトよ
貴方でも恋をしたことがありますか?
貴方の眼を受け継いだ私は、今とても心が熱いです
どうしてかって?
砂漠に咲く、一輪の美しい花に心奪われたからですよ
きっと貴方もそんな人に出会って恋をしたのかもしれませんね
隠された赤い眼に映る、いつかの美しい人へ
(赤眼の神よ、どうか愛する手を止めないで)