『恭弥お兄様』
「千夏・・・どうしたの?」
ある日、僕の携帯から遠縁である千夏から電話があった
千夏は昔から僕の性格などを知っているから、直接話そうとせず
こうやって電話やメールといった手段で連絡を入れてくる。
だけど、電話をかけてきたのは本当に久しぶりだ。
『お姉様、ご存知ありませんか?』
「?・・・なら、来てないけど・・・それに今学校でしょ?違うのに何で電話なんかしてくるの?」
そう、今は学校の時間
それだというのに、が並中に来ている訳がない
『最近、お姉様をお見かけしてないんです』
「見かけてないって・・・どういうこと?」
『私にもよく・・・ただ、担任の先生にお伺いしたら、しばらく欠席させて欲しいとお家の方からお電話があったそうです』
「・・・・・・・・・」
『お兄様、何か心当たりございませんか?』
が学校を休むなんて、今までなかった。
風邪を引いたときもあったけど、それはすぐに治るものだったし
しばらく欠席って・・・どういうことだ?
「ごめん、僕も分からない。・・・とにかく、の家に行ってみるよ、ありがとう千夏」
『いえ。ではお兄様失礼いたします』
そう言って、僕は携帯を閉じ
踵を返して、家で引きこもっているに逢いに行くことにした。
--------ピンポーン!
「あがるよ」
「・・・・恭弥様、いきなり上がりこむなら、インターフォン鳴らした意味ないでしょう」
の家に行き、インターフォンをとりあえず鳴らして
そのまま家に上がりこんだ。
すると、の家の無能執事がやってきた。
「うるさいよ、無能執事。咬み殺されたいの?」
「勘弁してください。ただでさえ、お嬢様のことでも充分悩んでるんですから」
「やっぱり、・・・どうかしたの?」
「どうもこうも、此処最近お部屋に篭りっぱなしで」
千夏の言うとおり、どうやらは引き篭もっている
その原因もどうやらコイツですら分からないらしい
「とにかくに逢わせて」
「いや、でも」
「逢わせろ・・・僕は逢う権利がある」
「ですが、恭弥様・・・今お嬢様は・・・っ」
「あれ、恭弥どうしたの?」
「」
「お嬢様っ!」
すると、目の前にの姿があった。
いつもどおりな表情をしている・・・が其処に立っていた。
そして、にこやかに僕に近づいてきた。
「どうしたの、恭弥?」
「・・・千夏、から連絡貰って・・・学校休んでるって」
「千夏ちゃんが?もうあの子は心配性だね・・・あ、今日ご飯食べて行くんでしょ?いいよ、ゆっくりしていきなよ。」
「・・・」
「聖、客間に布団用意しておけよ・・・私部屋に戻るから」
「お嬢様、いけません・・・リビングに居てください」
「大丈夫だって」
「ダメです。今回だけは僕の言うことを聞いてもらいますから・・・さぁ、リビングに戻ってください」
「はーい・・・聖のケチ」
いつもの、笑顔では部屋に戻っていった
だけど、僕はすぐに異変に気付いた。
手首に、巻かれた包帯
そして、首筋に貼ってある大きなガーゼ。
アレは、じゃない
違う、なんだけど、僕の知ってるじゃない
「無能執事」
「・・・・・・」
「何隠してんの?・・・あれ、じゃないよ。・・・僕の知ってるじゃない」
僕の知ってるは、いつも凛としていて
余裕な笑顔をいつも浮かべていて、僕に逆らう。
そして、何より心が強い・・・それなのに、今じゃ・・・
まるで、ボロボロになり、立ってるだけでも精一杯の人形。
アレは、僕の知ってるじゃない。
強く無能執事を睨みつけていると、アイツはため息を零して
眉をゆがめ、僕に微笑んだ。
「さすが、恭弥様ですね・・・お嬢様のことは何でもお見通しで。」
「に何があったの?」
「僕にもよく、・・・見ての通り、お嬢様は・・・ご自分を傷つけていらっしゃいます」
つまり、自虐行為
そうか、手首の包帯は・・・
「リストカット・・・でしょ」
「はい。・・・もう数箇所にも及んでます・・・それから、首筋の引っかき傷」
「引っかき傷?」
「つい数日前、お友達のお家から帰ってこられてすぐにお風呂に入られたのですが中々上がってこないので
心配して見に行ったら・・・」
『お嬢様!!何をなさってるのですか!!』
『さ、とし・・・っ』
『首をこんなに引っかいて・・・何をしてるんですか!!』
『やだっ・・・やだ、よ・・・消えない・・・消えない、よ・・・』
『お嬢様・・・とりあえず、処置だけでも。』
「手や爪はもう血まみれ・・・首の引っかき傷は直接お医者様に診せに行きました。」
「・・・いつから、リスカ(リストカット)始めたの?」
「首筋の引っかき傷をお医者様に診せに行った次の日からです。・・・少しでも目を離してしまえば
また何をするか分からないので、しばらく学校をお休みさせてもらっているんです」
「・・・・・・」
僕と無能執事はリビングに向かう廊下を歩きながらそんな話をしていた
でも、どうして・・・・引っかき傷や、リスカを?
がそんなことするほど、追い詰められている?
それに、あの首筋の場所・・・・・・・・・
「僕があの時、噛んだ跡」
「恭弥様?」
「何でもない。」
コイツに気付かれそうで、僕は思わず言葉を濁した。
そうだ、の首筋・・・ガーゼで固定されている場所は、あの時・・・僕が残した噛み跡の場所だ。
それを引っかくってことは・・・何かある?
でも、引っかいて消したいほど・・・僕はから嫌われていない
むしろ、は僕を受け入れている。僕だって。
それなのに、何故?
「とにかく、僕もしばらく此処に居る」
「恭弥様」
「目を離したらいけないんでしょ。1人よりも2人のほうがいい」
「・・・ありがとうございます。」
「分かったらさっさと行けば・・・また、何するか分からないんだろ?」
「あ、はい!」
そう言って、僕は先に無能執事をの元へと向かわせた。
そして、僕は一人悩んでいた。
何故は自らを傷つける行為に走ったのか
そして、どうして首筋・・・僕の残した噛み跡を無理やり引っかいて消そうとしたのか
の側に居れば、それが分かると踏んで・・・僕はその日、の家に泊まる事にした
「ご馳走様」
「お嬢様、もう宜しいんですか?」
「うん、お腹いっぱい」
夕食、いつものように僕、、無能執事の3人が
食卓に居たのだが、が速やかにその場から去ろうとしている。
の食事を見ると、まともに食べていない
いや、もう残しているのに近い。
「、ちゃんと食べなきゃ」
「お腹いっぱいなの。恭弥育ち盛りなんだから私の分も食べていいよ」
「いらない。僕は僕ので充分だよ・・・ホラ、座って」
「いらないってば。もう聖に何吹き込まれたか知らないけど、恭弥が思ってるほど重症じゃないんで!べーっだ!!」
「」
「あ、お嬢様!!」
そう言ってはその場を離れ自分の部屋へと駆け込んでいった。
まさか、此処までが手のかかる子だなんて知らなかった。
「初めてが手のかかる子だって気付いた・・・君、苦労してたんだね」
「今頃気付かれても遅いのですが・・・まぁ、そう思ってくださっただけで結構です」
「とにかく、僕の部屋に行く・・・何仕出かすか分からないからね」
「よろしくお願いします。」
僕は箸を置いて、椅子から立ち上がり
の部屋へと向かった。
暗い廊下を歩くと、の部屋の前
襖が若干開いている。
僕は其処から静かに中を覗く
手の包帯を解くと、其処には数本と横に裂かれたリストカットの数
古いのから、真新しいのまで・・・何でが、こんな・・・
--------カチカチカチ・・・
すると、突然カッター独特の刃を出す音が聞こえた
そして、ゆっくりとリストカットされている腕に刃を当てようとしていた
「何してんの、」
「!?・・・きょ、恭弥・・・っ」
僕は襖を開けて、を上から見下ろす
すると彼女は驚いた表情をして、僕を見ていた・・・手には、もちろん刃の出ているカッター
--------パシッ!・・・カラン!
「きゃっ!?」
僕はすぐさま部屋に入り、カッターの持たれている手を払い、床へと転がせた。
そして、彼女の手を握る。
「何してるんだよって、僕聞いてるんだけど?」
「恭弥・・・私、何にも・・・」
「嘘。・・・今リスカしようとしてた・・・僕ちゃんと見てたんだからね」
「違う・・・違うよ!」
「違わない・・・、どうして自分を傷つけるの?・・・この前までリスカなんて・・・君、するような子じゃなかっただろ」
ふと、の手を握って気付いた
細い・・・、こんなに細かったっけ?
「、どうして」
「恭、恭弥・・・っ・・・私、・・・もう・・・やだ・・・っ」
「」
小さく泣いているを見て、僕は彼女を抱きしめた。
細い・・・・・細いよ、
どうして、こんなになるまで・・・折れそうなくらい・・・君が痩せ細っていく
どうして、僕は・・・気付いてあげれなかったんだろう
「・・・何があったの?」
「・・・うぅ・・・う・・・っ・・・」
「・・・、もう自分を傷つけないで」
「でも・・・でもっ・・・もう、私・・・嫌よ・・・恭弥、私・・・っ」
「・・・ご飯もちゃんと食べなきゃ・・・君の体が折れちゃうよ・・・」
気付かなかった。
いや、気付こうともしなかった・・・が僕にSOSを出していることを
助けて欲しいのに、気付いてもらえなくて
だから、は自らを傷つけ始めた。
「・・・、ゴメン・・・ゴメンね」
「恭弥・・・恭弥、恭弥・・・っ・・・う、うぅ・・・」
「お願いだよ・・・もう、自分を傷つけないで・・・の体が可哀想だ」
「きょ、うや」
「ご飯もちゃんと食べて・・・僕、こんな見たくない・・・傷つけて、泣いて、痩せ細って」
気付いてあげれなかった僕が一番いけない
僕が一番の側に居るのに
それなのに、どうして僕は気付いてあげれなかったんだろう
僕は何で・・・・・・・・・・
「君は傷つけなくていいんだ・・・僕が、僕がいけないんだ」
「恭弥」
「君のSOSに気付いてあげれれば・・・、こんなことしなくてよかったのに」
「違う、恭弥は・・・っ」
「違わなくないよ・・・僕が悪いんだ。・・・、ゴメンね・・・僕のせいで」
「違う、違うよ・・・恭弥は、恭弥は悪くない!・・・全部、全部私のせいで・・・私が・・・居るから」
すると、が溜め込んでいた涙を一気に流し始めた
僕はそんなを強く、つよく抱きしめてあげた。
「・・・っ」
「私が居るから、いけないの・・・私が居るから・・・恭弥にも聖にも、千夏ちゃんにも・・・迷惑かけてる
私が居たら・・・皆、みんな・・・私が居ちゃいけないの・・・」
「何でそんなこと言うの・・・僕にはが居なきゃ、が必要だよ。」
「嘘よ・・・嘘、・・・ッ」
「嘘じゃない・・・だって、のこと愛してるから」
「恭、弥」
そう言って、僕は彼女の瞼にキスをし、顔を見る
「のこと愛してる・・・だから、僕にはが必要なんだ。」
「恭弥」
「大丈夫だよ・・・僕が守ってあげる・・・が怖いと思ったもの、全部僕が咬み殺すから」
「・・・・恭弥」
「愛してるよ、」
そう言って、ゆっくりと床に身を沈め
僕は傷ついた彼女の体を、優しく、抱くのだった。
どうして、君がこんな風になったのかまだ分からない
でも、僕はがまた元に戻って
僕を優しく包み込んでくれる日を待ちたい
お願いだよ・・・僕の美しい人、どうか、どうかその花弁を傷つけないで
傷ついた蓮を守る獣
(気付いたら、花弁や茎に、無数の傷が出来ていた)