『恭弥ちゃん!・・・ねぇ、恭弥ちゃんってば!!』
『あのさ・・・』
『なに?恭弥ちゃん』
『やめてくれない・・・そのよびかた』
『なんで?』
『なんでって・・・へんだよ。・・・”恭弥ちゃん“って』
『へんなんだ。・・・・・・じゃあ、恭ちゃんでいいよね!』
『・・・・・・はぁ、いいんじゃないの?』
『エヘヘヘ・・・恭ちゃん』
「・・・・・・」
懐かしい夢だ。
アレはいつだったかな?・・・多分僕とが5歳くらいの時?
が執拗に【恭弥ちゃん】と言うものだから
僕としては正直恥ずかしかった。
指摘したはよかったが・・・逆に【恭ちゃん】と呼ばれるようになり
僕の母さんはそんな僕とを見て
クスクスと笑っていたのを覚えている。
「此処・・・僕の、部屋・・・」
いつの間に僕は自分の部屋に来たんだ?
そういえば、居間のほうで哲と笹川と酒を飲んでて・・・・・・其処から覚えていない。
何があって僕は自分の部屋に来たのか。
はぁ、そんな事も分からなくなったのか・・・僕も歳かな?
哲も笹川も、気配が感じれないという事は
多分帰ったかな。・・・ただ、それだけは何とか分かった。
僕は気だるい体を起こし、襖を開ける。
「外は、満月か・・・・・・」
襖を開け、庭を見る・・・そして、上を見上げると
白く輝く・・・欠けた部分もない、大きな丸い月
それがリアルなものでないが・・・外の空模様を
アジトの情報の一部として、ニセモノではあるが映させていた。
もちろん、外が雨ならば・・・雨を降らせることだって出来るように設定した。
僕は部屋から出て、縁側に向かい座り月を見上げる。
「・・・・・・」
ポツリと呟く、彼女の名前
が小さくなった責任は僕にある。
だから、全部・・・の面倒は見ようと思った。
元に戻るまで、僕が面倒見るって
片時も・・・離してはならないと・・・そうしていたはずなのに。
「何やってるんだろ、僕」
そう呟いて、縁側に転んだ。
月の光が凄く優しくて・・・まるで、が僕を包み込んでくれるみたいに
凄く、すごく・・・優しい。
『ヒバリ!ヒバリ!』
「君か・・・」
すると、黄色い鳥が僕の目の前に羽根を休ませに来た。
僕はそっと彼の頭を撫でてあげる
『!!』
「は今お泊りでいないんだ」
『寂しい?寂しい?』
「・・・・・・・・・」
何でこんな小鳥にまで僕の心が見透かされるようになったんだろうか
「そうだね、寂しい・・・かな」
『元気出して!元気出して!』
まるで、の代わりを務めるように小鳥は僕を慰め続けた。
それでもさ・・・やっぱり僕には・・・君がいいよ。
ねぇ、理由が分からないんだ・・・お願い、ヒントでいいから・・・教えて。
君の事だったら僕全部覚えてる自信あるよ
もう一度、君と・・・一緒に・・・過ごしたいから。
それから6日と経ったが、雲雀とがいまだ別居状態
は沢田家の縁側で、足をブラブラと動かしながら
外を・・・空を・・・流れる雲を眺めていた。
「・・・恭ちゃん」
呟くは愛しい彼の名前。
彼女の彼女で軽いホームシックにかかっていた
食事に関しては、4日目にしてすでに箸すら握らなくなった。
原因は睡眠にあった。
毎日、「うーん、うーん」と唸りながら目を瞑るも
中々寝付く事ができない。
心配したツナは奈々と一緒に寝る事を勧めるも、良くなるどころか
更に寝付けなくなっていた。
やっと寝始めるのが、もう朝という時間に近い時になるという。
それが原因で、今まで食欲だけは旺盛だったのだが
もう4日目の時点で、食欲不振に陥っていた。
「ツっ君、どうしよう・・・ちゃん、お料理食べてくれない」
「母さんのせいじゃないから・・・気にしないで」
母親代わりをしている奈々は慌てるように
ツナに声をかける。
だが、ツナもその異常には気付いているが、なるべく奈々には心配をかけまいと振舞う。
「最近寝付きも悪いみたいだし・・・朝とか昼はずっとあんな風だし・・・もうママ心配よ」
「母さん!落ち着いてよ・・・ホラ昼ごはんの買い物行ってくるんだろ。さんは俺が見とくから」
「うぅ・・・じゃあ、行ってくるね。」
昼時、昼食の準備のため
奈々は買出しへと外に出た。
居間に残ったのは、ツナ・・・そして、縁側で流れる雲を見ているだけ。
ツナは食卓の椅子から立ち上がり、ゆっくりとに近づく。
「さ」
「恭ちゃん!?」
「え?」
「ぁ、・・・ツナ君」
ツナがの肩を叩こうとした瞬間、は満面の笑みを浮かべ
振り返るも・・・雲雀でないことが分かった瞬間、すぐさま曇った表情を浮かべた。
ツナはため息を零して、の隣に座る。
「俺が・・・雲雀さんと思ったんですか?」
「ゴメンね・・・ツナ君」
「さん・・・もういいじゃないですか。さん、雲雀さんに逢いたくて、逢いたくて仕方ないんでしょ?」
「でも・・・恭ちゃんが謝るまで、帰らないもん」
意地を張るところは、25歳の彼女も同じだった。
ツナは、ふとそんな事を心の中で思った。
「でも、さん・・・さんが我慢なんかしたら、雲雀さんが困った顔しちゃいますよ?」
「いいの。恭ちゃんが困ればいいんだもん」
「さん」
「恭ちゃん、あたしが居なくなって・・・平気な顔してると思うもん」
「そうかなぁ〜・・・俺はきっと、雲雀さんの事だからさんに逢いたくて逢いたくてたまらないんじゃないですか?」
「知らないもん・・・そんなの」
不貞腐れて、は頬を膨らませた。
ツナはそんなの表情を見て、頭を撫でる。
「ツナ、君?」
「嘘はダメですよさん。・・・雲雀さんに逢いたいんでしょ?」
「違うもん!」
「うわぁっ!?」
すると、いきなりがツナの手を振り払い
立ち上がり、ツナを睨みつける。
「違うもん!恭ちゃんに・・・恭ちゃんになんか・・・逢いたくないもん!」
「さん」
「恭ちゃんがあたしに謝るまで・・・恭ちゃんのところに帰らないもん!!」
「あっ、さん!!」
そう言って、はツナの家を飛び出した。
追うのが遅すぎたのか、それともの足が早いのか
ツナは彼女の姿を見失ってしまった。
「困ったなぁ〜・・・どうしよ、雲雀さんに殺される」
雲雀の前で「のこと守るだ」、「心配するな」と言って
預かったはずなのに、もしこんな事が雲雀の耳に入ったりすれば
ボンゴレ守護者からまさかのクーデターが起こりかねない
いや、多分クーデターを起こされる前に・・・ツナは真っ先に咬み殺すという言葉の元
抹殺されるに違いないだろう
「ヤバイ・・・それだけは避けないと!!!」
無論、も大事ではある
だがしかし、自分の生死に関わる一大事でもある
何としてでも見つけ出さなければ。
『・・・!!』
「!!!・・・ヒバード!?」
すると、空から黄色い小鳥・・・ヒバードがやってきた。
そして、羽を休めるようにツナの手元に乗っかる
「ヒバード、お前・・・何でっ・・・雲雀さんは?」
『逢いたい!逢いたい!』
「え?」
『雲雀、逢いたい!、逢いたい!』
「・・・分かってるよ」
ヒバードは少ない言葉で、ツナに雲雀が口にした言葉をそのまま伝えた。
その言葉を受け止めると、ヒバードを見てツナは頷いた。
「とにかく、皆にも手伝ってもらおう・・・ヒバードお前は雲雀さんのところに戻りな」
手をゆっくりと空へ伸ばすと、ツナの手に乗っていたヒバードは
何処かへと飛び去っていった。多分雲雀の元に戻ったのだろう。
「って、何やってんだ俺!?・・・あのままヒバード返せば雲雀さんに伝えられる!?ひぃいいいぃいい!!!
おい、ヒバード!!ヒバード戻ってこーい!!!」
だが、時既に遅し・・・ヒバードは空の彼方へと飛び去った。
「一刻を争うぞ・・・とりあえず、皆に電話っ」
ヒバードが雲雀に伝える前に
ツナはポケットから携帯を取り出し、獄寺や山本へと連絡を回し
居なくなったを捜索して欲しいと頼むのだった。
空は、暗雲漂う・・・一雨起こりそうな気配がしていた。
沈む浮雲、迷子のチビ姫
(雨が降る前に、迷える姫を見つけなけなければ。雲から雷が落ちる)