「デジェル?・・・ねぇ、デジェルってば」
天蠍宮を後にして、人馬宮、磨羯宮を抜け宝瓶宮に戻ってきた。
しかし、戻ってくる間・・・私は一言も喋らず
ただの手を握ったまま無言で歩き続けた。
「デジェル・・・聞いてるの?ねぇ、セージは何て呼び出したの?」
「・・・・・・・」
「黙ってないで答えなさいよ!」
の声が宝瓶宮に響いた。
その声に私は動かしていた足を止め、同時に手を引いていたも動きを止めた。
「さっきから一言も喋らないし・・・まぁ人馬宮や磨羯宮を抜けるときはシジフォスやエルシドに
一言通るって言ったけど・・・・なんで黙り込んでんのよ」
「喋る必要がないからだ」
「はぁ?もういい・・・私一人でセージのところ行くから。手を離して」
にそう言われたが、私は握った手を離すどころか強く握った。
「デ、デジェル・・・痛い・・・離して」
「嫌だ」
「痛いって言ってんでしょ・・・離してってば」
「離したら、お前は今度何処に行くというんだ?」
「何言って」
私は振り返りを見る。
目の前のは驚いた表情をしていた。
無理もないだろう・・・私は、今にも泣きそうなほど心が痛んでいるからだ。
心が苦しくて、痛くて、泣いてしまいそうだ。
「デジェル?」
「この手を離せばお前はまたカルディアのところに戻るのか?」
「え?」
「嘘をついた・・・教皇様が呼んでいるなんて、嘘なんだ」
「デジェル・・・貴方・・・」
自分でもみっともないと思っている。
だが、引き離すにはこうするしかなかった・・・とカルディアを離すには嘘をつくしかなかった。
の心が動く人物といえば、父親代わりの教皇様だけ。
あの方だけは困らせたくないという気持ちがにはある。卑怯だが其処に漬け込んだ。
「どうしたの?デジェルが嘘つくなんて・・・ねぇ、どうしたの?」
「聞いていた」
「え?」
「カルディアが・・・告白するところを」
「っ!!」
聞いていた、と告げたとき・・・の表情が徐々に青ざめていく。
そして何も言えなくなってしまっていた。
「薄々勘付いていた。カルディアがお前に好意を寄せていることを。
でも、知らないフリをしていた・・・アイツが告白するわけがない・・・には私が居る。そう思っていたんだ」
自分の考えが浅はか過ぎた。
カルディアが告げるわけないと思っていた・・・には私が居る。
そんなことをするようなやつじゃない・・・奪うなんてことしない。
そう、思っていた。
「・・・お前には、お前には私が居る。私が居るというのに、何故・・・何故ッ」
「デジェル、違うの。違うよ」
「何が違うというんだ?アイツになんか渡さない・・・お前は私が愛すると決めたんだ。
誰にも、誰にも渡したくない!渡してなるものか!なぁ、行くな・・・・行かないでくれ。
私はお前を、私自身生きている限り愛し続けたいんだ・・・ッ」
「デジェル」
私は膝を付き、顔を伏せに訴えた。
「他の男の所に行くなんて・・・そんなの、そんなの絶対に許さない。
もし行こうと言うならお前をこの宝瓶宮に閉じ込める。閉じ込めて何処にも行かせない、何処にも何処にも・・・ッ。
お前は私のモノだ・・・カルディアだろうと、誰だろうと、渡しはしない」
私はの腕を掴み、見上げるように彼女を見る。
いつからだろうか、私自身がこんな風になってしまったのは。
最初の頃はただいつも通り振り回されているだけで
それでもからそうされるなら私自身嫌ではなかった。
でもいつしか・・・アイツが、他の誰かと話すだけで嫌だった。
『私の身にもなってみろ』なんてに対しての口癖だが
本当は違う。本当の言葉の意味を彼女が知らないだけだ。
本当は「お前が誰かを好きになりそうで気が気じゃない。誰かに取られてしまいそうで
怖いくらいだ。”私の身にもなってみろ“・・・側に居てくれないだけで心臓が破裂しそうなくらい、痛いんだ」と。
「デジェル」
「頼む、ッ!・・・行くな、行かないでくれ!お前が居なくなってしまえば
私はどうすればいいんだ?!私はお前が居なければ・・・生きていく意味すら分からなくなるのに」
「デジェル・・・ごめん、ごめんね」
切なく、消え入りそうな声では私を抱きしめた。
苦しいんだ。
悲しいんだ。
寂しいんだ。
お前が誰かの側に居るだけで、私の側に居ないだけで。
抱きしめられたとき、側に居るとき
やっと感じることが出来るのぬくもり。
「行かないでくれ・・・・・・ッ。お前のワガママは何でも聞く、お前に振り回されても構わない。
でも、私を見捨てるようなことはしないでくれ。お前に見捨てられたら、私は・・・私はどうすれば・・・っ」
「デジェル大丈夫だよ。私、何処にも行かないから・・・デジェルの側に居るから」
優しく私の頭を、髪を撫でる。
その優しさはまるで・・・・女神。
顔を上げたら、温かく優しい微笑をした女神が私を見ていた。
知らないうちに目から零れた涙を拭い、そっと瞼に唇を落す。
まるでそれは、魔法のようで。
「デジェル・・・・・泣かないで」
「」
「私、ちゃんとデジェルの側に居るから。貴方の水瓶の中に入った水が、例え溢れ出ようとも
私は受け止めるから・・・だから大丈夫だよ」
の言葉に、涙が止まり、心臓の痛みが引いた。
その瞬間私は立ち上がり、の手を引き部屋へと連れて行く。
部屋に着きドアを閉め、ベッドにを乱暴に投げやり
そのまま上に覆いかぶさる形になる。
いつもなら乱暴に扱うと、反抗した言葉を返してくる彼女なのだが
今日は何も言わずただ私を見つめていた。
多分、気づいているのだろう。
私の心の水瓶に入った”嫉妬の水“が零れ出て、溢れてきたのは”愛と欲望の水“。
それが溢れ出てきたと悟り、は何も言わずただ私を見つめていた。
私は彼女の頬に優しく触れる。
「乱暴に投げたのに、珍しく大人しいな」
「どうしてかしら・・・怒る気もないわ」
「なら、今のうちか・・・・お前をめちゃくちゃにするのは?」
「そう、かもね」
頬に触れている私の手に、は自分の手を重ねた。
あたたかい・・・感じれる、お前の体温。
「・・・・・・愛してる」
そう囁き、唇を重ね、ベッドに沈んだ。
溺れるがいい、私の水瓶から溢れる水に。
溢れ出た水を飲み干すことなく、その体で溺れてしまえ。
溺れてしまえば、お前は二度と私の元から・・・離れることはないだろう。
水瓶の心から溢れ出た水で溺れてしまえ
(雪解けは水となり溺れるまで愛を求める)