アイツとはずっと友達のままでいるつもりだった。
そのままの関係のほうが
幸せだったようにも思えて仕方がない。
でも、歯止めが利かなくなるというのは・・・人間誰しもあることだ。
それが、友達として関係を続けているヤツなら、尚更。
「カルディア・・・今、何て?」
天蠍宮。
俺はを呼び出した。
最初は軽快に会話をしていた。しかし、そのうち・・・俺は今まで秘めていた想いをぶつけた。
「お前が好きだって言ったんだよ」
そう、俺はを好きになってしまった。
今まで友達として見てきたアイツを俺は好きになってしまったのだ。
「・・・・ハハ・・・カルディア〜・・・何の冗談?ウケないって」
「冗談じゃねぇし。本気で言ってんだけど」
笑いながら冗談といわれたが、生憎とこんな時まで
冗談なんて言える口は持ち合わせていない。
俺は真剣に、言っていることをに告げる。
目の前のアイツは冗談と思って笑っていた表情が、徐々に強張っていく。
「馬鹿なこと、言わないで」
「寝言は寝て言えって感じだな。悪いけど、寝ても覚めてもお前だけを考えてたずっと」
「・・・っ!!」
俺の気持ちが本物だと分かり始めた瞬間、は驚いた表情をしていた。
無理もないだろう・・・俺が告白するなんて思いもよらなかっただろうし、ましてや――――。
「カルディア・・・分かってるはずだよ。私には、デジェルが・・・」
には、俺の友人であり水瓶座の黄金聖闘士デジェルが居る。
2人はそう・・・恋人同士なのだ。
「知ってる」
「じゃあ、何で?」
「分かんねぇよ。俺だって・・・・・俺だって」
気づいたらお前を好きになっていた。
でも、お前にはデジェルが居る。
分かっていた・・・2人の関係が崩れないことくらい。
がデジェルを振り回したり、困らせたりして、ケンカしているのも。
デジェルがに愛想をつかすどころか・・・余計、溺れていることも。
見えない絆と、赤い糸で結ばれていることも。
「いつから、私のこと好きになったの?」
「よく覚えてねぇ。気づいたらお前ばっかり見てた、お前の事ばっかり考えてた」
そして、気づいたら好きになってた。
恋人でもないのに、隣に居ることが当たり前だった毎日。
デジェルとケンカして俺んトコ逃げ込んで、アイツが迎えに来て連れ戻される。
でも、迎えに来る間・・・ずっと楽しい話で弾んだ。
こんな毎日が続けばいいって・・・いや、こいつがもっと俺の隣に居てくれたらいいって思い始めた。
「でも、カルディア・・・私・・・」
「分かってる!分かってるよ!!・・・でも、でも・・・」
俺はの腕を掴んで迫った。
「俺はお前が好きなんだ!デジェルが居たっていい、俺は構わない!構うもんか。
止めようとしても止められないんだ・・・俺、デジェルに負けねぇくらい強くなる。アイツ以上にお前を大切にする。
毎日お前が笑っていられるようにする・・・、頼む・・・頼むから・・・」
「カルディア」
「俺を・・・・・・好きになってくれ・・・・ッ」
まるで藁にも縋る思いだ。
こんな自分みっともなくて、他の誰にも見せられねぇ。
いや見せていいのはの前だけだ。
どんなに馬鹿やろうが、怪我しようが、命削ろうが、今まで
ただ赴くままにやっていた・・・自分の人生、自分の好きなことして生き延びれる。
ただ俺にもプライドはあった。
みっともない姿だけは誰にも見せたくない。
かっこ悪いところだけは誰にも見られたくない。
そんな俺を見せていいのは、の前だけだって・・・決めていた。
「・・・頼む・・・・・・俺を、俺を・・・・・・」
「無理だよカルディア。私は、カルディアをそんな風には見れない」
「なんっ・・・・・・お前」
顔を上げて言葉を放とうとした。
だけど止まってしまった・・・が、泣いていたから。
辛い表情を押し殺して、必死で泣くのを堪えている。
それでも堪えきれず・・・目から涙が頬を伝い流れ落ちていた。
「私・・・カルディアのこと、確かに好きだよ。でも、でもね・・・ずっとカルディアとは
友達なの・・・私のことを理解してくれる人なの。だから・・・私には、カルディアをそういう風には見れない」
「」
「ごめん・・・ごめんね、カルディア」
いつもデジェルの前じゃ、こんな涙きっと見せたりしないだろうな。
アイツの前でのは本当にワガママで
困らせて、振り回している・・・女王様。
甘えている姿なんて見せたりしているのかと思うくらい。
それくらい、デジェルの前で・・・が素直にしているところなんて見たことがない。
俺がみっともない姿、かっこ悪い姿を誰にも見せないように
も俺だけに見せる表情をするから・・・だから、余計・・・好きになっていく。
「ゴメン・・・泣かせるつもりなかった」
「いいよ。私が勝手に泣いただけだから気にしないで」
謝ると、は涙を拭いながら笑顔で俺に言う。
嘘つけよ・・・本当は、心がギシギシするくらい痛いくせに。
そんな痛い想いをさせたのは俺のほうなのに。
「」
「デジェル」
すると、デジェルがやってきた。
つかなんでコイツ、が此処に居ること知ってんだよ。
「何でデジェル知ってんだよ、コイツが此処に居るの」
「宝瓶宮の女中にの行方を聞いたら、天蠍宮に行ったと聞いたんだ」
「いきなり居なくなったら血相変えて探すし、そういうアンタ相手にするの面倒だから
女中に行って出てきたの」
「お前なぁ、私の身にも少しはなってみたらどうだ?」
「もういいでしょ。とりあえず言って出てきたんだから、男のクセにグチグチ言わないでよ見っとも無い」
ほらな。
デジェルの前だとすぐに態度が横柄になる。
俺に見せている表情が本当のなのか。
それともデジェルに見せている表情が本当のなのか。
多分、俺にもそしてデジェルにすら・・・分からないだろうな。
「で、何しに来たのよデジェル」
「教皇様がお呼びだそうだ」
「セージが?何だろ?」
「というわけで行くぞ」
デジェルはそう言いながらの手を握り、引いていく。
が・・・・・どんどん、離れていく。
俺の気持ちが宙に浮いたまま・・・。
「カルディア!」
すると天蠍宮にの声が響いた。
アイツがデジェルに手を握られながらも俺のほうを見ている。
「ありがとう・・・・・・ごめんね」
優しい声が宮内に響き、デジェルが小さく「行くぞ」と言って
再びの手を握りながら去って行った。
俺はというと、柱にもたれ掛り「ハハッ」と笑いが零れた。
「ったく・・・ああいうのは、自分の男の居る前でいうもんじゃねぇぞ」
去っていく間際。
デジェルが俺に鋭いまでの視線を飛ばしてきた。
あの目はそう・・・「近づくな」という目。
多分、デジェルはこの宮に居た・・・俺がただ、への思いをぶつけるのに夢中で
デジェルの心の奥底から湧き上がる小宇宙を感じ取れなかった。
デジェルは知の聖闘士とか言われて、冷静沈着のように見られているが
実際・・・の事になれば嫉妬深い。
冷気が凍気に変わるほど・・・冷たかったものが、身を、心を凍らせてしまう。
アイツの”嫉妬の炎“とは炎ではなく、凍気。
その冷え切った刃はいつ、何時、俺に向けられることか・・・。
多分アイツの事だ・・・友人だろうと、容赦はしないはず。
「俺の失恋、はぇーな」
『ありがとう・・・・・・ごめんね』
あんな風に優しく断られたら諦めたくても、諦めきれないだろ。
蠍の毒を食らわせるどころか、自ら俺はその毒を食らいもがき苦しんでいる。
心臓に手を当てると・・・鼓動している。
だけどその代わり・・・いつもとは違う痛みが来る。
熱は感じず、ただ、何なのだろうかこの痛み・・・・突き刺さるような、涙が出てきそうなこの痛み。
「・・・痛ぇなおい」
いつも感じる痛みくらいなら耐えれるのに
この今感じる痛みには耐えきれず俺は・・・・・・泣いた。
分かってたんだ。
お前の答えも、俺のこのどうしようもできない気持ちも。
もっと、早くに、この気持ちに気づいていたら・・・・・・何か、変わっていただろうか?
それとも、今と同じ気持ちだったのだろうか?
「・・・・・・・・・・好きだ」
柱にもたれ掛り、そのまま座り込んで・・・呟いた。
この声は多分お前の耳には届かないだろう。
だってお前は、俺とは違う他の男に手を握られて・・・そいつに、愛されているのだから。
蠍の心臓を貫いた針の毒
(焼けるような恋をして、痛みを伴う毒を食らった)