「しばらくフランスに行ってくる」
「任務?」
「まぁな」
任務、というか・・・には黙っておこう。
我が師クレスト先生から「助けて欲しい」という手紙を貰い
私は教皇様にお願いし、すぐさまクレスト先生が居るとされているフランスのとある邸宅に
向かう準備を整えていた。
もクレスト先生に何度か会ったことがあるらしく
その時は女神らしい態度をしていたようだと、教皇様や射手座のシジフォスから聞いた事がある。
本人も私がクレスト先生の弟子と知ったときは
何故か喜んでいたことを覚えている。何故なのかは不明だが。
「何しに行くの?」
「潜入だ。とある邸宅の誕生日パーティに、なんでも仮面舞踏会のようなパーティらしい」
「仮面舞踏会?・・・ていうか、デジェルダンス踊れるの?」
「お前・・・失礼にも程があると思うぞ。私も男だ、それくらいの嗜(たしな)みは心得ている」
の言葉に眉が動いた。
言っておくが、私は蟹座のマニゴルドや我が友人蠍座のカルディアみたいに雑な人間ではない。
社交界での潜入でも、踊れなければ意味もない。
「嘘くさいなぁ」
「なら試すか?」
「え?」
言葉を信じていないのかがまだ疑っている。
私はそんな疑いを続ける彼女の目の前に跪き、顔を上げ手を差し出す。
「え?・・・デジェ、ル?」
「女神・・・私と一曲、踊っていただけませんか?」
「こ、こういうときに女神って言うのやめてよね」
そう言いながらもは私の手を握る。
その手を握り返し私は立ち上がり、彼女を引き寄せた。
手を握りあい、の腰に手を回す。
「さて。やはり此処は踊るならワルツか?」
「社交界ならスタンダードにそれでしょうね」
「ほぉ・・・よく知っているな。感心だ」
知識的なものはどうやら知っているらしい。
でも頭で分かっていても、体はそれを理解しているかどうかが問題。
覚束ない足取りをする可愛らしいを見てやろうと思って
ワルツのステップを始めた。
しかし、私の予想とは裏腹に
はしっかりと踊りに付いてきている。
体を振られる事なく、覚束ない足取りどころかそれは滑らかだった。
「驚いてるわねその顔」
「お前がダンスを踊れるなんて、聞いた事がないぞ」
驚いた表情を見せていた私には不敵な笑みを浮かべた。
会話をしているが、体はダンスの流れに乗ったまま。
「一応、私はセージの娘みたいなものだから何処に出てもおかしくないようにって、仕込まれたの。
随分前に踊ったきりだったけど体は覚えてたみたい」
「なるほどな」
手を重ね合わせ、体を密着させ。
優雅に回り踊る、円舞曲(ワルツ)。
「舞踏会で踊っているお前を見てみたいものだ。その白いワンピースで踊るなんて勿体無いな」
「残念ながら、私あぁいう会場好きじゃないの」
「お前が嫌でも私が見たいんだ。ドレスを着て、私の腕の中で踊るをな」
「デジェルがせがんでも私は踊るつもりないからね」
「まったく困った女神様だ」
「きゃっ!?」
そう言い、勢いよくを引き寄せ抱きしめた。
顔を近づけ互いを見つめ合う。
「デ、デジェル・・・ッ」
「よくよく考えたら、困るな」
「え?・・・な、何が?」
「の踊っている姿は目に毒だ」
「どーいう意味よそれ」
体をさらに密着させて会話をする。
もう唇が触れ合ってしまうくらいの距離だ。
「からかっている意味ではない。皆がに注目する、釘付けになる・・・私はそれが嫌なんだ」
「え?・・・それって、ヤキモチ?」
「さぁ・・・どうかな。お前は私の腕の中で、踊っていればいい・・・永遠に、な」
やっと唇が触れあい、さらに深いひと時を味わう時間が訪れた。
あぁ愛しい私の女神。
永遠に、誰の目にも触れることなく私と共に愛のワルツを踊ろう。
私とワルツを、
(私の腕の中で永遠に踊り続ける愛しい女神)