とある日の聖域。
私は階段を駆け下り逃げていた。そして人馬宮に入ると前方に見慣れた影が2つ。
「シジフォス!デフテロス!」
「ん?」
「」
私の声に振り返ったのは
聖闘士の中でも最強を誇る黄金聖闘士。
人馬宮の主である射手座のシジフォスと双子座のデフテロスだった。
私は息も絶え絶えで二人に近づきデフテロスのマントを掴んだ。
「どうした、一体?」
「えらく急いでいる様子にも思えるが」
「ワケを言ってる暇ないの!私を隠して!!」
『は?』
私の言葉に2人は唖然とした表情を浮かべていた。
しかし今の私にはワケを話している暇はない。
逃げ切らなければ今度こそ――――。
「シジフォス!デフテロス!」
聞き慣れた声が響き渡り、私の肩が動いた。
声の先に2人は振り返り私はデフテロスの背後に隠れた。
「お、おい」
「シーッ!いいから黙って前見てて」
デフテロスは私がそういうとため息を零し前を向いた。
石畳に響き渡る靴音が段々とこちらへ近づいてくる。
そしてシジフォス、デフテロスの前で立ち止まった。
「どうしたんだデジェル?」
シジフォスが問いかけたのは、デジェル。
水瓶座を守護する黄金聖闘士で・・・・そして――――。
「を見ていないか?アイツ、また朝帰りをしたんだ。
もう今日という今日は宝瓶宮に閉じ込めておこうと思って探しているんだ。見ていないか?」
私の恋人なのです。
容姿端麗、頭脳明晰、くわえて最強の雪と氷の魔術師。
しかしめんどくさいことにコイツ、意外に堅物。
デジェルの居る宝瓶宮。
私の居場所でもあり、彼と寝食をともに過ごしている場所でもある。
しかしながら、最近の私はワケあって朝に宝瓶宮に戻ることが多い。
いやもうそれは2日や3日に1回のペースじゃない・・・・毎日だ。
毎日の朝帰り。
最初のうちはデジェルも「朝に帰ってくるな」とか「夜出歩くな」とか。
簡単な注意だったが、此処最近は
「どうしてお前は夜あれほど出歩くなと言っているのに出て、朝方に帰ってくる?そろそろ私も怒るぞ」という。
いや、もう最初の注意の時点でアンタ怒ってるでしょ?と反論をしたら―――。
『揚げ足を取るな』
『私がどうしようと勝手じゃない。デジェルいちいち口挟まないで』
『お前が心配で言ってるんだぞ?』
『聖域の外に出てるわけじゃなしに』
『夜、宝瓶宮を一歩出たら外に出るのと一緒だ。夜出歩くな、そして朝に帰ってくるな』
『嫌よ』
『』
『しつこい!いくら注意しても無駄だからね。アンタの言うことなんか聞くもんですか』
見事にケンカに発展し、そして本日の朝。
宝瓶宮に戻ったら・・・門前で、仁王立ちのデジェル。
昨日の今日でケンカをしていたが、彼の言うことを聞かないと心に決めていた。
『何処に行っていた?』
『何処だっていいでしょ。私眠いの』
『理由を言うまで中に入れないからな。さぁ、何処に行っていた』
『ホントしつこい!もういい加減にしなさいよこの氷結バカ!!』
この一言がデジェルの逆鱗に触れたのか・・・・。
『今日という今日はもう許さん。、今後一歩たりとも宝瓶宮から出さないようにしてやる』
『げっ!?』
デジェルから湧き上がる怒りの凍気を感じた私は
眠気がものの見事に通り越し、デジェルの猛追から逃れ・・・今に至る。
私はデフテロスの背後に隠れて、何とか精神を集中させ小宇宙を消している。
無論、目の前のデジェルの魔の手?から逃れたいがため、彼のマントをしっかりと掴んでいた。
それに気が付いたのかデフテロスは小さなため息を零す。
「さぁ・・・見てはおらぬぞ」
「デフテロス」
デフテロスの言葉に、隣に居たシジフォスが少し驚いた表情を浮かべていた。
「蠍座のカルディアか、蟹座のマニゴルドの所にでも行ったのではないのか?はあの2人とは仲が良いだろう。
頭に血が上っていつもの冷静さが欠けているぞデジェル」
「そうか、カルディアかマニゴルドのところを忘れていた。すまない2人とも足止めをして」
「い、いや・・・別に構わないが」
冷静にデフテロスは言葉を取り繕い、完全にその言葉を信じるデジェル。
嘘の言葉を信じて半ば申し訳なさそうにしているシジフォス。
やはり年長さんのお言葉は偉大だな・・・と私はひしひしと痛感した。
デフテロスの嘘の言葉を信じ、デジェルはすぐ下の蠍座のカルディアの居る天蠍宮、さらにずっと下
蟹座のマニゴルドが居る巨蟹宮へと降りて行った。
もちろん、デジェルが通り過ぎる際
デフテロスが壁になってくれて私の姿を隠してくれていた。
「助かりましたお兄様方」
「別に構わぬが」
「。一体どういうことだ?デジェルが怒って追い掛け回すなんて、考えられないぞ」
シジフォスの言葉に、自分でも確かに申し訳ないと思っている。
確かに夜出歩いて、朝帰ってくるのは
宝瓶宮に住まわせてもらっている身としては非常に心苦しい。
デジェルが怒って当然なのだ。
「、何故お前は夜出歩くのだ?聖域だとしても、危険がないとは言いきれないのだぞ」
「わ、分かってるけど・・・」
デフテロスの言葉に私は抵抗をした。
自分でもそれは重々承知している。幼い頃から育った場所とはいえ
此処が完全に安全とも限らない。それは私も分かっているし、もちろんデジェルだって。
私を心配してるからこその彼の言葉。
それを受け入れたいけど・・・どうしても、受け入れることの出来ない事情が私にはある。
「何かデジェルに言えない理由でもあるのか?」
「・・・・・・」
「」
「ごめん・・・シジフォス、デフテロス」
兄のように慕っている2人にも、言えない。
いや、今この2人に言ってしまえば・・・・きっと、きっと――――。
「居たいた、おい」
「マニゴルド!?」
すると、宝瓶宮の方からこちらに降りてくる影。
蟹座のマニゴルドだった。
ということは・・・巨蟹宮はもぬけの殻状態というわけか。
「宝瓶宮に行ってもおめぇ居ねぇから探したぞ」
「ゴ、ゴメン」
「つか、デジェルも居ないとか・・・どんだけお粗末なんだよ」
「デジェルならすぐ下の天蠍宮と、さらにその下のお前の宮に行ったぞ」
「は?何で?」
シジフォスの言葉に私は苦笑を浮かべた。
まぁ其処に行くよう仕向けてくれたのはデフテロスなんだが。
状況が何となく掴めたのかマニゴルドはめんどくさそうに頭を掻く。
「ったく。・・・・つか、今日はナシだ」
「え?」
頭を掻いているマニゴルドの言葉に私は驚きを隠せなかった。
「な、何で?」
「何でって・・・お前最近寝てねぇだろ。今日くらい寝ろ」
「で、でも・・・っ」
「言うこと聞け。俺は別にいいって言ったんだよ・・・だが、今日は寝ろとのお達しだ」
「・・・・・・・・・・」
マニゴルドの言葉に、多分シジフォスもデフテロスも分からないだろうが
私には何のことだが分かる。
すると、私の頭を優しく叩く手。
マニゴルドの手だった。
「んなところで体壊したら、元も子もねぇぞ」
「・・・・ゎ、分かった」
「どーせ、天蠍宮でデジェルがカルディアを問い詰めてるころだと思うし。
お前はさっさと宝瓶宮に戻ってろ。デジェルには俺から伝えとく」
「ゴメン・・・マニゴルド」
「ハッ。聖域の裏の女神(ドン)って言われてっけど、何やかんやでお前も女だな」
そう言い残し、マニゴルドは人馬宮を降りていった。
人馬宮に残されたのは、主であるシジフォスにデフテロス。そして、私。
私はため息を零し、目の前の2人を見る。
「ゴメン、2人とも。何かお騒がせしちゃって」
「構わないが・・・大丈夫か?」
シジフォスが心配そうに私の頭を撫でながら言う。
その傍らで、無表情ながらもその空気は心配そうなものを纏っているデフテロスも見ていた。
「うん、ごめんね。デジェルが上がってきたら、私宝瓶宮に戻ったって伝えて」
「あ、あぁ」
そして、私は人馬宮を後にし・・・魔褐宮を抜け、宝瓶宮に戻ってきた。
私には今、誰にも言えない理由がある。
知っているのは、マニゴルドと教皇セージの2人だけ。
全ては・・・そう、デジェルのため。
「デジェル、ごめんね」
全ては、貴方のためなの。
貴方の喜ぶ顔が、見たいだけなんだよ。
誰にも言えないワケがある
(全ては貴方の為)