『何を見てるの?』


『あぁ・・・星の動きをな』




碧色の目に映る、空の星。




『星は動くの?』


『当たり前だ。私達同様星も生きている』





その話をしたとき、とても嬉しそうな顔をする。




『へぇ』


『星の動きを見て、明日や未来を読むというのも悪くはない。古代の人々はそうして
一時の命の間を生きているし、星は人と違って嘘はつかない。
それに・・・未来は読まなくても良いと最近思い始めた』


『どうして?』


『明日の天気とお前の笑顔さえ見れたらそれでいい。お前のおかげで
考えが楽観的になってきている。でも、私自身悪くないと思っているんだ』





星を見つめていた顔が、目が私に向けられる。

表情は優しい笑顔。

その顔で私の心臓は酷い鼓動を繰り返す。
見つめられるだけで、息が止まってしまいそう。



そっと頬に触れてくる彼の手。


徐々に近づいてくる彼の顔。






『どうしてだか分かるか?』


『分からない』


『明日、天気が快晴なら・・・お前は笑顔を絶やさずにいてくれるからな。
未来なんて見れなくて良い。私はな、・・・お前の笑顔が見れればそれでいいんだ。
あまりにも子供じみた考えだが・・・そういう私をどう思う?』




問いかけられて、見つめる。






『分からないけど・・・・・そういう考えもありだと思う』





そう答えたら、彼は小さく笑って「そうか」と言い・・・唇を、落としてきた。






そんなことを言う彼の目には
一体何が映っていたんだろう?と少しずつ考えるようになり
彼の見ている世界を私も見てみたいという気になった。


それが、全てのきっかけになった。




デジェル。

貴方の目に映る、世界を私も見てみたい。
そうしたらきっと貴方と同じ会話が出来ると思ったから。



全ては、貴方の為・・・そう、デジェルの為に私は毎夜毎晩星を見ているの。



同じ目線で、同じ、モノを見てみたいから。












「ん・・・っ、セージ?」




声を掛けられ私は目を開けた。

セージが心配そうな面持ちで私を見ていた。




「昨日はまともに寝たのか?」


「星見ができるって思ったら、本読んでて・・・寝てない」


「まったく。何のためにナシにしたと思っているんだ・・・最近お前が寝不足だから
昨日は無理矢理休ませたんだ」


「・・・・・ごめん」


「この調子だと、本の内容も頭に入っていないだろうな」





セージに言われ私は何も返せなかった。

今日は朝まで星を見る予定だった。しかし、途中から生憎の雨模様になってしまい
急いで教皇の間にやってきた。

そして書庫で本を読んでいたら、私はいつの間にか本を広げたまま眠ってしまっていた。

ダメだ・・・疲れとかが限界みたい。

やはり毎夜毎晩、寝ずにこういうことをするのは大変だった。







星を読むにはどうすればいい?と最初に相談したのは
何故かマニゴルドだった。すると、アイツは「そういうのはデジェルに言え」と言われたが
彼には内緒にしたいというと「ならジジィしかいねぇだろ」という言葉に
セージに「星を読むにはどうすればいいの?」と問いかけたら、驚いた顔をされた。





『何でそんな顔するの?』


『お前が人に教えを請うという姿をあまり見たことがないから驚いているのだ』


『悪かったわね。ねぇ、私に星を読むことを教えて』


『どういう風の吹き回しか知らんが・・・どうした?』





セージは私の頭を撫でる。

自分でも人に教えを請うことはしない。
ほとんど無理矢理教わるケースが多かったからだ。

自分から「教えてほしい」なんて言ったりしない。





『・・・星は』


『?』


『星は、嘘をつかないから』





デジェルが言った言葉。


「星は人と違って嘘はつかない」


彼の言った言葉が今でも心に響いている。

デジェルの目にはそういう風に見えているのだろうなと
心からそう言った言葉に、私は酷く心を打たれた。


私がそう言うとセージはフッと笑みを浮かべた。






『・・・昔、私に同じようなことを言った者が居たな』


『・・・・・・』


『誰の影響とは聞かぬ。お前が学びたいというなら、良かろう』


『ありがとうセージ』





それから私の勉強が始まった。

実際見て学ぶだけじゃなく、本を読んで調べたり
どれが凶星とか、どの方角にどういった動きをする星があるのかとか。

覚えるだけでも膨大すぎて、自分の頭が最初ついていけないほどだった。



ある夜。

相変わらずデジェルに愛されて、私は眠っていた。
ふと目が覚めたら、やっぱり彼は空を見上げ星を見ていた。






『また、星を見ているの?』


『ん?・・・あぁ、すまない起こしてしまったな』





私が話しかけると気づいたかのように、デジェルが私に微笑んでくれた。




『デジェルは本当に星を見るのが、好きなんだね』


『好きというか。・・・・なんだ、ヤキモチか?』


『ち、違う!』





デジェルの言葉に私は毛布を被り、デジェルに背を向けた。
ヤキモチ・・・というわけではない。でも、彼と同じ世界を見てみたいという気持ちはある。


すると、頬に柔らかな感触。
それはデジェルの唇。

触れられ、顔を見上げる。




『お前がヤキモチなんて、珍しいな』


『ち、違うわよ・・・バカ』


『大丈夫だ。私の目にはいつもお前しか映っていない・・・言っただろ?
星を読んで未来は見なくとも、明日の天気とお前の笑顔が見れればそれで十分だと』


『別に、ヤキモチじゃ・・・っ』


・・・こっちを向いてくれないか』





優しい声で言われ、デジェルのほうを向くと・・・・優しい笑顔が目に入ってきた。

息が止まって呼吸が上手くできない。






『明日も、私の為に笑顔で居てくれるか?』


『デジェルが、いるなら・・・そうしてあげてもいい』


『相変わらずのワガママだな。だが、嫌いじゃない・・・むしろそれが心地よく、愛おしいよ』







頭の中を過ぎる、鮮明なまでに残った記憶。





いつも、宝瓶宮を出るとき心苦しい。

たくさん愛してもらって、たくさん愛を注いでもらって。
それだというのに・・・最近の私とデジェルの仲は最悪的なものになっている。

朝からお互い顔を見合わせればケンカしてしまう始末。



寝不足も重ねて、彼に対しての申し訳ない気持ちが募りすぎて倒れそう。






。今日はもう本を閉じて此処で寝ていきなさい」


「セージ・・・でも、あと少しで」


「お前が体を壊したら、意味がなくなるぞ。星はそう簡単に逃げたりはせぬ」


「・・・・」




本を捲っていた手が止まったのを見ていたセージに言われた。

私はその言葉を受け止め、本を閉じる。






「ごめん、なさい」


「疲れているのだろう、休むときも必要だ。明日からまた頑張りなさい、だが無理にとは言わぬぞ」


「うん」


「おやすみ」


「おやすみなさい」





セージにそう言い私はセージの寝台の上に転がる。


寝台に寝転び、目を閉じて少し開けた。

昔は・・・一人でこうやって寝てて当たり前だったのに
今は何故だろうか・・・寂しい。


あぁ、そうよね・・・デジェル。

デジェルがいつも隣に居てくれたからだよね。







「(ゴメンね、デジェル)」





心の中でそっと謝る。


本当は言いたい・・・星見を勉強しているって。

でも驚かせたいの。


貴方の驚いた顔を見て、そのあと・・・笑いながら
「よく頑張ったな」って褒めてもらいたい。




そういうデジェルの顔が、表情が、見たいの。




デジェル・・・デジェル、ごめんね。



夜勝手に出て、朝に帰ってきたりしてゴメンね。



でも決して貴方を嫌いになったわけじゃないの。
貴方と同じ目線で話がしたいの、貴方の見ている世界を私も見てみたいの。



貴方の事・・・愛しているから。







目を開けたら、朝になっていた。
枕に灰色のシミ・・・自分がその時泣いていたことに気づいた。

手首で涙の跡を拭い、寝台から降りた。

すぐさま私の脳裏には「宝瓶宮に帰らなきゃ」という言葉が出てきた。
私は急いで教皇の間を出て、双魚宮を抜け・・・宝瓶宮に戻ってきた。



いつものように、デジェルが門前で・・・・・・。






「あれ?い、ない」





いつもなら門前で仁王立ちして私を待っているデジェルの姿がなかった。

むしろ今日は私は教皇の間から降りてきたから
後ろから驚かしてやろうと思っていたのだが、何故かデジェルの姿が見当たらない。

任務に行くにしても何も言わずに行くのは絶対にない。







「デジェル・・・?・・・デジェル、いないの?」






朝だから大声を出して呼ぶわけには行かない。
私は少し声のボリュームを落としてデジェルを呼ぶ。

すると、書庫の扉が開き閉まる音がした。
振り返るとデジェルがため息を零しながら出てきた。


そしてため息が終わると顔が上がり、私と目が合う。






「帰って、いたのか」


「えぇ」


「そうか」





あれ?





「お、怒らないのデジェル?」



「怒る?・・・もう怒るのも面倒だ」



「は?」




昨日の態度とは打って変わって、まるで投げやったような態度。

あんなに・・・あんなに心配してたのに。
まるで人が変わったかのように・・・どうして?




デジェルは踵を返し、白いマントがふわりと翻る。

その姿はまるで私を避けるようで・・・・・・。






「ちょっと、待ちなさいよデジェルッ」






私は急いで彼に駆け寄り、手を掴んだ。





「触るなッ!」


「っ!?」






掴んだ途端、振り払われた。

それもまるで物を捨てるように・・・声だって、荒々しく。






「デジェ、ル・・・」



「もう好きにすればいい。夜、お前が何処に出掛けようが・・・・私の知ったことじゃない。
私は忙しいんだ・・・眠いなら勝手に寝ていい。好きにしろ」






そう言ってデジェルは宝瓶宮を後にして行った。


彼の足音が無常に宮内に響き渡る。


デジェル・・・どうしたの?

何で・・・そんなこと言うの?







「・・・・・・デジェル・・・・・・」






彼の名前を呼んでも、そして私が涙を流し泣いていようとも

急いで駆け寄って戻ってくることは無かった。




どこで、私の歯車は・・・狂ってしまったの?



貴方の笑顔を見るはずが、私は貴方から見放されてしまったの?




知らずに狂った歯車
(笑顔を見るはずが、その手が離れていった) inserted by FC2 system

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