俺とアイツは兄妹も同然で育った。
「アンタ誰?」
「おめぇこそ誰だよ」
出会いは最悪なものだった。
教皇(ジジィ)の言葉に誘われるように俺は聖域にやってきた。
初めての明るい世界、眩しすぎて
暗いところばかり見ていた俺からしてみれば目に毒だった。
そんな中・・・俺の目の前に、少し年下の女の子が立っていた。
しかも毅然とした態度で、俺に恐れるどころか・・・目つきが完全にケンカを売っていた。
「よそ者でしょアンタ?出て行け」
「うっせぇな。へんなジィさんにソソのかれて俺は此処に来たんだ。
てめぇこそなんだその態度?女のクセに男みたいな態度しやがって」
「コレは生まれつきなのよ」
「あぁ要するにひねくれてるってことか」
「うっさいわよよそ者。いいわ、雑兵呼んでアンタ放り出してもらうから」
「2人とも何をしているんだ?」
すると、其処にジィさん。
「セージ・・・何コイツ?存在自体イライラするんだけど?」
「おいジィさん何なんだよこの女、すっげぇムカつくんだけど!」
お互いが存在を否定していると、ジィさんは笑いながら――――。
「マニゴルド・・・お前の隣に居る子は、私の娘同然のだ。、その者はこれから
聖闘士として私の元で修行をするマニゴルドだ。お前たち2人はこれから兄妹も同然になる。仲良くするのだぞ?」
「え?こんなのが私のお兄ちゃんになるの?」
「は?こんなのが俺の妹になるのかよ?」
お互いを見て、嫌そうな顔をする。
そう、俺との第一印象は「こんなのが兄妹になるなんて信じられない」だった。
「ねぇマニゴルド」
「お前より年上なんだからマニゴルドお兄様って呼べ」
「アンタなんかマニゴルドって呼び捨てで十分よ」
「んだとこのクソガキ!」
「アンタだってガキでしょうが!」
「セ、セージ様ッ・・・様とマニゴルド様が・・・っ」
「お前たちケンカはやめないか。仲良くしろと何度言えば分かるんだ!!」
俺とがケンカを始めたら
大体教皇(ジジィ)に怒られるのがお決まりのパターンだった。
それでも幼い頃の俺たちはどうしても仲良くなれず反発ばかりし合っていた。
「お前、何だよその格好」
とある日。
巨蟹宮の入り口に立っていたら、下からが上がってきていた。
しかし、その格好は何だかボロボロだった。
顔や足は擦り傷やアザだらけ。
足つきも何だかひょこひょことしていた。
「こけたの」
「どこで?」
「そこら辺」
あからさまに分かりやすい嘘をつく。
多分聖域を降りた、すぐ近くの町のガキどもに苛められたのだろう。
此処は特殊な結界が張り巡らされた場所。
幼い子供からすれば、不気味がるのは当然かもしれない。
ましてやそんな場所から降りてきた子供なんて・・・・大人達は理解するかもしれないが
俺やのような子供からすれば、怖いのは当たり前、か。
「邪魔・・・退いて」
「そんな体中傷だらけで何処行くっていうんだよ」
「シジフォスのところ」
ジジィのところかと思いきや、射手座のシジフォスのところに行くと言う。
多分傷だらけの自分をジジィに見せたくないのだろう。
は痛む体を引きずりながら階段を上がっていく。
俺は頭を掻き、すぐさまの前に背を向けしゃがむ。
「何?」
「おぶってやるから乗れ」
「いい。自分で行く」
「んな傷だらけの体で行くと日が暮れるっつーの。おぶって行ってやるから乗れ」
そう言うとは俺の背中に体を預けた。
背にアイツが乗ったのを体で感じると、俺は立ち上がり階段を登る。
登っている最中、は俺の背中で泣いていた。
本当は怖かったんだろう、辛かったんだろうと・・・。
こうすると、改めては女なんだと実感した。
「泣くなよ」
「な、泣いてないもん!」
「安心しろ。俺がちゃんと仕返ししてきてやる」
「ぇ?」
「俺はお前の、兄貴だからな」
「マニゴルド」
人馬宮に着くと、シジフォスが心配そうな表情を浮かべの手当てをしてくれた。
一方の俺はと言うと、町に下りてを傷つけた奴らに仕返しをしてきた。
聖域に戻ってきたら最初こっぴどくジジィに怒られたし、シメられたりもしたが
がそんな俺を守ってくれた。
そのときに感じた。
「もっと強くなって、を守れるくらい強くなりてぇ」って。
だからジジィの修行にも耐えた。
強くなるために、大切なヤツを守れるくらいの強さを身に着けるために。
それから幾年が過ぎた。
俺はジジィから蟹座の黄金聖衣を受け継ぎ、蟹座の黄金聖闘士に。
は虹の女神・イリスとかいうヤツの化身であることが分かり
戦女神・アテナが不在の聖域を見守る役目を担っていた。
「マニゴルド!」
「あ?・・・どうした?」
聖域の庭を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
聞き慣れた声に振り返ると息を切らした。
その表情はかなり慌てている。
すると、いきなり俺の背後に隠れる。
「お、おい?!」
「はい、頑張って!」
「は?お前、どういうワケか説明を」
「マニゴルド」
に説明を求めると、今度は前から声を掛けられた。
其処に立つのは、俺と同じ黄金聖衣を纏い
長い髪を揺らしながらやってきた・・・水瓶座の黄金聖闘士デジェル。
「んだよ?」
「悪いがを見ていないか?」
「は?」
デジェルの口から出てきたのはの名前。
本人なら俺の背後で息を潜めているが、と言いたいところだが――――。
「何かやらかしたかあのおてんば?」
「あぁ。いくら女神の化身とはいえ・・・やっていいことと悪いことの区別もつかないのか?
神だからと言って好き勝手されても困る」
デジェルは相当怒っている。
さすがの俺もこんなやつの相手をしたくないから、マントを掴み引っ張った。
すると身を潜めていたがお目見え。
「ちょっと、マニゴルド!?」
「が何したか知んねぇけど。ホラよデジェル」
「こんな所に隠れてたのか、。今日という今日はもう許さんからなさぁ、来るんだ」
「ちょっ、ちょっと!!離しなさいよデジェル!!マニゴルドの裏切り者ーっ!!」
デジェルはの手を握りぐいぐいと引っ張りながら何処かへと去っていった。
最近よく、あいつらは一緒に居ることが多い。
にとってデジェルという存在は
きっと遊びがいのあるオモチャなのだろうな、と幼い頃から見てきたの性格を考えたら
多分俺の考えはあながち間違えではないだろう。
振り回されてるデジェルからしてみれば、大分ご迷惑な話だが。
昔は、あのポジションが俺だった。
遊ばれて、困らせられて、振り回されて。
そんな毎日にイライラしながらも、満更嫌ではなかった。
むしろそれが俺の辛い修行の日々の励みにもなったからだ。
が笑うだけで、俺の毎日は輝いていた。
黄金の輝きを放つ、この聖衣のように。
そう。
あの頃からずっと、は俺だけの女神だった。
俺は知らずにを・・・・家族同然として、妹同然としてではなく
”一人の女“として意識するようになっていたのだった。
ACUBENS〜アクベンス〜
(蟹座の二重星は、お前を想い出来た俺の気持ち)