「は?最近が教皇の間に戻らない?ジジィ、どういう」
「私にもよく分からぬ」
ある日、ジジィに呼び出された俺。
何の話かと思えば、のことだった。
話は最近夜になってもが教皇の間に戻ってこないとの話だった。
でも俺は清々しい顔をしたアイツの顔を聖域内で見ている。
てっきり教皇の間で寝ているとばかり思っていたが、相変わらずでかくなってもおてんばっぷりは健在だ。
ジジィに「とにかくに聞いてみてくれ」と言われ
俺はひとまず教皇の間を後にした。
双魚宮を抜けたところ、下の階段から上がってくると出くわした。
「あ、マニゴルド」
「何処行ってたんだよお前。つか、毎日何処に居るんだよ」
遠まわしな言い方はごめんだ。
だから俺は直球でに毎晩何処に居るのかと尋ねる。
「宝瓶宮」
「は?」
「デジェルの居る宝瓶宮にいるの」
の口から出てきた言葉に俺の心臓が酷いまでに締め付けられた。
しかし首を振った。
有り得ないだろ?傍から見たらとデジェルなんて犬猿の仲みたいなもんだ。
釣り合うどころか、天秤のどちらかが重すぎて不釣合いだ。
「デジェルの話してくれるお話が面白くてね。・・・・・・マニゴルド?」
「あっ・・・わ、悪ぃ。ジジィが心配してる、そうならそうとちゃんと言っとけよ」
「セージにも迷惑かけちゃったか。ごめんね、ありがとうマニゴルド」
「あ・・・あぁ」
そう言っては階段を上がって行った。
横切ったアイツを横目で見たら・・・ますます女らしくなっていってる。
俺の知らないスピードで、が女になっていく。
愛らしさの中に隠れた美しさ。
まるで虹のように、毎日七色に変化する。
そんなに段々と目が離せなくなっていく自分に苛立ちさえも覚えていた。
が宝瓶宮に夜は居座るようになってからしばらく経った。
ジジィも安心しているようだったが、俺としては気が気じゃない。
いつ、二人の関係が動いてしまうのかを恐れていた。
『待て・・・待ってくれッ!』
『うっさい!付いて来ないで』
すると、聞き慣れた2つの声が聞こえた。
俺は動かしていた足を止め、声のほうを見る。
デジェルとだ。
しかもその空気は険悪なものだ。
は一度気に入らないことなどがあればすぐ不機嫌になる。
機嫌を直すまで大分時間も掛かるのだ。
『ッ』
『離して!アンタなんか大嫌いなんだか』
「っ!?」
デジェルがの手を握ったが、アイツはそれを振りほどいた。
そして言葉を放とうとした瞬間、デジェルはを後ろから抱きしめた。
も言おうとした言葉が止まり、俺も・・・思考回路が止まった。
『離さない、お前だけは離さない。、私はお前が好きなんだ・・・愛しているんだ。
大嫌いと言われようが構わない・・・構うものか。お前に嫌われようが、蔑まれようが、避けられようが
私はお前を愛してしまった。許してくれ・・・お前を愛したこの私を』
『・・・デ、ジェル』
『すまない、忘れてくれ今の言葉。一方的な想いをお前に
受け入れてもらおうなんて思っていないから・・・忘れてくれ』
そう言いデジェルはから体を離し、踵を返した。
白いマントが翻り、デジェルは歩き出そうとする・・・と、がデジェルのマントを掴み、奴の動きを止めた。
『い、行かないで』
『』
『側に居て、側に居て欲しいよデジェル。一人にしないで』
『お前を一人になんかさせない。私が側に居よう・・・おいで』
デジェルの言葉と微笑みに導かれるように
は奴の胸に飛び込んで行った。
はデジェルが好きで、デジェルはが好き。
に一方的な愛を向けてたのは・・・・デジェルじゃない、俺の方だった。
「ハハ・・・・かっこ悪ぃな俺は」
木にもたれ掛りながら呟いた。
何でもっと早く自分の気持ちに素直になれなかったのか。
何でもっと早くに自分の気持ちを伝えなかったのか。
すべてが遅すぎた。
気づいた頃には、アイツは・・・他の男のものになっていた。
凄まじいスピードで女になっていくに俺は見惚れていただけで
何もできなかった。
苛立つ心を鎮める為に巨蟹宮に戻り、部屋に戻ってベッド目を閉じていると
誰かが入ってくる気配を感じた。
「マニゴルド」
声を掛けられ目を開けると、其処にはが立っていた。
おいおい。
さっき衝撃的な告白シーン見ちまって俺としては整理がつかねぇってんだ。
「んだよ」
まだ整理のついていない俺の心は、に対してぶっきらぼうな態度をとる。
「その・・・・私ね、好きな人・・・出来たの」
「へぇ」
知ってるよ、デジェルなんだろ。
「つか、何で俺にそういうの言いに来るんだよ。来る意味あんのか?」
心が荒(すさ)み、まるでを遠ざけるような言い方をする。
言ってしまった後思わず「何言ってんだ俺は」と後悔もしたが、はそんな俺に
嫌がることなく笑顔になった。
「だってマニゴルドは家族だもん、家族だから言うんだよ。いっつも、アンタからは守ってもらってばかりで
本当の妹のように側に居させてくれた。ありがとうマニゴルド」
人を嫌いになれる魔法や呪文があればいいのになんて、思った自分が情けなかった。
いやそんなものがあったとしても
この世界中、例え数多の人間を嫌いになったとしても・・・・多分コイツだけは嫌いにはなれない。
いや、できないんだ。
この笑顔を、俺は・・・・失いたくないから。
多分デジェルの奴も、そうなんだと思う・・・いや思いたい。
俺はベッドから起き上がり、に近づき
引き寄せ抱きしめた。
「?・・・・・・マニ、ゴルド?」
「何かあったら言えよ」
「え?」
「泣かされたりしたら言えって。俺が仕返しに行く・・・俺は、お前の兄貴だからな」
「・・・うん」
何も出来ないかもしれないけど、いつまでも守ってやれることは出来る。
例え隣に立つ絶対的関係の恋人になれなかったとしても
守ることは俺にも出来る。
俺は影からを見守り、そして愛し続けよう。
例えお前の隣には俺じゃない男が居たとしても、俺は見守り愛し続ける。
それが俺に出来る・・・一人の男としての役目なのだから。
ALTARF〜アルタルフ〜
(最輝に光放つ星は終わりではない、新たな始まりを告げる光)