「何をしてるんです、?」
「あ、ムウ。貴鬼が可愛いリボンくれたから、髪ゴムを留めた上からだけど
付けてみようと思ってやってるんだけど上手く結べなくて」
鏡の前で悪戦苦闘している。
どうやら貴鬼が彼女にリボンをプレゼントしたらしい。
我が弟子ながら、無邪気というか図々しいというか。
「貸して御覧なさい。結んであげます」
「ふえ?あ、ありがとう」
私はからリボンを取り、彼女の髪ゴムの上から
リボンを丁寧に結んでいく。
「はやっぱり不器用ですね」
「え?・・・い、いきなりその名前で呼ばないでよ。っていう名前、あるんだから」
突如、私は死んだ彼女の名前を口にした。
途端彼女の顔は、鏡越し真っ赤に染まる。
「・・・貴女前も、お気に入りのリボンが結べないといって
私が結んであげたことありましたよね?あの時もそうでしたが結び目がぐちゃぐちゃで」
「も、もういいよムウ!は、早く結んでってば!!」
「はいはい」
からかうとは早く結んでと言葉で急かした。
私は笑いながら髪に綺麗にリボンを巻き、結び目を作り蝶のカタチに仕上げた。
「はい、出来ましたよ」
「結び目、大丈夫?」
「誰が結んであげたと思ってるんですか?昔、貴女の髪にリボンを結んであげた人間ですよ」
「なら大丈夫ね。ありがとうムウ」
「どういたしまして」
鏡越し、は嬉しそうに笑みを浮かべ言葉を返してくれた。
「沙織に見せてこようかな。ねぇ、行ってきていい?」
「そうですね、アテナもお喜びになると思います。どうぞ」
「うん。行ってくる」
「気をつけてくださいね」
「分かってる。行ってきまーす」
笑顔を振りまいて、彼女は白羊宮を飛び出し
アテナの居られる頂上のアテナ神殿へと向かって行った。
でも、多分・・・いや、貴女は昔から気づいてないだろうけど
後ろからリボンを結んでいるとき私の心なんて分からないでしょうね。
艶やかな髪に結ばれた鮮やかなリボン。
鏡越しに映る愛らしいまでの女神。
私に微笑みかけるその無垢なまでの表情。
何も知らない、何も分からないからこそ―――――。
この両手で君を―私だけのモノ―にしたい。
後ろから抱きしめて、何処へも行かせない様。
その愛らしく、そして美しい姿を私の目だけに留めておきたい。
この白羊宮という、鳥かごの中・・・閉じ込めておきたい。
に対して、邪(よこしま)な気持ちが疼きだす。
昔愛したからこそ、そして今、愛しているからこそ故の・・・この衝動。
「私も、まだ修行が足りないのかもしれない。
今度アイオリアにでも稽古をつけてもらわなくてはなりませんかね」
ため息を零し、苦笑い。
昔からの想いと、今抱いている想いの双方。
そんな下心・・・彼女に知られたら、一体どんな顔をされるのだろうか。
君のリボンを結んだ僕の両手の下心
(いっそそのリボンで僕の下心を捕まえて留めておいてほしい)