「おはようごぜぇやす土方さん」
「あぁ、おは」
「ところでの奴見てやせんか?」
「総悟、先に俺に挨拶させろ。自分から挨拶しといて何だお前・・・ったく・・なら、まだ見てねぇぞ」
とある日の、真選組屯所。
土方と沖田は相変わらずなやりとりをする。
すると、沖田は土方に挨拶するなり自分の部下であるの姿を
見かけなかったと尋ねるも、土方も見てないと答えた。
「今日、俺とで朝は見回りするって決まってたんでさァ」
「アイツが見回りをサボる?おめぇじゃあるめぇーし、そのうち来るだろ」
「そりゃないですぜ、土方さん・・・・・・マジ死ねよクソ土方」
「いやいやありそうで怖いくらいだぜまったく・・・・・・マジ死ねクソ沖田」
「近藤さんなら何か知ってやすかね?・・・・・・マジ死ね、死ねよ死ね土方」
「なら聞きに良くか。の奴が無断欠勤とかするわけねぇしな・・・・・・おめぇが死ね、死ねよ死ね沖田」
まぁ、互いに互いを罵りあいながら
土方と沖田は、が無断欠勤など有り得ないという意見だけは
合致し、近藤なら何か知っているのではないと思い
近藤の居る部屋へと向かった。
「近藤さん、居るんだろ?」
『おぉ、トシか。ちょうど良い入ってくれ』
外で土方が中に居る近藤へ声を掛けると
中に居る彼は、明るく・・・だが、どこか助けを待っていた
という声で土方を迎えようとする。
外に居る土方と沖田は顔を見合わせ、とにかく障子を開けた。
すると、其処には―――――。
「あ、」
「なっ!?、何してやがるこんなところで!?」
近藤の目の前に、が居た。
しかし、いつもなら隊服を身に纏い真面目な表情で居る彼女なのだが
今回ばかりはそうではなかった。
珍しく小袖を着て、表情も何処か女の子らしい感じであった。
あまりに「どういう風の吹き回しだ?」と思いながら土方と沖田は彼女を見ていた。
「、おめぇ仕事サボって何してやがる」
「あのー・・・・・・」
「何だ、」
「お二人とも、どちら様ですか?」
『え?』
の発言に、土方と沖田・・・(非常に珍しく)声が揃った。
二人が声を揃えるのは気味の悪いことだが
此処は揃って当たり前なのかもしれない・・・・・・いや、誰もが驚くべきところだ。
「おいおい。脳天に一発バズーカ砲ぶっ放すぜぃ?」
「どちら様ですか?じゃねぇーよ!おめぇ上司に向かって何言ってやがる!!」
「いや、あの・・・本当にどちら様でしょうか?」
「だ、大丈夫だ、後でちゃんと説明する。とりあえずトシも総悟も落ち着け」
「近藤さんなんですかコイツ、マジでふざけてんのか!?仕事放棄するためにおめぇはこんなことしてんのか!?」
「ぶぁっかもーん!!!」
土方が近藤にのあまりの状態に
怒り心頭し、詰め寄っていると屯所内に地響きがするほどの声が響き渡った。
「!?・・・・松平のとっつぁん!?」
其処に現れたのは、松平片栗虎。
「オジサマ!」
松平の姿を見るなり、は立ち上がり嬉しそうな顔で近づき
巨体の腕に掴まった。
さながら化け物と美女と言ったところだろう。
「、いい子にしてたかぁ?」
「はいオジサマ!」
「そうかそうか。オジサマちょっとこの面の悪ぃ連中とお話してくるから、待ってろや〜。
終わったらオジサマとお買い物にでも行こうなぁ〜」
「はい」
松平がそう言い聞かせると、は何処かへと走っていった。
「おい、待てっ!」と土方が呼び止めようとしたが―――――。
「俺のちゃんに手ぇ出してみろやト〜シ〜」
「・・・・・・っ」
襟元を掴み、鬼の副長と呼ばれる土方をも
圧倒する凄まじい表情で松平は土方の動きを止めた。
「記憶喪失ですかぃ?」
「このネタ、どっかの銀髪バカのネタ引っ張ってきてねぇか?」
「ちげぇーよ!昨日の奴非番だっただろ?久々に、家の掃除しようとして
踏み台に乗ったんだが・・・踏み台の足の部分がどーも木が腐ってたらしくてよ。そのまま床にドーンっとな。
断じて、『ジャンプを買いに行った帰りに、事故って記憶喪失になった銀髪の天パ』とはワケがちげぇよ」
「ぶぇっくしゅ?!」
「銀さん風邪ですか?」
「んなわけあっか。誰かが俺の噂してんだ」
「誰アルか?こんなバカの天パの噂してる奴」
「それはかなり物好きな人なんだろうねきっと。さんを除いて」
「おめぇら人を何だと思ってんだよ!」
「んでまぁ気がついたら、家族以外の記憶がぜ〜んぶ落っこちちまったってわけさ」
「なるほどねぇ〜」
「道理で、俺らに対してどちら様ってワケか」
松平や近藤の話で、ようやく土方と沖田は納得した。
「ということは、自分が真選組隊士ってことも忘れちまってるって事だな」
「そうなるな」
「記憶はいつ頃戻るんでさァ?」
「総悟ぉ、病気じゃねぇんだからそう簡単に戻るって保証はねぇんだなぁコレが」
松平は腕を組みながら(ごつい顔をして)悩ましげな表情を浮かべていた。
すると、悩むのをやめ松平が立ち上がる。
その立ち上がる姿を三人は見つめる。
「とにかくよぉ、おらぁのヤロー連れまわして記憶戻したいところだが・・・午後から会議があるんだよぉ」
「待て待て!俺らにあんなんなったを預けるってのか?!」
松平の発言に土方は大いに慌てる。
無理もない。
女の扱いにはめっぽう慣れてない土方にとって
いつものならまだしも、女の格好をして女の子らしい振る舞いをしているを相手にした事はない。
更に言うなら、こんなむさいだらけの真選組屯所に
子ウサギを放ったようなもの・・・・確実にイイ餌になりかねない。
「まぁそこら辺、心配はしてねぇよ」
「どういう意味でさァそれ?」
「アレを見な」
かなり自信満々に松平は庭を指差す。
すると全員がそちらに目線を移す。
「退さーん」
「ちょっ、さん!?や、やめてくださいよ。マジ俺怒られますから」
「でも、退さんの方が大丈夫だってオジサマが」
「何の大丈夫なのそれ?何の大丈夫な意味で俺にそういう事言ったの!?」
「退さんは大丈夫なんです。オジサマの言う事は絶対なんですよ!」
「何を信用してんだアンタはー!!」
「あの通り、山崎に懐いちまったみたいでよぉ」
『(何で山崎なの!?)』
庭で山崎の腕にぴったりとふっ付く。
そんな二人の姿が其処にはあった。
「ちょっと待て!マジで待って!!何で山崎だ!?何で山崎なんだ!?」
「ぶっちゃけ俺自身も其処は納得行かないですぜ」
山崎にオイシイ所を持っていかれ、納得の行かない土方と沖田。
無理もない、地味キャラにオイシイポジションをあっさりと奪われたようなものだからね。
「黙れナレーション!!」
あ、すいません。
「実はよぉ〜此処に連れてきた途端、が山崎を一目見てあぁなっちまったってワケさ。
例えるなら〜・・・・・・卵から産まれた雛鳥が初めて目に入れるモノを親と間違っちまうアレだ」
「すり込みじゃねぇかそれ!!!」
「すり込みだか、座り込みだかしらねぇけど・・・が山崎に懐いちまったからには俺にゃぁどうする事もできねぇよ」
「懐かないなら、殺しちまいやしょ、山崎を」
「沖田隊長、マジ物騒なこと言うのやめてくださいよぉおお!!!!
俺には何の否もないんですから!!」
沖田は刀を光らせながら、山崎を見る。
そんな沖田の姿に山崎は体をガクガクと振るわせる。
自分の命かかってますから。
「ナレーションさん、ヘンなこと言うのだけはやめてください!俺殺されるような言い方やめてくださーい!」
はいはい。
「何その軽い対応!?土方さんとの扱いの差酷くない!?」
まぁとにかく。
「無視かよ」
記憶を失くしてしまったには否がないし
ある意味で、山崎も受難にあったと思ってもおかしくはない。
何せ、を好いている人間は屯所内に所狭しといるのだから。
そして今現在山崎の目の前に居る土方、沖田も然りである。
「まぁ、とにかくよぉ。今日一日・・・山崎ぃいぃい!!」
「あ、は、はいぃ?!」
すると、松平は相変わらず地響きを起こしそうな声を上げる。
「を頼むぞ。に手ぇ出したらただじゃぁ〜すまさねぇからな」
「き、肝に銘じておきます」
「じゃあな、後よろしくちゃ〜ん」
そう言って松平は屯所を後にした。
嵐が去り、山崎はため息を零す。
「退さん」
「あ、は、はい何ですかさん」
すると、未だに腕から離れないに
困惑しながらも答える山崎。
「今から・・・・・・その・・・・・・・あのぅ」
「も、もじもじしないでください。こっちが照れます!」
頬を赤らめて、少し照れくさそうな態度で山崎を見る。
そんな彼女に対し普段とはまったく違う一面を垣間見ているので
正直、山崎本人が恥ずかしいところではある。
「今からデート、しませんか?」
「はいはい。っておぇぇぇええぇええ!?!?!」
「山崎、マジ死ね」
「とりあえず山崎から先に殺しちゃいやしょうぜ土方さん」
「ちょっと待ってぇぇええ!!!!」
可愛い子には旅をさせろ!
(ここから始まる、山崎退の受難?困難?)