「んもぉ〜パー子もパチ恵もと知り合いだったのぉ〜」
「ビックリしちゃったぁ〜」
目が点になった三人の話を聞いたアゴ美とワカメは
手をヒラヒラとさせながら笑い、話を始めた。
「(おい。何でおめぇこんなトコに居んだよ)」
「(それはこっちのセリフです!銀さんに新八も、何こんなトコでこんな事してるんですか!!)」
「(西郷さんに人手が足りないからって言って依頼があったんです)」
話を始める2人を他所に、三人は目だけの会話をしていた。
そして(目だけの)話でわかったこと。
今回の接待で人出が足りないと、西郷からの依頼で
銀時と新八が店に赴き、ヘルプとして働くという事だった。
しかし、銀時の常日頃からの体たらくで
2人は遅刻してしまい(というか、顔見知りからの依頼で気抜けしてでの遅刻)
メインのテーブルに通されるワケもなく、2人はとアゴ美、ワカメの座った席に追いやられた。
「それにしても、が2人と接点があったなんて・・・驚きだわ」
「う、ウチ・・・使用人が大分年老いてるからね。
坂田さんの所、万事屋さんだから色々頼んじゃったりするのよ。
ばぁや、もう歳だからさぁ〜」
「成る程〜。パー子たちは自分達のお店を通じてと知り合ったってワケね」
「(・・・相変わらず躱し方がウマイ奴だな)」
「(実際、僕らの手助けがなくとも、トネさん一人であの家は回っていってるんですけどね)」
は言葉巧みにアゴ美やワカメを騙し込んだ。
その傍らで銀時と新八は心の中で思っていた。
ふと、銀時は気付く。
「。お前・・・酒飲まねぇのか?」
「え?・・・ああ、はい」
テーブルの上に並んでいた料理の他に
グラスの中に入った飲み物。
それらはソフトドリンク、と呼ばれる物だった。
「、いつもこうなのよ」
「ウチに来ても、一滴もお酒飲まないんだから」
「勿体ねぇな」
アゴ美やワカメ、銀時の持っているグラスにはお酒が入っているのだが
新八だけではなく何故かのグラスにはソフトドリンク、ジュース類の飲み物が入っていた。
「ドリンクでも、ご飯食べてお金払ってんだから文句言わないでよ」
「さん、飲めないんですか?」
「え?あー・・・違うの。飲めないんじゃなくて、飲まないだけ。
私、外じゃあんまり飲みたくないのよ。こういうところは雰囲気で酔いたいからさぁ。
それにウチで飲んだほうが、そのまま寝れるし」
は笑いながら、お酒が飲める飲めないの話をする。
「でもたまには外で飲んでみたらどうなの?チャン」
「坂田さん、やめてください。そういう煽り文句使っても私飲みませんから」
「パー子がお酌してあげるから」
「いや、だから飲みませんって」
「アタシのお酌したお酒が飲めないッて言うのぉ?」
「坂田さん。悪ふざけも大概にしてくださいね、怒りますよ?」
何としてでもに酒を飲ませたい銀時だが
彼の誘いにも彼女は酒を飲まないの一点張り。
2人のそんな攻防が続く中。
「なーんか、パー子と見てると」
「あ?んだよ?」
「何よアゴ美?」
「可愛いカップル見てて微笑ましいわね」
『!!』
アゴ美の発言に銀時との肩がビクッと動き――――――。
「な、何言ってんのよアゴ!!」
「ぐはっ!?」
「さん殴る相手間違えてます!!」
動揺のあまり、は発言をしたアゴ美を殴るつもりが
何故か間違えて目の前の銀時をビンタしてしまった。
銀時はのビンタを食らい、座敷の席から落下。
「アタシもそう思った〜。とパー子、何かカップルみたいよねぇ〜」
「や、やめてよ!!そんな事言ったら坂田さんが迷惑でしょうが!!」
「えー?じゃあは、好きな人とかいるのぉ?」
「なっ・・・う・・・っ」
アゴ美の言葉にの目は泳ぎ始める。
銀時と付き合っている事を此処で告白すべきか。
しかし、彼と付き合ってる・・・と告げてしまえば、言われてしまう言葉を
聞きそうで怖いという想いがの中を駆け巡る。
だから関係を知っている人間の居る空間では
は銀時の事を「銀さん」と呼んでいた。
そうでない場合は、他人同士を振る舞うかのように「坂田さん」と呼ぶ事にしていた。
それは新八や神楽も同じよう。
「ーそろそろ言っちゃいなさいよぉ〜。好きな人居るんでしょぉ?」
「アンタみたいな可愛い子、放っておく男なんて居ないんだからさぁ」
「バカなこと言ってんじゃないわよ!!オカマのクセにいい気になるな!!」
「あ、・・・ソレっ!!」
は近くにあったグラスの飲み物を一気に煽った。
アゴ美が気付いた時には、既に遅く―――――。
「・・・ヒック・・・あ〜?んだよ、文句あんのかアゴォ」
アルコールがの体を蝕み、酔いが回っていた。
「ちょっとちょっと・・・酔っ払うの早すぎよ」
「そりゃあ一気に飲めば酔いの回りも早いですからね」
「うるへーい。大体・・・私が誰を好きになろうが勝手じゃない。
なーんでさぁ、あーだこーだ外野に言われなきゃ行けないワケぇ?」
『え?』
途端、酔っぱらい始めたの口からアゴ美達が期待していた話が出てくる。
一方で新八は今までひた隠しにしてきた事を
本人が床に転がっている、の意中の相手の事を
暴露してしまうのではないのかと思い、心配し見ていた。
「・・・す、好きな人居るの?」
「居ちゃ悪いの?」
「そ、そうじゃないけど」
「そりゃあさぁ・・・私だって、普通にしたいよ。手ぇつないで街歩いたり、腕組んだりしたりさぁ〜。
でもさぁ〜・・・私がこんな仕事してるからぁ、あの人にいっつも我慢ばっかりさせてるようでさぁ〜申し訳ないと思うわけぇ。
分かるぅ?悩める乙女の恋スル気持ちぃ〜」
「さん、飲むと愚図るんですね」
「初めて見るわこんな」
「こういう女、よく居るわよねぇ」
「おいオカマ共、聞けや人の話」
『あ、はい』
酔っ払っているの声に、アゴ美やワカメ、新八の三人は
黙って彼女の言葉に耳を傾けた。
「でも・・・でもね」
「何?」
すると、は先ほどの愚図る姿から一変して、何やら頬を染めてヘラヘラと笑い始めた。
「あの人に抱きしめてもらうとね・・・なんかね、嬉しいの。仕事が忙しくて会えないんだけどさぁ
私の事・・・好きなんだなぁって、大切にされてるんだなぁって・・・エヘへ、嬉しくてたまんないの。
いっぱいいっぱい抱きしめてもらってさぁ・・・私、あの人に愛されてるって、改めて思うのよ。
抱きしめてもらったり、チューされちゃったりするともっと好きになっちゃうからヤバイわけぇ〜。
あんまり大っぴらに言えないからアレだけどぉ、ホント・・・もう、好きすぎて辛くなっちゃうのー。
でも、もっとしてぇ〜とか言えないじゃん。そう言うと何か子供っぽく見られてそうで嫌じゃん。
だけどねぇ、本当はねぇ〜ちゃんはーいっぱいチューもして欲しいし抱きしめて欲しいの。
だって私彼女なんですよぉーワガママ言ってもいいじゃないですかぁ〜?
ていうかぁ〜あの人独り占めしちゃってて何かもぉーごめんなさーい・・・みたいな?エヘヘヘへ」
「ダメだわ、完全に惚気けてる」
「凄まじい惚気っぷりですねコレ。普段のさんとはえらい違いですよ」
新八は床に未だ転がって起きようともしない銀時をちらっと見る。
聞いているのか、そうでないのか分からないけれど
自分が大切に想っている人が此処までの姿を晒しているのだから
何か反応すればいいのに、と新八は心の中でそう思っていた。
「色んな人にねぇ別れろって言われても、私はねぇ別れませんよー。誰が別れてやるかってんだコノヤロー。
死ぬまで一生私はあの人を好きで居続けるわよ。誰に言われたって、あの人は私の・・・大切な人なんだもん。
大好きな人を手放すなんて・・・私はしませんよー。離れろって言われても、離れてやんないんだからねー。
其処まで私はねぇ、お人好しでもないし、良い子チャンでもないんだから」
「分かった分かった。ところで」
「何よアゴ。無駄口叩いたらそのアゴ伸ばすぞ」
「黙れや小娘!!」
「ア、アゴ美さん落ち着いて・・・っ!!」
の発言にアゴ美の癪に障ったのか
殴りかかろうとした所何とか新八はアゴ美の動きを止めた。
「アンタ・・・さっきから、あの人って言ってるけど・・・正確には、誰なの?」
「んー?あのねぇ、の付き合ってるあの人はねぇ」
「あー!!そ、それは!!」
アゴ美の言葉に突き動かされたのかが自分の付き合っている相手が
銀時である事を告げようとしていた。
いくら酔っているとはいえ、それが覚めてしまえば
本人がひた隠しにしてきた努力が水の泡と化してしまう。
それだけは避けたいと思う新八は言葉を遮ろうとする。
しかし、遮ろうとしたのも無駄に終わった。
何故なら―――――。
「ZzzzZZzzzZZ」
「おい」
「肝心なトコ言う前に寝ちゃうとか、何なのこの子」
それら全部を暴露する前に、は眠ってしまった。
「もうしょうがないわね。起き」
「ったく手のかかるガキだこって」
「銀さん」
「パー子」
すると、今のいままで床に転がっていた銀時が立ち上がり
眠りこけたを抱きかかえ、歩き出した。
「パー子、何処行くの?」
「裏方。んなトコで寝られちゃ俺らの仕事の邪魔になるだけだろ。
コイツの酔いと目が覚めたら、連れて戻ってくるわ」
そう言って銀時はを抱きかかえたまま、従業員の控室へと足を進ませたのだった。
「ったく・・・酔った勢いとはいえ可愛いこと言いやがって。
ますます、おめぇは俺を夢中にする気ですかコノヤロー」
頬をほんのりと赤く染め、そんな言葉を小さく零しながら。
酒は飲んでも飲まれるな
(飲み過ぎご用心)