「・・・うっ・・・アレ、此処は」
ぼんやりと、目が開く。
すると其処は先ほど自分が居た艶やかな天井とは別の
無機質的なコンクリートの天井が目に映った。
「よォ、起きたか」
「・・・銀さん」
私の声に女装した銀さんがコンクリートを遮るように視界に飛び込んできた。
「意識はっきりしてっか?」
「あ・・・はい」
「はい、これ何本?」
目の前に銀さんの指が並ぶ。
「三本です」
「んだけはっきりしときゃ、酔いも覚めたみてぇだな」
「酔い?え?私、一体・・・痛っ!?」
銀さんの言葉に私は勢い良く起き上がるも
突然の痛みに頭を抱える。
さっきまでこんな痛みなかったのに。
「大丈夫か、おい?ったく、酒を一気に飲むからだよアホ」
「え?私、お酒飲んだ記憶」
「ジュースと間違えて、おめぇは酒を一気に飲んで、酔っ払ってぶっ倒れたんだよ。ホレ、水」
「あー・・・成る程。すいません、ありがとうございます」
お酒を飲んだ記憶は無いのだが、銀さんの言葉でようやく納得。
ジュースと間違えて飲んだのなら納得がいく。
頭が痛いのもそのせいらしい。
私は銀さんからコップの入った水を受け取り飲み干した。
「あの、此処は?」
「あいつらの控え室。酔って寝ちまったおめぇがあんなトコ居たら
邪魔になるだけだから俺がこっちに連れてきた」
「すいません銀さん。ご迷惑をお掛けして」
「まぁ別にいいけどな。サボれる口実にもなったしよぉ」
そう言いながら銀さんはパイプ椅子に腰を下ろし
机の上に無造作に置かれている本を読み始めた。
ふと、思った。
「あの、銀さん」
「あー?」
「酔っ払ってる時の記憶が無いんですけど・・・何も、してませんよね?」
そう。
酒を一気に煽って、酔っ払って眠ってしまった・・・ということは
つまり・・・何か仕出かしていなだろうか、という心配が過った。
普段なら家で飲むはずのお酒を、出先で飲んでしまい
挙句酔っ払ってしまったのだから何か仕出かしてはいないだろうか、と心配になってきた。
私と同じテーブルに銀さんが居たのだから、この人なら何か教えてくれるはず。
「さぁな。俺はおめぇからビンタされて床に転がってたから知らねぇよ」
「あ。・・・・・・す、すいません」
銀さんは若干不貞腐れながら私に言葉を放った。
その言葉に私は一気に肩身が狭くなる。
酔っ払う以前の記憶ははっきりと残っている。
そう、アゴ美に「カップルみたい」と言われた恥ずかしさのあまり
私は銀さんにビンタを食らわせ、目の前の人はその拍子に床に落ちてしまったのだった。
酔って連れてきてもらっただけではなく
ビンタまで浴びせてしまい、本当に自分自身に罵声を浴びせたいくらい反省をしなけれならない。
「殴る相手間違えてんじゃねぇよ、おめぇは」
「すいません」
「今度イチゴジャンボパフェ奢れよ。あとフルーツパフェもな。それからイチゴ牛乳も1週間分買えよ。
それで介抱したのと、殴ったのはチャラにしてやる」
「何でも奢らせていただきます。本当にすいませんでした」
土下座しても足りないくらいだ。
殴った上に介抱してもらったのだから、自分のお財布が空になるくらいまで
銀さんのスイーツ注文には答えてあげようと思ったと同時に
外では二度とお酒を飲むものか、と心に誓うのだった。
「銀さん。さんは・・・・・・ああ、よかった目が覚めたみたいですね」
「新八」
すると、ノックが聞こえ扉が開く。
現れたのは銀さんと同じく女装した新八だった。
「大丈夫ですか?いきなり倒れるからビックリしちゃいましたけど」
「大丈夫よ。まさか間違えてお酒飲んじゃうなんて、私もドジね」
「まぁあのテーブルには僕とさん以外、みんなお酒飲んでましたからね。仕方ないですよ」
新八の言葉で心救われる、とはこの事だ。
流石万事屋一のフォローのウマイ子、と感心していた。
「そうそう。近藤さんから言伝で、次の店に自分は山崎達を連れて行くからさんは帰っていい、だそうです。
幕府の偉い方も気分よく近藤さんたちと一緒にお店を出て行かれましたよ」
「そっか。じゃあ、私はこのまま帰るわ。これ以上銀さんや新八に迷惑はかけられないしね」
新八が近藤さんの言伝を預かり、それを聞いた私は
寝転がっていたソファーから立ち上がる。
頭は痛いものの、意識はあるし、千鳥足というわけじゃないから歩いてでも帰れる。
さいあく、途中で籠を拾って帰ることも視野にいれておこう。
「大丈夫ですか?僕達が帰るまで待ってていいんですよ。
片付けが終わったら帰りますし・・・ねぇ、銀さん」
「本人が帰るって言ってんだから、帰らせてやれよ。俺らと帰るってなったら
があぶねぇだろうが」
「銀さんが一緒に帰ってあげればいいじゃないですか」
「うっせぇな。俺だって疲れてんの。へとへとなの」
「銀さん」
「新八いいよ。私歩いて帰るから。銀さんだって疲れてるんだし」
「さん」
いつもなら「チャンを夜歩きさせたくないから、銀さん同伴で!ついでに泊めろ!!」って言葉が
飛んでくるのかと思っていたのだが、何だかいつもの銀さんらしくない素っ気ない態度で
変に突き放されてしまったから、多分まだ殴ったことを怒っているのだろうと思い
これ以上、この人の機嫌を損ねたくない私は自分から帰るよう新八に言った。
「じゃあ、今日は二人共ありがとうございました」
「本当に大丈夫ですか?」
「さいあく籠拾ってでも帰るから平気よ。ありがとう新八」
1人で帰ろうとする私を新八は後追いするも
安心させる言葉をかけ、私は心配する新八の頭を撫でた。
目で銀さんを見るも、私に目を向けず・・・視線は本に向けたまま。
これはしばらくご機嫌取りに骨がいりそうだなぁ、と心の中で呟き
オカマたちの控え室を出ようとした。
「あら、。もう大丈夫なの?」
「アゴ美」
すると、其処にアゴ美がやってきた。
多分いつまでも戻ってこない銀さんや新八を呼びに来たのだろう。
上客が帰ったのだから、お店は閉店。
残るは従業員たちで後片付けになる。
「すっかり酔いも眠気も覚めたわよ」
「なーんだ残念。もう少しで聞けそうだったのに」
「え?何それ?」
もう少しで聞けそうだった?
意味が分からず私は首を傾げる。
「あら覚えてないの?アンタ、凄まじく惚気けてたわよ・・・あの人っていう男の事で」
「へ?」
惚気、てた。
その言葉に私の心臓が凄まじい速さで脈打ち始めた。
「あ、アゴ美ちゃん・・・私、どんなふうに酔っぱらってたの?」
「やだ、パチ恵から聞いてないの?凄かったわよぉ、アンタの”あの人“っていうヤツの惚気。
アンタ酔うと愚図るかと思ったら惚気始めるのね。まぁ、アンタの惚気話聞いてると
相当自分の気持ち隠してるみたいだったわよ。相手に不満があるって言う訳じゃなくて
なんて言うかアンタが甘え方を知らない子供っていうか、愛情表現が下手くそっていうか。
いっその事、抱きしめて離さないでー!!って言えばいいのにって思ったわ」
アゴ美の言葉で体中の熱が上がっていく。
酔っ払って、何事も無かったかと思ったら
どうやら私は酔っ払って、惚気話をしていたという事実に直面した。
幸いな事に意中の人のところは上手い事隠していたみたいだが
全然今現在隠せていない。
何故なら、部屋の中に・・・居るのだから意中の人―銀さん―が。
「なーにが『ちゃんはーいっぱいチューもして欲しいし抱きしめて欲しいの』よ?
だったらはっきりと、言ってやりなさいよ。男はそんな事言われた日には喜ぶに決まってんだから」
「ゎ、私・・・そんな事・・・っ」
「ア、アゴ美さん・・・そ、それ以上は・・・っ」
恥ずかしい。
恥ずかしくて、たまらない。
ずっと、ずっと・・・そんな醜い気持ち、押し殺してきていたのに。
あの人―銀さん―の隣で、そんなワガママ言わないつもりだったのに。
顔が真っ赤になり、目から零れ始める雫。
甘えない、甘えちゃいけない。
私ばっかり・・・好きな気持ち押し付けられない。
それなのに・・・それなのに・・・っ!!
「どうし」
「・・・最悪っ」
「あっ、さん・・・っ!!」
「、どうしちゃったのよ!!」
其処に居るのも辛くなり私は、逃げるように足を走らせた。
目から零れる涙の雫。
水玉になって、外に弾き出されていく。
最悪、サイアク、さいあく。
「私の・・・バカッ・・・大バカヤロウ・・・ッ」
震える声で自分に言い聞かせながら、店を飛び出し・・・夜の街へと駆けて行った。
「、どうしちゃったの?」
「あ、あのこれには事情が」
「新八ー。俺先帰るわ」
「え?銀さん・・・つか、着替え早っ!?ちょっ、片付けは!?」
「別の仕事思い出した。ちょっくら逃げた蝶々捕まえてくるわ」
「はぁ?・・・・・・ちゃんと捕まえてきてくださいよ。僕行きませんからね。片付けあるんで」
「わーってるよ。片付けヨロシク頼むよ新ちゃん」
「はーい」
「ちょっとパー子!?」
酔って忘れた事を思い出すと大体恥ずかしくてたまらない
(俺、よくあるわそれ)