『誰に言われたって、あの人は私の・・・大切な人なんだもん』
気絶したフリなんてするんじゃなかったって、俺は後悔した。
が酒を飲んで酔っぱらい始めたくらいに
俺は起き上がるつもりだったけれど、いきなりべらべらと話し始めるから
元の場所に戻るタイミングを失い、そのままでいた。
そしたら・・・あのザマだ。
あのが、惚気だしたのだ。
普段のアイツならあんなこと、絶対に言わねぇ。
むしろ恥ずかしがって言うはずもねぇんだ。
それは俺が一番分かってる。
恋愛に関して、は色々と無知だから恥ずかしがって当然だし
他人には関係を知られたくないから自分の気持ちを隠している事も俺は知っていた。
だから、俺は時々不安だった。
俺ばっかり、の事好きなんだろうか・・って。
でも、それはただ俺がそう思ってただけっていうのが今日初めて分かった。
本当は――――違うって、お前は今日俺に教えてくれた。
「吐くならちゃんとトイレ行って吐きなさーい、チャン女の子なんだから」
「ち、違います!!つーか吐きませんから!!」
西郷の店を飛び出したを追っかけた俺は
街のあちこちを探しまわった。
でも、すぐに追いかけたのが良かったのか
が公園に入っていくところを見つけ、走る速度を落とし中へと入る。
公園の中に入ると、はベンチの影に隠れ蹲っていた。
そんな俺はベンチの上に立ち、蹲るを見下ろした。
俺の顔が見れないのか、それとも見たくないのかどっちとも思えないが
膝を抱えは蹲っていた。
「、帰ぇるぞ。家まで送っていってやっから」
「構わないで下さい。1人で帰れます」
「女の子の夜の一人歩きは危ねぇだろうが。ビンタの事は銀さん怒ってねぇから」
がアゴ美と俺を間違えて殴った件を持ち上げた。
これさえ言えば、安心させられるだろうと思っての選択だ。
「お願いですからあっち行ってください。1人でも私、帰れます」
しかし、は顔を上げようともしない。
ましてや動くことすらしたくない模様。
俺が居る・・・ただ、それだけの事が今のコイツの動きを止めているようなもんだった。
髪を掻きながら、未だ顔を上げないを見る。
「一回しか言わねぇからよーく聞けよ。・・・・・・正直、嬉しかった。お前がそう想ってくれて」
「ぇ?」
俺の言葉にが顔を上げた。
暗がりでも分かる。
ヒデェ顔だ。
泣いて充血した瞳に、ボロボロに頬に零れた涙。
ちょっと鼻水も出て・・・美人が台無し。
でもそんな顔も、俺にとっちゃ可愛いもんだ。
「おめぇ、あんま俺に甘えたりしねぇだろ。むしろ俺が甘えたり愚図ったりばっかりだし。
会えない日続くと、仕事と俺どっちが大事なんだよって言って困らせたりするしさぁ。
それでもお前は笑顔で俺の側に居てくれる、ワガママも甘える仕草もしねぇでさ。だからなーんか不安だった」
「銀、さん」
「俺ばっかりおめぇの事好きだ好きだって言ってるようでよぉ」
「・・・・・・」
「でも、がどんだけ俺のこと好きかっていうの、分かったんだよ」
俺はベンチから下り膝を曲げ、と目線を合わせ
アイツの頭にと手を置き、優しく撫でた。
「抱きしめて離すどころか、束縛してぇくれぇなんだぞ銀さん。
ぶっちゃけ俺の愛はさぁ甘っちょろいモンじゃねぇんだよ」
「銀さん・・・っ」
「たまにはワガママ言っていいんだよ。が甘えてくれたら、銀さんはりきって甘やかしちゃうぞ。
いっぱい抱きしめて欲しいなら、そう言え。いっぱいチューして欲しいなら、そう言え。
は俺の彼女なんだからワガママ言っていいの。独り占めしてくれちゃってオールオッケー!
銀さん困りませーん!むしろ大いに喜びまーす!
だってよぉ・・・俺の全部はお前のモンなんだよ、気にすんな、遠慮すんな、甘えろ」
「ふ・・・ふぇ・・・銀さぁあんん!!」
すると、が俺の名前を呼びながら抱きついてきた。
あー・・・俺のインナーがの涙と鼻水でデロデロだけど
まぁ良しとしよう。こういうの一面も悪くはねぇし
何せ、俺のチャンの涙と鼻水ですからね。
普通ならきったねぇもんだけど、新八のお通ちゃん愛風に言うなら
涙は希少価値の水で、鼻水は聖水って・・・こんな感じだな。
「あーあ・・・ったく、ヒデェ顔が更にヒデェ顔だなおい」
「だ、だって・・・恥ずかしくて」
「ホントにおめぇは恥ずかしがり屋さんだな。まぁ其処が可愛いから銀さんとしてはいいんですけどぉ」
泣き顔のの顔を、俺は着流しの袖で拭ってやった。
それでホッとしたのかが俺に抱きつく。
一瞬驚くも、その動揺を見せずの背中を優しく叩く。
「銀さん」
「なーんですかぁ」
「今日・・・家に帰りたくありません」
「んだよそれ。誘い方が古ぃぞ。誘うならもうちょっと可愛く誘え」
「こういう言葉しか私知りません。だから今日は」
「今日は?」
密着していた体が離れ、が俺を見上げる。
「抱きしめて、離さないで欲しい。いっぱい抱きしめて、いっぱいチューも・・・してください」
「んな!?お・・・お前なぁ」
頬赤くしながら言うに俺の心臓が
思いっきり跳ねた挙句、体中の熱が上昇していった。
あまりに可愛すぎる言葉や表情に、俺は顔を伏せた。
ホント・・・こういう無自覚な彼女持つと、彼氏は辛いねぇ。
あんまり言わねぇ言葉聞けば、その破壊力の凄まじさは半端ねぇんだからよぉ。
心臓は鷲掴みにされるわ、股間の息子は元気になるわの大騒動だ。
体も心も制御が効きゃしねぇ。
「言っとくけど、俺のアフター料はそこら辺のホストより高ぇんだからな」
「分かってます」
「帰りたくないって言ったからには、覚悟・・・出来てんだろうな?」
「はい」
「そうと決まれば、行くぞ。一晩中ラブラブ出来ちゃうお部屋に」
「はぃ」
を立ち上がらせ、歩き始めると
アイツは俺の腕を掴んで、手を絡ませてきた。
俺ももちろん、それに応えるべく・・・手を、そして指も絡ませた。
俗にいう、恋人繋ぎってヤツだ。
たまには酒の力借りて、こういう風になるのも悪かねぇな。
でも―――――。
「ー」
「はい、何ですか銀さん?」
「おめぇ・・・次から酒飲むの俺の前か家で飲むかにしろ」
「え?・・・あ、はい?」
コイツに酒を飲ませるのは気をつけたほうがいいな。
ホント、あんなデレデレした顔されちゃ
可愛すぎてその場でぶん取って食ってしまいそうになるからな。
ああいうのは、俺の前ですりゃいいんだよ。
だって、コイツ−−は俺の彼女ですから。
酒と笑顔と、男と女
(飲んで笑って。でもやっぱり酔っ払う姿も独り占めしたい)