祟りにあって、猫になってしまった俺。




こんな姿じゃ、新八や神楽どころか・・・にすら分かっちゃもらえねぇ!!





かぶき町の野良王・ホウイチに連れられ
猫になった俺とヅラ、そして何故かゴリラになったゴリラ(近藤さん)は
キャバ嬢が集まる場所へと出てきた。


其処に出るやいなや、あのオッサン猫はキャバ嬢達の注目の的になっていた。







『クソッ・・・ホウイチのヤツ・・・羨ましい事しやがって・・・っ』


『何を言うか銀時。アレはこの街で生き抜くための策だぞ。羨ましがる所ではなかろう』


『うっせー!!大体こんな姿になった今はにすら気づかれ』










「おりょうさん」


「あ、さん」

さんだわ!」

「ホントだ!さ〜ん!!」







聞き慣れた名前と声が即座に耳の中に入っていった。



すぐさま首を声の先に向けると――――真選組の隊服に身を包んだが立っていた。




しかもが其処に現れた瞬間
ホウイチに群がっていた女共もの両脇に近づいていった。

コイツ・・・男を無自覚で引き寄せるどころか
女までも無自覚で引き寄せる力があるらしい・・・と今更ながら気付いた。







『男だけではなく、女にもモテるのだな流石殿だ』


『何が流石だよ。大体ありゃ、アイツの無自覚の賜物だっつーの。つーかアイツ女にまでモテるとかどんだけだよ!!』


は誰にでも優しいからなぁ〜。俺を普段ゴリラとかバカゴリラって言うけど、優しいからなぁは』


『いや、おめぇの場合は10割バカにしてるんだよ』







細い路地。
屋根の上で俺たちは、下で女同士のやりとりを見ていた。

今なら此処から出てに飛びつきたい衝動が駆られているが
こういう時こそタイミング!


タイミングを見計らって出ようと、俺は考えていた。








「聞きたいことがあって来たんですけど・・・あら?かぶき町のブサイク猫王じゃん。
相変わらずおりょうさんトコに餌ねだりに来たの?」






すると、が足元に居るホウイチの存在に気づき、奴の前で膝をつき手を伸ばした。
どうやらコイツの耳にも野良王の存在は届いていたらしい。








『ケッ・・・余計な女が来やがった。餌ねだりにきたんだ。邪魔すんなアマ!!』



『!!』


『マズイ!!殿が引っかかれるぞ!!』





すると、ホウイチがの差し出された手を引っ掻こうと
自らの手で爪を出し、アイツの手を払おうとした。


それに勘付いた俺とヅラは―――――。







『テメェ等、何の真似だ?』



『おいおい。俺の女の手に傷、付ける気か?』

『いくらホウイチ殿でも、彼女の手に傷を付けるのならば容赦はせん』






の手に傷が付く前に、ホウイチの前に立ちはだかり
睨みをきかせ動きを止めた。






『ギン・・・せっかくの餌を逃すつもりか?』


『コイツ()傷つけられるくらいなら餌なんていらねぇーよ。
いくらアンタでも、人様のモン勝手に傷つけられちゃさすがの俺も怒ると』




「あら、白猫ちゃんも居たんだね」



『って、おいぃぃいい!!今俺、いいセリフ言ってたんだけど!!何良い感じにぶち壊してんだよおめぇは!!





感じ良く、ホウイチの動きを止めて
かっこ良くセリフをぶちかますつもりだったのに、タイミングを読まずして
が俺の腹を掴んで、抱き上げた。

だが、俺がどうこう叫んだ所で
今の俺は猫・・・人間のには俺の「本当の声」が聞こえるはずもない。


体を容易く回転させられ、と目が合う。


一瞬、の目が驚いた表情になる。
もしかして、・・・俺がおめぇの愛しの銀さんだって気づいた・・・?








「可愛い〜!白猫ちゃん、何か目が死んだ魚のような目してて可愛い〜!!」








気づいたの目だけですかぁああ!!




驚いた表情になったのもつかの間。

は女の子らしい声を上げて俺を思いっきり抱きしめた。
どうやらは猫が好きらしい。






『お、おい!!おめぇ気付けよ!!おめぇの大好きな銀さ・・・あ、やべ胸当たってる。
ちょーやべぇーよ・・・の胸ってやっぱり柔けぇな。こういう風な感じ方もアリだな』


『何をぅ!?銀時、貴様なんという・・・っ!!殿〜俺も抱っこして欲しいにゃん!』

『おぉおいにゃんはやめろっつっただろ!!』



さん、何か黒猫ちゃんが足引っ掻いてるよ?抱っこして欲しいんじゃない?」

「え?」





すると、が足元のヅラ猫の存在に気付く。

がそちらを見ると、ヅラはあからさまに愛らしい目でを見つめていた。








「黒猫って不吉をもたらすって聞くから嫌なんですよー。それよりこっちの白猫の方が私は好きです」


『な、何だとぉぉお!!』

『ぶははははは!!ざまぁあねぇなヅラァ!!さっすが俺のだぜ!!』





ヅラ、敢え無く撃沈。


足元のヅラの存在をガン無視して、は俺を抱きしめる。
こういうのを味わえるなら、猫になるのも悪かねぇな・・・なんて心の中で思ってしまった。






「そういえば、さん・・・何か聞きたいことでも?」






すると、おりょうがの目的を尋ねる。







「あっ、そうだった。・・・あの、坂田さん・・・見かけてませんか?」


「え?万事屋さん?こっちには来てないけど?」


「・・・そ、そうですか」






俺達の関係を知っている人間の前じゃ、は基本俺や目上の人間以外は呼び捨てだが
俺のことを「坂田さん」とか新八や神楽を「新八くん」、「神楽ちゃん」と呼ぶ辺り
関係を悟られないように振舞っている。



おりょうの言葉にの抱きしめる力が弱まるのを感じた。

もしかして・・・俺を探してるのか?






さんが万事屋さん探すなんて、どういう風の吹き回し?」


「え?ああ、いえ・・・坂田さんにはお世話になってますし、新八くんや神楽ちゃんとも私、仲が良いんで。
坂田さんが居なくなったから探して欲しいって、頼まれちゃったから」


「また何処かで飲んだくれてると思うわよ万事屋さんの事だし」


「そ・・・そうですよね。そうだと、いいんですけど」



『・・・






抱きしめる力が弱まったかと思えば、途端小さく震えはじめた。
そしてその震えを悟られないようには俺を強く抱きしめる。



苦しいが・・・その苦しみの中で分かったことがあった。


の胸ん中からギスギスと、ひでぇ音が聞こえてきていた。


まるで痛いのを堪えるかのような・・・そんな音だ。




ああ、俺は他の奴らだけじゃなく
大切な女にまで心配を掛けているんだろうな、と気付いた。









ホウイチに色んな所を連れまわされて
ようやく食いもんに有りつけた。場所がババァの居る店だったのが
一番の驚きだったし、其処で聞かされた話も聞き流せるようなもんじゃなかった。



腹は膨れ、襲ってきたのは眠気。

しかし今は人間ではない俺たち、もちろん寝る場所は外だというのは決まりきっていた。






『今日はもう遅い。明日に備えて寝るとしよう』

『あーあ・・・おらぁ、いつになったらゴリラから人間に戻れるんだろうか』





ヅラとゴリラは、寝床を探し歩き始めるも
俺は2人とは別の方向に歩みを進める。






『おい銀時、何処に行く?』


『そんな姿で帰っても意味なんてねぇーぞ万事屋ぁ』


『アホか。ちょっと用事があるんだよ・・・てめぇらは勝手にそこら辺の野っ原に腹でもチンコでも出して寝てろ』


『銀時!!』

『万事屋!!』






2人(いや2匹か)の声を振り切るように俺は走りだした。






そう―――――愛してやまない、女のもとに。






今更、こんな姿になってまで気付いてもらおうだなんて
もう無理なことだとは十分に承知していた。




無理でも、こんな姿になってまで・・・側に居なくちゃいけねぇって、昼間そう感じた。




猫って意外と便利なもんで人間の時では通れない道も通れて
いつもは少しばかり時間のかかる道のりも、スムーズにの家までたどり着いた。

もちろん、門は締め切られていたが
猫は人間と違って不法侵入が咎められない生きもんだ。

俺は塀を登り、庭に降り立ちの部屋の前に行く。



分かっていたことだが縁側の戸は閉まっており、いつもの俺ならこんなものすぐさま開けれる。

だが、今の俺は「人間」ではなく「猫」。

自分の力でそれを開けることすら敵わない・・・だから、猫は猫なりに開けてもらうよう手を尽くす。










――――――ガリッ、ガリッ、ガリッ・・・!!







「にゃー・・・にゃー・・・にゃー・・・」







爪を立てて戸を削り、声を出す。


動物の言葉なんて、人間には聞こえない。

人間に聞こえるのは、動物の「鳴き声」だけ。



だったら、それで意思表示をすればいい。




すると、障子の開く音がして――――――戸が、開かれた。








「・・・お前、昼間の白猫」






開かれた戸から現れたのは、紛れもなく寝間着の浴衣を着ただった。

出てきたの姿に俺は嬉しくなり尻尾を振る。






「どうしたの?こんな夜遅くに。ていうか、何でお前・・・私の家知ってたの?」



『え!?・・・あー・・・』




は苦笑を浮かべながら俺に言い放った。


確かに昼間会ったばかりの猫が、何で見知らぬ女の家まで辿り着けた・・・なんて不思議に思って当然だ。
しかし俺は言い訳が出来ない。だって、猫だから。






「ま、いっか。ご飯食べた?」


「にゃ、にゃー(食った)」


「その返事からして食べたみたいだね。おいで、こんな時間までウロウロしてたら野犬に襲われちゃうよ」






優しく差し出された両手に、俺はゆっくりと向かう。

するとは容易く俺の体を抱き上げ、腕の中に入れ開けた戸を閉めた。


いつもなら・・・俺がコイツの体を、容易く抱き上げ腕の中に入れるはずなのに
今となっては立場が逆転。


男としてこういうのは恥ずかしい気もしてならないが、からなら悪くないと
自分の中で肯定付けた。



部屋の中に入れられると体を下ろされ、俺は辺りを見渡す。


相変わらず書物が机の上にあって、灯りの点いた側に読んでいる途中の本が置かれていた。
するとは広げられていた本を閉じて、それを机に置いた。








「そろそろ寝ようと思ってたんだ。今日は此処で寝ていいよ。明日の朝はばぁやにねこまんま作ってもらうね」







は俺にそう笑いかけながら布団の中に入る。
俺もそれに遅れを取らないように、の側で体を丸めた。

明るかった部屋の灯りが消され、其処に静寂が走る。








「今日・・・お前が、此処に来てくれて、良かった」







静寂の中に、が俺の体に触れ、撫でながら話し始める。






「私ね・・・今日、好きな人に会えなかったの。まぁ、いつも私の仕事が忙しくってさ
会う時間ないんだけど。今日、珍しく時間に余裕が出来たから会いに行ったんだけど・・・その人ったら
そういう時に限って・・・忽然と居なくなっちゃったの。会いたくて、いろんな場所探したけど・・・見つからなくて。
結局・・・今日、全然会えなかったんだ」







逢いたかったヤツが、今現在
猫になってるとも知らずは話を続ける。

俺はもちろん、そんな話に相槌も出来ないし言葉を返すことも出来ない。

だから、ただ、黙っての話に耳を傾けた。






「よく、その人ね・・・ウチに泊りに来るときもあるの。泊まりに来た時は朝まで私の側にいてくれてね。
起きるのも私より早くってさ、でも優しい笑顔で『おはようさん』って言ってくれるんだよ。
それからうちのばぁやと喧嘩しながらも朝ご飯食べて帰るんだけど。その時の食卓といったら、もう笑っちゃうくらい酷くってさ。
そう思うと・・・急に居なくなったのが、なんだか・・・・・・怖くなって」





ふと、震える声に俺は丸めていた体を起こしを見た。




ああ、やっぱり・・・泣いてやがった。



俺はの顔に近付き、擦り寄る。

目から零れ落ちる涙が毛に張り付いて、染み渡っていく。








「ぎ・・・銀さん・・・銀さん、何処行っちゃったんですか・・・っ」



『・・・、泣くなよ。ゴメンな』









腕を広げ、包み込んで、泣いているお前を宥めてやりてぇのに・・・今はそれも敵わねぇ。


泣きながら俺を呼ぶ声に、俺はただアイツの涙を舌で拭ってやることしかできなかった。





人間の俺の時に出来る事と、猫の俺の時に出来る事。


あまりにもその差は大きすぎて、祟りはおっかねぇな・・・なんて本気でこの時痛感した。










それから結局色々あって
俺たち(ゴリラ以外?)は元の体を取り戻すことが出来た。



猫になってた、なんて誰も信じちゃくれねぇ。

何があった、なんてどう伝えりゃいいのか分からねぇ。


大好きな甘いモノが喉を通らないくらい、ひでぇもんだったのは確かだった。





人間の体に戻ってやったこと。

風呂に入り、大好きな布団で寝て、甘いモノをたらふく食って、いつもの道をフラフラと歩き―――――。









「んぅ・・・」


「いつまで寝てんだよ、さっさと起きやがれ」


「ぇ?・・・あ」


「おはようさん、ねぼすけチャン」


「ぎ・・・銀、さ・・・っ」









大好きな女の寝顔見て、朝一番の挨拶を交わす。



は俺の姿を見て、飛び起きた。





〜いい朝」


「何処に行ってたんですか!!何がいい朝ですか!!探したんですよ!!心配したんですよすっごく!!」




飛び起きたの口から飛んできた言葉に俺は頭を掻く。








「ご、ゴメンな。新八と神楽から聞いて、銀さんこうやって朝早くにチャンに会いにきたんだよ?
お、俺だっておめぇに会えなくて寂しかったんだぜ?」






ぶっちゃけ、猫の姿で2回ほど会ってますけど・・・なんて口が裂けても言えない。






「ゎ、私だって・・・私だって、寂しくて・・・」


「あーもう分かった分かった。朝から泣くなって。
銀さんの側離れたりしねぇから。良い子だから泣き止みなさーい」






これ以上に泣かれたら、色んな意味で危ない気がしてきたので
俺はを抱きしめて背中を優しく叩く。










「はい?」







そして、軽く触れ合う唇同士。



朝ならこれくらいの戯れ、許される範囲だ。







「ぎ、銀さん、朝からは・・・っ!?」


「こんくらい、いいだろー別にぃー。ん〜もっといっぱいチューさーせてチャン。
銀さんチャンにちょー飢えてんの」


「ちょっ、だ、ダメですってば銀さん!」







これが、猫の時に出来なかった事。

これが、人間の時に出来る事。




本当に、この差はでけぇ。









「くぉおおらぁぁあ天パァァァアア!!朝からお嬢様に何しとんのじゃわれぇぇぇええ!!」








すると、障子を開くと同時に聞こえてきた地響きのような声。

ババァが目を光らせて立っていた。






「チッ、出たなクソババァ!!今日こそマシな朝飯用意してんだろうな?あぁん?」


「貴様に食わせる飯などないわ!!ねこまんまで貴様は十分じゃ!!」


「うっせぇババァ!!ねこまんまなんぞもう二度と食いたかねぇんだよ!!真っ平ごめんなんだよ!!
テメェの作ったクソマズイねこまんまなんぞ誰が食うかボケェ!!」


「見ておれ・・・そのへらず口の中に無理やり放り込んでやるわ。お嬢様、食事のご用意が出来ましたので」






どかどか、と足音を立ててババァは部屋を去っていった。







「相変わらずですね銀さん」


「ったく。相変わらずオメェんトコのババァはうるさくてかなわねぇよ。ホラ、飯食いに行くぞ」


「はい」






そう言って、俺はの手を引いて食卓へと向かう。






「そういえば、銀さん」


「何だ?」


「銀さんが居ない間、不思議な白猫がウチに来たんです。しかも夜中に。
なんて言うか私が寂しいのを感じ取ったっていうか。それで朝までその猫、私の側に居てくれて
ばぁやが作ったねこまんまちょこっと食べて帰っていったんです」


「へぇー・・・面白い猫が居たもんだな(ババァの作ったねこまんまがマズかったんだよな、確か)」



「目がすごく銀さんの目に似てて、毛並みも銀さんの髪みたいにフワフワしてたんですよ。
思わずその猫を銀さんって呼びそうになっちゃいました」


「お前なぁ〜」


「すいません」





でも、呼んでたじゃねぇか・・・十分に。



泣きながら、俺のこと・・・呼んでただろ。




だけど、お前は分からないだろうな。


あの日、あの時・・・お前の側に居た猫が、俺だということ。

泣いているお前を猫ながらも、精一杯の力で宥めている俺が居たということ。






猫だろうと、何だろうと、俺はいつだってお前の側に居てやるよ。



だが、お前を一番笑顔にできるのは「人間の俺−坂田銀時−」てことは確かだった。





或る、猫の日
(猫になった俺が感じた、お前の事) inserted by FC2 system

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!