「今日は入隊試験・実技だが、どうだトシ?」
「どうと言うか・・・1人だけ、気になってるヤツが」
「おぉ、お前もか!実は俺もな、気になってる子が居るんだよ」
とある日の、特別警察・真選組屯所。
本日、入隊試験・実技のため局長である近藤勲と副長である土方十四郎は
廊下を歩きながら話をしていた。
どうやら2人揃って、入隊志願者の中に気になっている子が居るらしい。
「で、どの子なんだトシの気になってる子は?」
「近藤さん。顔ニヤけながら言うのはやめてくれ。何となく、どいつかって予想がつく」
近藤のニヤニヤとする表情に、土方は呆れた表情をしていた。
「あれ〜トシ、分かっちゃった?きっと、良い子じゃね?つか、顔可愛いし」
「アンタの好みとか聞いてねぇよ。てか、顔で決めたんかいアンタは」
「いやいや、そうじゃねぇよ。ちゃんと実力があるから最後まで残したんだ、筆記満点だし」
近藤は筆記試験の紙を見ながら土方に言う。
土方もその紙を渡され、まじまじと見つめる。
他の志願者はどう見ても「バカばっかり」という点数の中に
一際目立つ、満点の「満」の文字。
「がり勉だったらどーすんですか?」
「そこが問題なんだよ〜。いくら筆記で満点って輝かしい点数を取っても、体力がなぁ〜・・・。
それだけが心ぱ」
どかーん!!!!
近藤の言葉を遮るように、凄まじい音が屯所内に響いた。
「道場の方からか?!」
「行ってみるぞトシ!あそこには志願者がいるからな」
2人は顔を見合わせ、慌てて道場へと向かう。
すると、道場の出入り口が破壊されており、庭に男が1人伸びていた。
「誰だ、先に始めた奴は?!実技は、俺や局長が揃ってからだと言ったはずだぞ!」
「先に仕掛けてきたのは、その人です。売られたケンカを買って、戻してあげただけです」
土方の言葉に、ゆっくりと道場内から出てくる人影。
廊下まで出てきた瞬間、ようやく2人にも分かるような姿が見えた。
「お・・・おめぇは」
「と申します。以後、お見知りおきを」
右手に割れた木刀を持ったが2人の前に現れた。
「。・・・まぁ、何だ・・・呼び出された理由は分かってるな」
「採用って事ですか?ありがとうござ」
「違ぇし!何で、試験前にあんな騒ぎを起こしたんだって聞いてんだよ!だから呼び出したんだよ!!」
別室にて、は近藤と土方に呼び出されていた。
2人の男を目の前にしても、は臆することなく
堂々と正座でいた。土方は埒が明かないと思い、ため息を零す。
「とりあえず理由を言え」
「入隊動機ですか?」
「違げぇつってんだろ!!試験前に騒ぎ起こした理由だよ!!
ボケ続けっとたた斬っぞ!」
「トシ・・・落ち着け。とりあえず、何故あのような事を起こしたのか理由を教えてくれ」
近藤の言葉に、が口を開いた。
「女だからという理由です。隊士になろうが、個人の自由なのにあの人が私が女だからという理由で
ケンカを売ってきたので、それを私は買って戻しただけですし。まぁ、筆記試験が私よりも成績が下位だったという
理由で僻んでいたのかもしれません。そこらへんの理由は分かりませんが」
先ほどのボケ倒しを感じさせないほどの答え方に
近藤も土方も少々呆然としていた。
「まぁ、向こうの方も言い訳はすると思いますし、どちらを信じるかはお2人の判断にお任せします。
あの・・・もうよろしいでしょうか?」
「え?・・・あ・・・あぁ、もういいぞ」
の声に近藤が我に返り、返事をした。
「行っていい」と言われ、は立ち上がりその場をあとに・・・―――――。
「ちょっと待て」
その場を去ろうとしたら、土方に呼び止められは振り返る。
「お前・・・どうして、真選組に入ろうと思った?」
鋭くを睨みつける土方の目。
普通なら恐れをなすはずのその視線・・・だが、は怯えることなく土方を見る。
「攘夷浪士・・・ファッk」
「だぁぁぁあぁああああ!!!!
女が言うことじゃねぇだろ!何言ってんだおめぇは!!」
「しかし、私の理由はそれだけですから」
「その発言はやめろ。もう少しマシな理由はねぇのか」
の思わぬ発言に土方は髪を掻く。
彼の問いに、はまったく別の・・・近藤を見る。
そんなの視線に気づく近藤。
「近藤局長・・・お人払い、できませんか?」
「え!?お、い・・・いきなり!?」
の突然の発言に焦る近藤。
「い・・・いきなり男と2人っきりとか・・・君も意外と大胆だな」
『何勘違いしてんだゴリラ』
近藤は頬を染めながら、気違い発言をすると
すかさず土方とがダブルでツッコミを入れた。
あまりの早さでのツッコミに近藤は「ちょ、ちょっとしたお茶目だろ〜」と言う。
そして咳払いをし、気を取り直す。
「人払いをすれば、いいのか?」
「できれば、2人でお話がしたいので。土方副長も・・・この部屋から出たら、この部屋に一歩も近づかないでください」
「なっ!?」
の発言に土方は驚く。そして、それを間近で聞いていた近藤も焦った。
あまりの不審発言に土方は刀を抜き、に向けた。
「てめぇ・・・何企んでやがる?」
「別に。言っておきますが、私は刀や刃物などというものは一切持っておりません。
もし、それでもご不満というのでしたら・・・・・・――――」
そう言いながらは、着ている袴の懐に手をかけた。
「この場で脱いでも構いませんが・・・・・いかがいたしましょうか?」
「!?・・・・・チッ」
の言葉に、土方は舌打ちをしながら刀を収め
外へと出て行った。
彼が部屋から完全に離れたのを見届けると、はため息を零し近藤の目の前に座った。
「度胸も、態度も、剣の腕も一人前。女を入れるのに少し躊躇いがあったが
あのトシを黙らせたのは流石としか言いようがねぇ」
「ありがとうございます」
「で・・・わざわざ、人払いをしてまで俺に話したい事って何だ?」
ようやく本題に入り、近藤とが話を始める。
「先程の入隊理由についてのあの暴言、失礼いたしました」
「最初はビックリしたけどよぉ。しかし、何でまた?」
近藤の言葉には目を閉じ薄く見開く。
「攘夷浪士が、この世でもっとも憎いからです」
「憎、い?」
「父は攘夷浪士・・・乙枯という、人物です。先の、攘夷戦争にも参加した人です」
は淡々と話を始める。
ふと、は近藤を見る。彼の目つきが少々鋭い。
「その目つき・・・不審になるのは分かります。何せ、反乱分子の子供が真選組に入隊したいと志願しているのですから」
「よく分かってるじゃねぇか」
「ご安心ください。私は別に真選組を壊滅させようとは考えておりません。むしろ、消し去りたいのは攘夷浪士達だけです」
「どういう意味だ?」
彼女の言葉に近藤は不思議がる。
攘夷浪士の娘だから、それを排除しようとする真選組は敵同然。
しかしながらの言葉に近藤は、彼女の真意が分からなかった。
「先ほども申したとおり・・・私は攘夷浪士が憎いです。理由はお分かりになりますか?」
「い・・・いや、皆目見当もつかねぇよ」
「父が母を殺したようなものです」
「おふくろさんを?」
衝撃の告白に、近藤は驚くもは話を続ける。
「父が刀を持たなければ、母は天人に殺されることもなかったですし父も死なずにすんだというのに。
だから・・・だから憎いんです。今でも刀を持ち続け、武力でこの世を変えようとする奴等が。
もう・・・これ以上、目の前で誰かを失うのは・・・・・・うんざりなんです」
「・・・・・そうかい」
の話に答えると、近藤は立ち上がりの横を通る。
彼女もまた近藤を見る。
「おめぇさんの気持ちはよく分かった。だが、憎しみで刀を持つもんじゃねぇ。それは分かるな?」
「・・・・・・はぃ」
近藤の言う事は最もだった。
それだけは自身もまた分かっていた。
「まぁ、誰かを守りたい気持ちや失いたくない気持ちがあるなら・・・今後、その態度を俺達に見せてみな」
「え?・・・あの、じゃあ・・・」
近藤は襖を開け、を見る。
「。正式におめぇを真選組に迎え入れようじゃねぇか」
「局長・・・・・・ありがとうございます!!」
の気持ちが伝わったのか、彼女は深くお辞儀をする。
「だがな―――」
「はい」
「少しでも反乱分子のような動きや、俺達を裏切るような動きがあったら・・・局中法度において
お前を処分するような形になる。下手すれば、切腹や打ち首だって免れねぇ事は覚悟しとけ・・・いいな?」
「はい!」
の返事に、近藤は笑みを浮かべた。
部屋を2人で出て、近藤が彼女を見送る。
「後の事は追って、通達をするから待っててくれ」
「はい、よろしくお願いしま」
「うぉ〜い、近藤ぉ〜」
すると、廊下の向こうから地響きにも似た声が聞こえた来た。
二人がそちらを見る。
「松平のとっつあん!!」
廊下の向こうからやってきたのは、松平片栗虎と
先ほど部屋を追い出された土方がやってきた。
「あれ、とっつぁん・・・どーしたの、急に?」
「いやぁ〜よ。実はさぁ〜俺の知り合いの子がなぁ〜・・・・・ってあんれまぁ、ちゃんじゃねぇかい」
『え?』
「お久しぶりです、オジサマ」
『ええ??』
松平が何故、屯所に足を運んだ理由を話そうとした途端
近藤の隣に居たの姿を見て、ガラの悪いオッサンは声色を変えた。
松平の存在に、は一礼をする。
あまりに突然の事で近藤と土方は困惑し始めていた。
「なんでぃ、今日試験だったのかい?言ってくれたオジサマ、此処まで送り迎えしたのによぉ〜」
「勘弁してくださいオジサマ。私はそんなに子供じゃありません」
「オジサマからしたら、娘の次に大事な子なんだからよぉ〜。ちゃんに何かあったらトネがうっせぇんだよ」
「ばぁやには今度、私から言っておきますから・・・・そう気になさらないでください」
「ちゃんは優しい子だねぇ〜」
『っておい!!何、此処で話勝手に進めてんだよ!!』
2人の会話に付いて行けないのか、近藤と土方は会話を止めた。
「とっつぁん!どういう事?!何、その子と知り合いなの?!」
「てめぇも分かるように説明しろ!何で、警察のトップと仲良いんだよ!!」
近藤と土方の言葉に、2人は顔を見合わせ―――――。
「この嬢ちゃんの家の使用人と俺が古い友人でな」
「それを通じて、私が稽古をつけていただいたんです」
「こっち来て、急に真選組に入るとか言って。それでトネに泣きつかれたから
ちょっと扱いたら諦めっかと思ったんだがよぉ〜」
「残念な事に私・・・一度決めた事は貫き通したい主義なものでして。稽古の時はありがとうございました」
2人の関係に呆然とする近藤と土方。
傍から見れば完全に援交に見えてしまう風景なのだが
何かしらの繋がりがある事で「世間って狭ぇ〜」などと、近藤も土方も思っていた。
「でも、ちゃん。オジサマに言ってくれたら、こんな野蛮な奴等の所でもオジサマの力で入れてあげたのに」
「とっつぁん」
「トップの言う言葉じゃねぇぞ」
松平の言葉に近藤と土方は呆れていた。
完全にを贔屓で、更には試験をパスな状態で入れるはずだったと思うと
ある種の職権乱用である。
ばれてしまえば、不祥事も大不祥事である。
「オジサマがそうおっしゃると思ったから、試験の事は伏せておいたんです。
まぁ無事に入隊は出来る事になったので。・・・ねぇ、近藤局長」
「え?!・・・此処でまた俺にふるぅ!?」
にいきなり話を振られ、焦る近藤。
「男に二言は無いでしょう?」
「えっ・・・あっ、あ、でも・・・っ」
先ほどの会話を無しには出来ない。
しかし、松平の知り合いと分かった今、土方の目つきとオーラが大変よろしくない。
「コネで真選組に入った」と外部に分かってしまえば、真選組自体の面子が丸つぶれである。
(実際、松平本人がコネで入れようとしていた。)
「まったく、これだから”男に二言は無い“という言葉は信じたくないんです。よかったですよ・・・コレを仕込んでおいて」
すると、は懐の中から細長い金属のようなものを出し、ボタンらしきものを押した。
『。正式におめぇを真選組に迎え入れようじゃねぇか』
「えぇぇえ!?」
「なっ!?」
『後の事は追って、通達をするから待っててくれ』
の笑顔に近藤は凍りつき、土方は咥えていたタバコを落とした。
「ボイスレコーダーを仕込んでおいてよかったです。何かあった時にやっぱり使えますねコレ」
「い・・・いつ、スイッチを?」
近藤は冷や汗を流しながら問いかけた。
「副長に”脱いでみせましょうか?“と言ったあたりです。スイッチを切ったのは今さっきでしたけど」
「図ったな、クソガキ」
「何事も欺くのはまず味方からというお言葉がありますでしょう?それと同じですよ」
「計算高ぇ女だなおめぇ」
「お褒めに預かり光栄です。・・・で、二言はありませんね近藤局長」
の笑顔で何も言えない近藤。
「・・・・・は、はぃ」
「近藤さん!!!」
「だ、だって〜こんな証拠残されたら〜」
鬼の形相で言う土方に近藤は半べそをかく。
「じゃあ通知の方、よろしくお願いしますね」
「なっ!?ちょ、ちょっと待て!!」
土方の声も振り切り、は屯所を後にしたのだった。
屯所を後にしたは自宅へと足を進める。
「お嬢様」
「ばぁや」
すると、目の前にトネが立っていた。
「試験はいかがでございましたか?」
「うん。即OKもらった。ばぁやがボイスレコーダーかしてくれたおかげでね」
「それは。では・・・通達が来れば」
「うん、真選組に入れるよ。・・・やっと・・・やっとだ」
は握り拳を作り、自分の胸に当てた。
ようやく願っていた職に付ける事が出来るのだから。
「お嬢様」
「ばぁや、心配しないで。大丈夫・・・私が必ず、守ってあげる。ばぁやも、この平和も」
は笑顔でトネに言う。
彼女の表情を見ると、トネは何も言わず「はい」とだけ答えたのだった。
就職先で志望動機を答えて、その場で
採用貰えたらラッキーの他でもない
(ここから始まる、私の人生)