入隊通知書が来て、私は晴れて真選組に入る事に。
配属は一番隊になった。
しかし、周りは男だらけ・・・おまけに女ってのが気になるのか、それとも
あまり私の入隊を賛同してないのか、私は局内では浮いた存在になっていた。
「どうだ、!局内には慣れたか?」
「慣れるも何も、皆白い目で見たりしてますよ。男って変な生き物ですか?」
近藤局長と廊下を歩きながらそんな話をしながら
私はため息を零した。
しかし、いくらこの人や副長が一目を置いているとはいえ、こう肩身が狭いとやりきれん。
まぁ男の縦社会に飛び込んできた女を受け入れろというのが難しい話か。
「ん〜・・・じゃあ、どうすればいいんだろうかなぁ〜」
「別に考えなくていいですから、局長。私は私なりにやっていくんで」
「でも、おめぇも俺らの仲間だ。やっぱり、皆仲良くしてほしいんだよ、俺ぁよぉ」
そう言いながら局長は私の頭を撫でた。
ふと、父上の顔が頭を過ぎった。私が幼い頃・・・近所の子供とケンカして帰ってきた私に父上は・・・――――。
「?どうした?」
「・・・・・・いいえ、何でもありません」
昔の事を思い出してしまい、私は咄嗟に言葉を濁した。
あんなに優しかったのに・・・あの頃の父上は、もう此処には、この世にはいない。
そんなこと・・・思い出して、何になるって言うんだ。
「近藤さん」
「おぉ!総悟」
すると、廊下の向こうから私の上司である一番隊隊長沖田総悟がやってきた。
「ん?何でぃ、も居たんかぃ」
「何よその言い草。居ちゃ悪いの腹黒ドS」
しかし、彼が私の上司だからと言って・・・年は同じ。
こんなヤツに私は敬語すら使う必要はないと判断し、普通に喋る。
(これが普通の喋り方なんです、私の!)
「てめぇ・・・上司に向かって、何でぃその口の聞き方?」
「同い年なんだから敬語使う必要ないのよ。クソが」
「んだと、クソアマ」
「何かしら、クソドS」
笑顔で私と総悟は互いを罵りあう。
「そうだ!」
瞬間、局長が声を上げる。
「おめぇら・・・ケンカすんなら、道場行ってケンカしねぇか?」
「「え?」」
「あの〜・・・何で、こうなるんですか局長」
「だって、おめぇら・・・何かケンカしそうな空気だったし。ケンカするなら刀じゃなくて、木刀でもよくね?」
「だからって・・・」
数分後。
局長の発言で、私と総悟は道場に来た。
そして道場着に着替えて、手にはお互い1本ずつ木刀を持っていた。
しかし・・・其処には3人だけというわけではなかった。
「ギャラリーが出来すぎです」
道場の周りを、たくさんの隊士が見に来ていた。
どっからこんなに人が沸いてくるのか・・・むしろ誰よこんなに広めたの?と心の中で呟いた。
「やりたくねぇんなら、やらなくたっていいんだぜぃ」
「誰も言ってないでしょ、んな事」
総悟の言葉にカチンと来た私はすぐさま反論をした。
「んじゃまぁ・・・おめぇらの準備もできたみてぇだし・・・そろそろ始めっぞ」
局長の声に、私と総悟は向かい合い木刀を構える。
辺りがそれに静まり返った。
「俺が”そこまで“ってトコまでとことんやりあえ。ただし、卑怯な手はナシだ。正々堂々と勝負しろよ、武士ならな」
「「はい」」
「それでは・・・・・始めっ!!」
局長の声で、私と総悟の木刀が交わる。
木製の、少し鈍い音が道場内に響き渡り、木刀を交え、総悟と接近した。
「やるじゃん・・・おめぇ」
「あら、珍しい褒めてるなんて」
「だが、力はやっぱり女でさァ」
瞬間、力一杯総悟に押され、体勢が崩れる。
体勢が崩れ、体がぐらつくと総悟が木刀を振り下ろしてくる。
しかし、間一髪で私はそれを避けたが、場所が悪かったのか壁にぶち当たり
立てかけてあった木刀が落ちてきた。
「・・・いっ・・・たぁ・・・」
私がそう呟く。
壁にぶち当たるまではいいけど、木刀落ちてきて頭当るし・・・痛いのなんのって。
ふと、落ちてきた木刀が目に入る。
「おーい〜・・・大丈夫ですか〜い?」
そう言いながら総悟が近づいてくる。
大丈夫ですか?だって?
私は落ちてきた木刀を左手に握り―――――。
「大丈夫じゃないわよ、クソがっ!!」
総悟へと向かい、木刀を振り下ろした。
しかし、私の一撃を止めた総悟はこれ以上の深入りをしないよう間合いを取った。
「チッ・・・至って、元気なんかぃ」
「お生憎と、頑丈に出来てるもんでね。あれしきの事で折れたりしないわよ。それに――――」
私は、左手に持っていた木刀の持ち手を逆手に変え
同じように右手も変えた。
本当は、どっちかが短い方がいいんだけど・・・まぁ今はそうも言ってられないか。
「やっぱりこっちの方がしっくりくるわ」
「ふ〜ん・・・・・・二刀流か。刀が増えたくらいで、どうにかなるんかぃ?」
「そうね・・・しぃて言うなら――――」
一気に踏み込み、総悟の懐まで入り込む。
「!?」
「早ぇ!!」
「スピードは上がる」
下から柄の部分で突き上げてやろうと思ったが
避けられてしまい、再び間合いをとられてしまった。
「あっぶねぇの」
「歯の一本くらい抜いてやったのに、惜しいヤツ」
嫌味たっぷりの言葉を、総悟にむけて飛ばした。
正直、私は一刀流よりも二刀流の方がやりやすいと
松平のオジサマとの練習中思っていた。案の定、思ったとおりの使いやすさと
動きやすさで、私は二刀流で行く事にした。
しかし、真選組に入隊して私は刀を腰に一本差していただけだし
脇差ももちろん差していたが、なるべく二本使う事を躊躇っていた。
二本使うのはちょっと珍しいとかで、さらに白い目で見られるのを私は嫌だったからだ。
「道理で・・・違和感があったわけかぃ」
「気づくの遅いわよ、総悟ぉ」
「まったく・・・だよ!」
そう言いながら再び、木刀が交わる。私と総悟の息遣いは共に荒い。
「そこまで!」
すると、局長の声が道場内に響き渡り・・・私と総悟はかの人を見た。
「総悟ももそこまでだ。もう充分だろ」
「へぇへぇ」
「局長が、そこまでおっしゃるのでしたら」
そう言われ、私と総悟は木刀を納め・・・・・・ケンカという名の、稽古は終わった。
まぁ結局はケンカだったのか、それとも稽古だったのか・・・自分でもよく分からない。
私は道場着から隊服に着替え、局内を歩いていると
目の前から数名の隊士が私に近づいてきた。
いつもならすれ違い、そしてその後陰口みたいなのが聞こえてくる。
陰口じゃ治まらないから、今度こそ直接くるか?と思っていた。
「さん・・・あの、すごいっスね!沖田隊長とあんな風にやりあうなんて!」
「え?」
思いがけない言葉が飛んできて、私は戸惑う。
「本当っスよ。俺らだって、沖田隊長には敵わねぇのに。女なのにって・・・俺ら
さんの事、誤解してたよな・・・マジ反省しなきゃ」
「あぁ、そうだよな」
あまりに突然の言葉過ぎて、脳内がついてきてない。
それと同時に、私の心がホッと温かくなった。
「今度、俺らにも稽古つけてください!」
「え・・・わ、私でいいの?」
「当たり前っスよ!いいスよね?」
「ヒマが・・・出来たらで・・・いいなら」
「はい!じゃあその時はいつでも言ってください!失礼します!!」
『失礼します!!』
そう一礼して、彼らは去って行った。私は胸を押さえた。
温かくて・・・どういって良いのか分からない気持ち・・・でも、分かる感情は――――。
「(・・・嬉しい・・・)」
多分、間違っていないこの感情。
言葉では絶対言い表せない・・・でも、分かっている感情は嬉しい気持ちだけ。
今まで曇っていた心に、微かな晴れ間が見えた。
『っとに・・・近藤さんはお人好しなんでさァ』
ふと、総悟の声が聞こえてきた。
私は気づかれないようにそちらに向かうと
総悟が道場着姿で縁側に局長と座っていた。
私は物陰から2人の会話を聞いていた。
「だってよ・・・は実力もあんのに、局内じゃ浮いてるじゃねぇか」
「アイツが女だから、他の奴等も戸惑ってんでさァ。男だらけの中に女とか、誰でもビックリですぜぃ」
「それでも、何か・・・腹立つじゃねぇーか。同じ仲間なのによぉ、性別どうこうで・・・アイツを1人にすんのは許せねぇって」
局長の言葉に、心臓が動いた。
もしかして・・・私のこと、気にかけて?
「だからって・・・あんな無謀な稽古、させないでくだせぇ。まさかが二刀流とか聞いてねぇでさァ。
危なく俺が本気出しちまいそうになったですぜ」
「悪いな、総悟。今度美味いもん奢ってやっから。今日は助かったよ、ありがとうな」
そうか・・・局長も、総悟も私のために。
1人で意地張って・・・孤立していた。
でも、本当は寂しかったんだって気づかされた今日。
これが・・・仲間、なのかな。
目から涙が零れそうだったけど、私はそれを袖で拭い其処を去った。
心の曇り空は、いつの間にか清々しく晴れていた。
皆、1人じゃない!きっと誰かが近くに居る事忘れんな!
(初めて気づかされた事。そうか・・・これが、仲間なのかな?)