今日ほど緊迫した日は久々だった。

何でも山崎のヤツが大物の攘夷浪士が潜んでいると言って
私達は討ち入りの準備をしていた。







「おめぇら、いいか!気ぃ抜いたら斬られちまうのがオチだ。油断せず、全員1人残らずたたっ斬れ」


『はい!!』






局長の声で私を含めた隊士全員が声を揃え返事をした。
そして、各々が踏み込む準備を整える。










「どうかした総悟?」






私が刀を見ていると総悟が私に近づいてきた。
しかも何だか表情はいつになく真剣だった。






「何て顔してんの。似合わないからやめてよ」



「おめぇ・・・今日は、俺の側から離れるんじゃねぇぜ」



「は?」






総悟の言葉に私は目を見開かせ驚いた。


いつも、総悟は踏み込む前私にこんな事を言ったりしない。
むしろ「気をつけろ」とか「側から離れるな」などと声もかけやしない。






「総悟・・・どういう風の吹き回しよ?私を舐めてんの?伊達にアンタの右腕って言われてないんだから」



「そういう意味じゃねぇんでぃ」



「じゃあ何よ」



「とにかく迂闊に深追いはするんじゃねぇぜ・・・いいな?」



「ちょっ、そ、総悟!?」






そう言いながら総悟は私の元を去っていった。



一体何があったというんだ?と思いながら私はすぐさま土方副長の元に行く。
この人も局長と同じで、総悟を小さい頃から見ているんだ。

アイツのあんな状態、きっと何か知っているはず。
私はタバコをプカプカと吹かしている副長の元に駆けた。








「副長」



「あ?・・・どうした、



「総悟のヤツ・・・どうかしたんですか?」



「どういうことだ?」



「いえ、何か・・・今日はいつになく真剣で、自分の側から離れるなって私に言ってきたんです」







私が先ほどの事を告げると
副長は総悟を一旦見て、すぐさま私のほうを見る。





「アイツは何かと勘が鋭いからな」



「は・・・はぁ」



「お前は少々不服かもしれねぇが、今日は総悟の近くにいろ」



「でも、副長・・・っ」



「副長命令だ・・・聞けねぇのか?」







その言葉に私は素直に返事した。


「行くぞ」と言われ、私は副長の後ろに付いていく。









「和田島さん」




副長の後ろに付いて歩いていると、年上でよく私の面倒を
見てくれている和田島隼人さんに声を掛けられた。





「どうした?何か不服そうな顔してるぞ」


「総悟のヤツが私に自分の側を離れるなって言ったんです。意味分からなくて」


「沖田隊長が?・・・まぁお前は、真選組の華だからな。血で散らしたくないんだろうよ、お前は」


「上手いこと言ってるように聞こえますけど、私そんなに弱くありませんから」





私の言葉に、和田島さんは「手厳しいなお前は」と苦笑いを浮かべていた。





「和田島さんこそ、最近やたら幸せオーラ出てますから気を抜かないでくださいね」


「あれ?分かる?実はな・・・」





「おい、おめぇら私語は慎め」





和田島さんの話を遮るかのように、原田さんが
私と彼との間にドスのきいた声を出して、話を中断出せた。

和田島さんは「後で話す」と、小声で言って自分の隊へと戻っていった。
私はというと、副長に言われたとおり総悟の側、というか背後に付いた。

私が居る事を確認すると総悟は小さな、安堵らしきため息を零した。
まったくこの男・・・一体なんだっていうんだろうか?


とにかく今回の討ち入りは総悟の側さえ離れなければいいのだと思い
店の前、全員が刀を抜いて身構える。










「御用改めである!!」








副長の一言で店の門が開き、掛け声とともに、一斉に中に入り込む。
店の人たちや客達はもちろん騒然。

しかし、私達はそれをお構いナシに進む。
階段を登り、1つ1つ部屋を開けて押し入る。








「来たぞ!真選組だ!!斬り捨てろ!!」






すると、廊下の向こうから男が1人、殴りこんできた私達を指差した。
その背後には何人ものの男達が刀を手に持って向かってきた。


そんな向かってくる浪士たちを斬っていく総悟と私。

周りが徐々に血の海と化していく。
そんな中、返り討ちにあった隊士たちの死体や切り捨てた浪士たちの死体が床に転がる。



私と総悟は背中合わせになる。








「脇差は抜かねぇのか?」


「雑魚には1本で充分よ」


「違ぇねぇ」







総悟と会話をしながら、向かってくる浪士たちを斬る。
すると何人かの浪士が逃げていくのが見えた。







「逃がさない」





私は総悟から離れ、そいつらを追いかける。





、深追いすんな!!」


「大丈夫よ、総悟。片付けたらすぐ戻る」


待てって!!」







総悟の声も振り切り、私は数名の隊士たちと一緒に其処を離れ追いかけた。












「和田島さんっ」






すると、浪士を追いかける隊士たちの中に和田島さんも其処に居た。
和田島さんは私の横を走る。






「早速命令無視かお前」


「一人でも逃がしたら其処から結局派生していくので、これを期に叩きのめさなきゃ」


「終わったらお前、土方副長から確実に怒られるぞ」


「知りませんよあんなマヨラー」







走りながら話していると、浪士たちが何処かへと続く通路へと入っていくのが見えた。
私はスピードを上げ見失わないように、追いかける。

しかし中に入り込んだときには、浪士たちの姿はなかった。
むしろ目に入って来たのは、地下通路らしき場所に続く階段。






「地下通路か、これ?」


「多分。此処を通って地上に逃げるつもりだと思います」


「行くのか?」


「じゃないと取り逃がします」






和田島さんに告げ、私は階段を下りる。
私に続くように、後ろからも階段を下りる足音が聞こえてきた。

ようやく地面らしい所に足が付き、周りを見渡す。


人の気配を感じれない。






「とにかく奴等を探そう。見つけ次第、粛清するんだ」


「はい!」



和田島さんの声で、隊士たちが散り散りになる。



しかし、珍しい事があったものだ。
私は和田島さんを見る。






「珍しいですね、和田島さん」


「何がだ?」


「今日はやけにやる気がありますね。いつもならこんな自分から率先したりしないでしょう?」







和田島さんは、面倒見がよいが・・・自分から率先したりしない。
むしろ一介の隊士が副長、隊長クラスの二人を差し置いて此処に居るのだから
この人の今日のやる気はいつもと違う事がすぐに伺えた。






「さっき、お前言いそびれたことあったよな俺」


「はい」


「実はな・・・今日の役目が終わったら、俺・・・ある人にプロポーズしようと思ってな」


「え?マジですか?」




この人の口から零れた爆弾発言に私は驚く。





「何処の人なんですか?」


「2年前くらいにとある店の店主が紹介してくれた女の子でね・・・凄く、可愛くて優しいんだ」


「その方歳はおいくつで?」


「今年14歳」


「14!?・・・・・・和田島さん、犯罪じゃないですか。11も離れてるとか、ロリコンですよそれ」


「うっせぇな。いいだろ、好きな子なんだからさ」







和田島さんは頬を赤く染めながら、そんな事を話す。
屯所内で「和田島には若い婚約者がいる」という噂を聞いたことがあるが・・・まさか、その子?





「今日の役目が終わったら・・・俺、あの子に結婚を申し込みに行くことにしてるんだ」


「なるほど。今日のやる気はそれで」





そう考えたら、今日のこの人のやる気は納得行く。
ようするに気合を入れるため。






「俺・・・あの子を絶対幸せにする。幸せにしてあげたいんだ、あの子だけは」


「和田島さん」







暗い地下通路に輝いた決意ある瞳。

この人の意志はホンモノの証拠だった。






「俺らも探そう。もしかしたら他の隊士が見つけてやられてるかもしれない」


「そうですね。私もなるべく早く片付けて戻らないと総悟に怒られます」


「ハハハ・・・だな。じゃあ何かあったら叫べよ


「和田島さんこそ」






そう言って、私と和田島さんは別れた。




バラバラに逃げた浪士たちを探すべく、私は刀を構えつつ慎重に探す。
するとなにやら小さな灯りが見えた。


私は足音も立てずにそちらにゆっくり近づくと
攘夷浪士が、人とは思えない・・・そう、言うならば天人。
奴等に助けを請う姿を目の当たりにした。


私は刀を強く握りしめ――――――。








「御用改めである!攘夷浪士共は刀を捨てろ!
其処に居る天人もその者達がどういう輩か知っての振る舞いか!」




「なっ!?し、真選組っ!!」


「ほほぉ、女隊士とは・・・真選組も珍しい者を採用したのか」



「刀を捨てろというのが聞こえないのか、カス。ならば此処で・・・・・私が粛清してやる」






私が刀を構えると、怯えた手で刀を振り回し
襲い掛かってきた。だが、その刀をあっさりと弾き1人、また1人と斬り殺す。


刀を握って国が変わるとでも?


アンタ達も、アンタ達も所詮は――――――。













ドォォオォオオォン!!!








「っ!?」








瞬間、銃声が轟き・・・・・・右肩に痛みが走る。
後ろを見ると、浪士と話をしていた天人が銃を構えて見下したような笑みを浮かべていた。

私は左手で右肩の傷を塞ぐ。
しかし痛みが酷いのか、刀を握る力がなく膝をつく。








「所詮、地球人なんぞ・・・・・・こんなものだな!」


「がはっ!?」







天人に殴られ、私は地面に転がる。
弱ってきたのをいい事に、浪士たちが私に殴る蹴るの暴行を加える。

持っていた長刀は弾かれ、脇差を抜きたいのに
右肩の痛みを左手で塞ぐので精一杯・・・されるがまま・・・痛みだけが、自分の体に刻み込まれる。








「貴様等!何をしているっ!!」







すると、和田島さんの声がし、浪士たちの手が止まる。






「!!・・・っ」


「和田、島・・・さっ」


「貴様等ぁぁああ!!」


「相手は一人だ、やれ!!」






一人の浪士の声と共に、和田島さんに全員が襲い掛かる。
しかし、和田島さん一人に対し浪士は複数。

隊長クラスの強さでもない限り・・・勝てるわけがない。

複数を相手に、和田島さんは斬られ・・・それでも、応戦していく。





「やめっ・・・和田島、さっ・・・」








『実はな・・・今日の役目が終わったら、俺・・・ある人にプロポーズしようと思ってな』








「逃げ・・・逃げて、くださ・・・っ」







『今日の役目が終わったら・・・俺、あの子に結婚を申し込みに行くことにしてるんだ』









目の前で、仲間が・・・斬られていく。

倒れることなく向かいながらも・・・勝ち目がないと分かっていながらも・・・。


和田島さんが・・・血まみれになっていく。


逃げて、逃げてと心の中で叫んでも・・・届くはずがない私の声。



こんな所で貴方が死んだら・・・・・・。









「真選組隊士さん、よく頑張ったな。だが、アンタの仲間はもうボロボロだ」






天人が私の頭に足を置き、力強く踏みつける。






「やめろ・・・あの人を、あの人を殺さないで・・・っ」


「今更命乞いとは。やっぱりおたく等の正義なんてただのお飾りにしかすぎないわけだな。
刀振り回してりゃ正義気取りか?お気楽なこった・・・だがっ」






さらに強く頭を踏みつけられる。

そして目の前の和田島さんはもう立ってることすら、できないほど傷を負っていた。







「所詮俺達天人の前じゃ無力なんだよ、人間どもがっ!!!」







天人の声が地下通路内に響き渡ったのと同時に、浪士たちが
和田島さんを一斉に刺し殺した。










「す・・・・・・すぐ、る・・・・・・ご、ごめん・・・な」









『俺・・・あの子を絶対幸せにする。幸せにしてあげたいんだ、あの子だけは』






死に際・・・・・・和田島さんの声から小さく聞こえた、”あの子“と呼ばれる子の名前。




ドクン



想いを伝えぬまま、儚く消えていく命。




ドクン




失われる、大切な仲間。




ドクン




流れ出た、鮮血。





ドクン




倒れていく―――――――。











『母上!母上ぇええぇえ!!!』











ドクンッ!!









うわぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああああぁああ!!!!









殺セヨ、殺セヨ、ミンナ、ミンナ、死ンジャエ。




ミンナ、ミンナ。










消 エ テ シ マ エ !!








眠らせたままでいいものも時にはある
(心の中で誰かの声がした途端、私は真っ暗闇の中に閉じ込められた)
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