恋愛なんて、個人の自由だ。
男が必ずしも、女を好きになるとは限らない。逆も然り。
だから自由にやっていいんだよ恋愛なんて。
ぶっちゃけ、俺はそう思ってる。
だってさぁ・・・――――――俺が好きになった子が、男なんだからよぉ。
「ああ?が倒れたぁ?」
「そうなんですよ」
「急だったネあれは」
5時間目の休み時間。
志村と神楽が職員室にやってきて、びっくりな発言をしにきた。
その発言に俺は冷静装ってるけど・・・結構動揺してる。
んなトコでペロペロキャンディ舐めてる場合じゃねぇし。
「授業中、急に倒れて。保健室の先生は、軽い貧血だって言ってました」
志村の言葉に、とりあえず安心していいんだと安堵した。
ったく・・・体調悪いなら無理すんなって言ったのによぉ。
今にも舐めてるペロペロキャンディを噛み砕きそうだぜ。
「んで、おめぇらは何しに来たんだ?」
「報告ですよ。今は、土方さんが側についてるんで」
グサッ!・・・・・・―――――俺の心に矢が刺さったぞ。
こんな時まで、あのヤローは・・・。俺はため息を零しながら頭を掻く。
「とりあえずおめぇらは教室に戻れ。後は担任の俺の仕事だ」
「次の授業の先生には何て言えば?」
「保健室で寝てますって言っとけ。あとはお前に任せる」
「大分アバウトな・・・分かりました」
そう言って、俺は志村と神楽を教室に返した。
とりあえず保護者に電話・・・と、電話機に手を伸ばし・・・・・・止まった。
待て・・・保健室には、土方がいる。
「・・・・・・・・・」
俺は、電話機に伸ばした手を収め席を立ち上がる。
何処に向かうかって?・・・もちろん、保健室。
そんな土方ばっかりにオイシイ役回りさせてたまっかよ。
俺は電話そっちのけで、保健室へと向かった。
――――――ガラッ!
「うぉ〜い、土方ク〜ン・・・教室に速やかに戻りなさ〜い」
俺が保健室に着いて、第一声がそれだった。とりあえず、土方邪魔。
まずは邪魔者を排除しなければと思い、声を出し中に入る。
どうやら保健室の先生はお留守らしい。
すると、俺の声が聞こえたのか土方がベッドの所から
嫌そうな表情をしながら、顔を出した。
俺は其方のほうへと行き、カーテンを開ける。
其処にはが規則正しく呼吸をしながら眠っていた。
やべぇ・・・寝顔、天使じゃね?
「貧血・・・・だと」
「え?・・・あ、あぁ・・・志村たちから聞いた。おら、教室戻れ。次も授業だろ。
サボろうとかすんなよ〜・・・単位やらねぇぞ」
俺がそう言うと、土方が睨みつけてきた。
「んだよ」
「に触んじゃねぇぞ」
「そんな事したら、おらぁ教師じゃなくなるからしねぇよ。ほれ、教室戻れ」
手で「シッ、シッ」と払うような動作をすると、土方は保健室を出るまで
年がら年中開きっぱなしの瞳孔で俺を睨みつけていた。
ようやく土方が其処を去り、ピリピリと張り詰めた空気がなくなり俺はため息を零した。
再びベッドに眠っているを見て、眠っている奴の隣に座った。
ベッド独特のギシリとした軋む音が聞こえ、目を覚ますかと心配したが
眠りが深いのか、目は開かない。・・・セーフ。
「ったくよぉ・・・心配させやがって」
俺は眠っているの顔を撫でる。
貧血でぶっ倒れたとはいえ・・・気持ち良さそうに寝てやがる。
ふと、目線が唇で止まり・・・そっと指で触れた。
「(・・・やわらけぇ・・・)」
まるでそれは、マシュマロのような柔らかさ。
手で触れているだけじゃ・・・物足りない。
――キス・・・してぇ――
でも、もしキスをしたら・・・おらぁ完全に禁忌を犯す事になる。
いや、犯したとしても・・・もう手遅れだから、気にするこたぁねぇ。
男を好きになった時点で、禁忌なんだよ充分に。
俺は頬に手を滑らせ、顔をゆっくりと近づけ―――――。
「・・・・・・・・・・・・」
唇を重ねた。
軽く触れて・・・離れた。
離れて・・・俺は・・・頭を抱えた。
心臓がマジでうるせぇ!
あーあ・・・もう、俺戻れねぇわ・・・。とか思ってしまったが
戻る事考える前にやっちまったモンはやっちまったわけだし、意味がねぇ。
バレたときはバレたとき。潔くホモでも何でも認めてやらぁ。
ふと、抱えた頭を上げ奴を見た。
「・・・・・・・・・」
目が・・・合った。・・・ん?目が、合った?
目が・・・合っ・・――――――。
「おまっ!?起きてたのぉおぉ!?」
「えっ・・・あっ、あの・・・その・・・っ」
あまりの事で、俺は驚いた。いや此処は驚くところです!
だって、寝てて起きるとかまず有り得ない事だろ!!有り得ないのに何で起きんの?!
ハッとして、俺は気づく。
「もしかして・・・さっきので・・・起きた、とか?」
俺の言葉に、は顔を赤らめながら頷く。
俺はため息を吐き出し、再び頭を抱えた。
キスで目が覚めるとか何処のおとぎ話ですか?!
いや、おとぎ話はこの際置いといて。目の前の困惑している生徒・・・もとい、好きな奴を宥めるために
俺は顔を挙げ、体の半分を起こしている・・・いや、の顔を見る。
の顔は真っ赤に染まり、困惑している。
「お・・・落ち着け、とりあえず」
「落ち着けと、言われて・・・こんな状況・・・落ち着けないです」
「ですよね。すいません」
って、何謝ってんだ俺ぁ。
俺が空回ってたら、コイツを困らせるだけだ。
一呼吸して、目の前・・・毛布を口元から隠しているを見る。
目だけでも充分に困惑している表情が分かった。
「聞け・・・あのな・・・その、今・・・した事の意味、分かるか?」
「・・・は、はぃ」
「別に、ふざけてやったワケじゃ・・・ないからな」
「ぇ」
「おめぇが好きだから、キスしたんだよ。好きだから・・・・・・したんだ」
「せん、せ・・・っ」
俺は今まで抑えこんできた気持ちを、目の前に居るにぶつけた。
「好きじゃなかったら、こんな事しねぇ。好きだし・・・抑えきれなかったからキス、したんだ。
俺の言ってること・・・・・分かるか?」
そうに尋ねると、奴は一つ頷いた。
「別に・・・答えてくれなんて、言わねぇ。俺の顔見たくねぇって言うんだったら・・・学校辞めっから・・・言ってくれ」
すると、は何も言わなくなった。
マズイ・・・非常に、この状況はマズイ。
答えなくていいって言ったけど、せめて何か喋ってくれ。この沈黙は耐え難い。
ふと俺はを見た。何か・・・息遣いが荒い。
「・・・大丈夫か?」
「い・・・息が、ちょっと苦しいです」
「おいおい。・・・ちょっといいか、ボタン外すぞ」
「えっ・・・あっ、あの?!い、いいですっ!」
「うっせ。やましい事するわけじゃねぇから言う事聞け・・・告白うんぬんはその後考えろ」
そう言いながら、俺はの制服の第一ボタンに手をかけたが
何かとがそれを拒む。しかし、か細い男の手で、大人の俺に勝てるわけない。
ボタンに手が届き、1つ外した。
「・・・・・・えっ?」
ボタンから見えた鎖骨・・・その下・・・見えたのは・・・・・・胸の、谷間。
え・・・た、谷間?・・・男に谷間なんか出来るわけない。
た、に・・・ま?
瞬間、手を離した。
「おまっ・・・えぇぇええ・・・お前、女ぁぁあぁあ!?」
「せっ、先生・・・声が大きいです!」
にそう、言われて俺は自分の口を手で塞いだ。
まさかの事実発覚。
目の前に居た・・・3年間、男と思っていた生徒は・・・生物学上、女。
男じゃない・・・・・正真正銘、女の子。
は俺から顔を背けながら、第一ボタンを外した襟元をしっかりと握っていた。
俺は口を塞いでいた手を退けた。
「お前・・・何で今まで」
「これが、条件・・・だったから」
「条件?」
重要なところを繰り返し言うと、は頷いた。
「学校に行くなら・・・男の格好をして、入学しろって。誰にもバレずに3年間、過ごしてみなさいって」
「またなんで、んな条件を」
「本当は、中学卒業したら・・・嫁ぐことに、なってて・・・」
「なっ!?」
ちょっと待て!?
中学卒業で嫁入りだぁ!?いつの時代だよ!?
つか、こんな可愛い子・・・俺だったら嫁にすら行かせねぇよ!!
自分の手元で一生可愛がるってーの!
何て、自分の心の中で叫んだ。
「しかし、えらい理不尽な話だな。それで・・・おめぇは嫁には行きたくなかったわけか」
「・・・はい。学校、行きたくって・・・でも、行くなら・・・条件があるって言われて」
「それで男の格好で入学とはね。しかしよく今の今までバレなかったな」
「いえ・・・あの・・・土方さんが」
「は?アイツ、知ってんの?!おめぇが女だって」
の口から、土方の名前が出てきて驚いた。
俺の問いかけに、は頷く。
なるほど・・・道理で、警戒心むき出してたってワケか。
まぁ・・・コイツを守る前提で、好きだというのを悟られんようにしてたな。
やっぱり、ガキはガキだな。
「・・・あの」
「ん?どうした?」
すると、が小さな声で俺に言う。
顔がまだ俺を見れないのか、こちらを向かない。
「先生が・・・学校辞めること・・・ないです」
「は?」
「だって・・・もう、私・・・土方さんや、先生に・・・女だって、バレてる・・・から。私・・・学校辞めなきゃ・・・いけないんです」
「」
そうだ。
自分が女とバレたら、強制退学。
意思とは関係無しに・・・コイツは学校を去らなければならねぇんだった。
それが、条件だから。
「だから・・・先生は、辞めなくていいんです・・・私が・・・私が」
「おめぇが辞める必要ねぇよ」
「え?」
俺がそう言うと、は目に涙を浮かべながらも驚いた表情をして
ようやく俺の顔を見るようになった。
俺はの頬にそっと触れる。
「ま、俺が辞める必要もねぇよな」
「せ、先生?」
「俺が守ってやる」
「え?」
「おめぇは、俺が守るって言ってんだよ」
「え?・・・あの、で、もっ」
「好きなヤツを放っとくわけにはいかねぇよ」
そして俺はを抱きしめた。
「せっ・・・先生っ!?だ、誰か来たら・・・っ」
「誰も来やしねぇって。・・・・・・それより、おめぇはどうなんだ?」
「え?」
抱きしめていた体を離し、俺はを見た。
瞼の下に溜まった涙を指で拭う。
「おめぇは・・・このまま、黙って学校辞めんのか?」
問いかけると、は顔を伏せた。
「・・・・・・ぃ」
「ん?」
「私・・・まだ、学校に居たい。土方さんの隣に居たい・・・ぁ、と・・・」
「先生の・・・・側に居たいです」
「上等だコノヤロー」
まぁ、土方の言葉の辺りは抜かしといて
最後の最後・・・いい返事が聞けたぜ。
「じゃあ、約束してやるよ」
「え?」
「あと残り、おめぇが卒業するまで守るって約束してやる。男に二言はねぇ」
「先生」
「だから約束で、もっかいちゅーさせろ、むしろしたいです」
「え?!そ、それはっ・・・あ、のっ」
俺がそうやって迫ると、は顔を真っ赤にして慌てる。
あぁやべぇ・・・何か可愛い。
やっぱり、コイツ女の子だわ・・・こうすれば。
「約束なんだし・・・ちゅーしたいなぁ。ほれ、誓いのキスみたいな」
そう言うと、は戸惑いながら目を閉じた。
優しく頬に触れると、顔が強張ってるのが分かった。
「アホ、力みすぎだっつーの」
「え?」
「力抜け・・・その方がいい」
「で、でもっ・・・」
の目が泳いでる・・・困惑してる。
俺は彼女の頬を包み、おでこにキスをした。
再び顔を見ると、ただ顔を真っ赤にして俺を見ていた。
俺は片手で、掛けている眼鏡を外して
もう片方の手での頬に触れ・・・顔を少しずつ、ゆっくりと近づける。
「そのまま・・・ゆっくり目ぇ閉じろ」
「せん、せ」
「怖くねぇよ・・・力抜いとけ。今から――――」
「大人のキスってヤツ・・・教えてやっから」
柔らかい日差しが、部屋に零れる午後。
好きなヤツに約束を交えた、口付けをした日。
性別はどうであれ
どうやら、俺が思っていた以上に・・・こいつぁ、障害物のデカイ恋だったらしい。
何事も障害物あっての恋物語は当たり前
(さて、まずは誓いのキスから、始めようか)