「せ、先生〜・・・や、やめましょうって・・・バ、バレたら・・・っ」
「バレやしねぇって。それに先生はやめろー・・・俺が聖職者だってバレっだろ〜」
ある日の休日。
俺はを連れて街にやって来た。
だが、普通の・・・つまり男装をしたこいつと歩いてたら
確実に学校の奴等にバレることは明白。
しかし、今日のはちと違うぜ。
「おめぇが女の子らしい格好してて、バレるわけねぇだろ。分かるヤツなんていやしねぇよ」
そう!
今日の俺!!頑張ったんだぜ。
に女の子らしい格好をさせた。
もちろん、髪の毛もちゃんとウィッグつけて、ロングヘアー。
下はスカート履かせて・・・どこからどうみても、女の子。
まぁ女の子なんだけどさ・・・は。
「で、でも・・・せんせ」
「はいストーップ!」
「え?」
俺は動きを止め、のほうを見た。
「今日一日、『先生』言うのナシ。一人称も『僕』はやめろ」
「え?・・・じゃ、ああの、何て・・・呼べば・・・?」
「んー・・・・・・・・・銀さんとか?」
俺がそう言うと、は少し恥ずかしそうに――――――。
「銀・・・さん」
「ん?聞こえねぇよ・・・もう一回」
頬を包み込み、の顔に近づく。
リンゴみてぇに真っ赤にしやがって・・・可愛いすぎるだろうがコノヤロー。
「銀、さん」
「まぁ、良く出来たほうだな」
「ひ、酷いです」
「はいはい」
俺はの顔から離れ、頭を撫でる。
すると彼女はふて腐れた表情をして俺を見ている。
あー・・・そのうち取って食って・・・・・・っていかんいかん!
まだまだ俺らは日の浅い彼氏彼女なんだから、まだ、まだ我慢しろ俺。
「それよりも、行くぞ」
「何処にですか?」
「何処ってデートに決まってんだろ?恋人同士が休みの日、外に出かけるって言ったら
デートしかないだろ?」
「デートって・・・・・・あの、もしクラスの人に逢ったりしたら・・・ど、どうすれば」
「おめぇは黙っとけばいいんだよ。俺が何とかすっから」
「で、でも・・・・せ・・・じゃなくて、銀さん」
「あのなー・・・」
俺は自分の額を、の額に当てた。
「言ったろ?俺がお前、守ってやるって」
「ぎ、銀さん・・・っ」
「だからお前は心配すんな。そんなに俺のこと、信用できねぇか?」
そう言うと、は首を横に振る。
「なら、俺に任せとけ・・・いいな?」
「は、はい」
「ほんじゃまぁ〜・・・行くとすっか」
「はい」
の不安が取り除かれたのか、ようやく笑顔になり
俺の握った手を握り返してくれた。
単純・・・とか思ってしまったが、それも子供だし・・・可愛いから許しちまうんだよなぁ。
むしろ、コイツを独占したいって思ってる俺の方が
よっぽど、ガキだわ。
「ん?どうした」
しばらく歩いていると、が立ち止まった。
が店の前のディスプレイを見ている。
俺は何かと思い少し先行く体を、の隣に戻した。
「え?あ・・・あのぅ・・・」
「何見てんだ?・・・・・アイス屋?」
が立ち止まってみてたのは、アイスクリーム屋。
しかもちょっとリッチなときに食べる、ハーゲンダッシュのアイス屋。
「お。美味そうじゃねぇか」
「銀さん・・・アイス、好きなんですか?」
「おらぁ糖分無いと生きていけねぇよ」
「そういえば毎日ペロペロキャンディ舐めてますよね?」
「おう。何だ?食いてぇのか?」
「え?!・・・あ・・・あのぅ・・・」
俺がに「アイスを食べたいのか?」と尋ねると
は顔を真っ赤にして、目を泳がせ戸惑っている。
完全に食いたいの丸分かりなヤツだな。
「食いたいのか、食いたくないのか?はっきりしろ」
「・・・・・・食べたい、です・・・・・・」
「よし、それでいい。何味食うか決めろよ」
「は、はい」
そう言って、俺はの手を引いて店の中に入った。
しばらく2人で、アイスを食べ終わり外に出て歩く。
「銀さん、結構食べましたね」
「5個じゃ少ねぇほうだって。10個でもおらぁ入るぜ」
そう言いながら、俺とは歩く。
俺がそんな事を言うと、彼女はクスクスと笑みを浮かべていた。
そんな表情をジッと見ていると、が此方を向く。
「どうかしました?」
「おめぇ家でアイスとか食わねぇの?」
「え?」
疑問を飛ばし、は目を見開かせ驚いた。
アイス屋に入るときだった。
何でそこまで戸惑ったりするんだ?って思ってしまった。
もしかしたら、コイツは家でアイス食わねぇのか?とか
非常に勿体無い生活をしてんじゃねぇのか?とか思ってしまった。
「いえ。家でアイスは食べますよ」
「じゃあ何で、アイス屋に入る前戸惑ったんだ?」
「あの・・・そ、それは・・・」
すると、俺の手を握るの手に力が入った。
「・・・あんな風に・・・人と、入った事・・・なくて」
「」
「別に人が怖いとか、そんなんじゃなくて・・・何ていうか、お客さんで来てる人たちが
皆女の子だし・・・たまにクラスの子達とかも、あぁやって寄り道しながら帰ってるのかなぁって。
それに今の自分じゃ・・・出来ないんだ・・・って思ったら」
男の格好で生活を強いられている。
本当はコイツだって、普通の女の子としての生活がしたいんだ。
でもそれが出来なくて・・・ずっと寂しい想いをしてた。
俺は髪を掻きながら―――――。
「だったら、思う存分しろよ」
「え?」
「今の格好だったら・・・出来っだろ」
「あ」
そんな言葉に、が思い出したかのような表情をした。
俺はそんなの頭を撫でる。
「おめぇは女の子なんだからよぉ・・・していいんだ。しちゃいけねぇって誰が決めたんだよ」
「銀・・・さん」
「今日はだからたくさんワガママ言え。出来る限り、叶えてやっから」
「・・・・・・はい!」
鳴いたカラスがもう笑った・・・なんて、今のコイツにはお似合いな言葉だ。
だが、泣いて暗い表情されるより
笑って楽しそうにしている表情のの方が俺はずっと好きだ。
「あー!先生アル!」
「あら、本当だわ」
「あ〜ん!愛しの銀八先生〜!!」
「げっ!?お、おめぇら!!」
しばらくと歩いていると、目の前から見覚えのある顔。
神楽、志村姉、さっちゃんだった。
「後ろ隠れてろ」
「あ、は・・はい」
「顔も出来るだけ髪で隠せ」
「は、はい」
俺は思わずを後ろに隠し、あれやこれやと作戦会議。
とりあえず手は離さんけど・・・だとバレてしまえば、色々と厄介だ。
それに教師と付き合ってるって学校に知れ渡ったら、俺の教師生命もなくなる!
「先生が珍しいですね、こんな所うろつくなんて」
「先生でも街はウロウロします。しちゃ悪ぃかよ」
「別に。そうは言ってませんから」
「せんせぇ〜・・・・・・って、後ろの女誰?!」
すると、凄まじい速さでの存在に気づくさっちゃん。
しかしまだ「後ろの女誰」って所だから
だとはバレちゃいねぇ。
「本当ネ!誰アルか先生〜」
「そ、それはだな・・・お、俺の親戚の従妹だ」
我ながら凄まじい在り来たりな嘘だ。
目の前の奴等が信じるかどうかの問題重視な嘘だ。
国語の教師なのに、まともな日本語すら見つからねぇのかおらぁよぉ。
「へぇ〜そうなんですか。可愛らしい方ですね」
「何ダ、従妹アルか」
「チッ。従妹なら仕方ないわね。学校のヤツだったら私が首から跳ねてやったのに」
マジで信じちゃったよこいつ等ぁぁぁああ!!
むしろそう信じ込んでくれていいんですけど!
コッチとしては全然嬉しいことなんですけど!
とりあえず、助かったと思い俺がため息を零すと・・・後ろ手で握ったの手に力が入った。
俺は後ろをチラッと見ると・・・微かに、震えている。
何となく・・・が緊張のあまり耐えられてない気がしてきた。
「じゃ、俺ら行くわ」
「え?先生?」
「おめぇらあんまりウロウロすんじゃねぇぞ」
そう3人に告げ、俺はの手を引き走った。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・悪い。スカートで大分走らせちまったな」
「い・・・いえ・・・大丈夫・・・です」
人込みを出て、海岸沿いの公園に来た。
風が運んでくる潮の匂いが嗅覚を刺激していく。
「しっかし・・・危機一髪ってやつだな・・・。あいつ等結構勘鋭いからヒヤヒヤしてたけど・・・」
に話しかけるも、返事がない。
「?」
「わ、私って・・・やっぱり、子供・・・ですよね」
「は?」
急にがそんな言葉を投げてきた。
走って荒かった息遣いが、徐々に元の呼吸に戻ってきた。
「お、お前・・・何言ってるの?」
「だって・・・さっき・・・私のこと・・・親戚の、従妹って言って・・・やっぱり、私は・・・子供にしか見えないんだって」
「あのな・・・アレはだな、言葉の綾ってヤツで」
「それでも!・・・それでも・・・っ」
「恋人って・・・・・言って、ほしかった・・・」
「」
もしかしたらの、話。
さっき、コイツが震えてたのは怖いとかそんなんじゃなくて
自分が俺に相応しいとかそんなことに、震えていたのかもしれない。
俺の予想だけどな・・・多分、この推測は、あながち間違いじゃないはずだ。
俺はため息を零し、の頭を軽く叩く。
「おめぇってヤツは」
「だっ・・・だって・・・」
すると、の目から涙が浮かんでいた。
俺はそんなの瞼にキスを落とした。
「泣くなバカ」
「銀さんの・・・せいです」
「そうだな。俺のせいだな・・・はいはい」
「ちゃんと謝って下さい」
目に涙溜めて、ちょっとむすっとした表情をする。
俺はその表情を見て、フッと笑い彼女の頬を撫でた。
「謝るのはちと、おらぁ苦手だわ」
「でも、謝って下さい」
「そうさなぁ・・・じゃあ、こういう謝り方ってのはどうだ?」
そう言いながら、俺は掛けていた眼鏡を外し
の唇に、自分の唇を重ね・・・数秒で離れた。
離れて、は自分の唇に指を当てた。
「どうだ?新しい謝り方、恋人っぽくてよくね?」
「・・・・・・ダメです」
「アララ・・・ちゃんは手厳しいこって」
「ちゃんと・・・」
「ん?」
「ちゃんと、してください・・・・・・じゃないと、学校でも喋らないですから」
あまり言わない言葉に、俺は驚くも―――――。
「学校で喋らないとか俺が無理だわ。ちゃんとしてやっから機嫌直してくれよ・・・なぁ、」
の顎を持ちあげ、キスする。
触れ合うキスじゃなくて・・・恋人同士がする、キス。
安心しろ、おめぇはずっと俺の「恋人」だ。
と、言わんばかりの熱い口付けをするのだった。
言わなきゃ分からない事は、直接伝えてあげましょう
(直接=キスって事で、OK?)