「まぁ・・・それは最低としか言い様がないですね。覚悟を決めた方がいいですよ銀さん」
「ババァとおんなじこと言いやがって・・・っ」
道端で悩んでいる所、お妙に声を掛けられた銀時。
とある団子屋に2人は店先の椅子に腰掛け
銀時は今朝方の事をお妙に話した。
だが、彼の耳に入ってきた言葉は先程お登勢が言ったようなのと同じ言葉だった。
「それだから、ちゃんのお家の使用人であるトネさんから嫌われてるんですよ。銀さんがそういう体たらくだから」
「あのババァからは元々嫌われてるっつーの」
「にしてもです。こういうのは完全に銀さんの失態なんですよ。分かってるんですか?」
「・・・わーってるって」
銀時本人がよりも年上であることは傍から見ても分かること。
それだというのに、避妊対策は一切せず彼女に任せっきり。
大丈夫大丈夫、と思っていたところから思わぬ綻(ほころ)びが生じていたのだ。
全員が銀時を咎めて当然の事だった。
「その後ちゃんには会ったんですか?」
「どの面下げて会えっていうんだよ。ていうか、俺が何か言う前にアイツは仕事に行っちまったよ」
「銀さん」
「あ?・・・って、どわぁぁあ!?!」
途端、座っていた椅子が浮き上がり突然のことで銀時は
椅子から離れたものの、すぐさま椅子が自分のもとに飛んできた。
そして彼は慌てながらも落下してくる椅子を回避し、下敷きは免れた。
「そんな状態のちゃんを仕事に行かせるなんて、テメェ何考えてんだよ」
「テメェが何考えてんだよ!!俺を殺す気か!!」
椅子を投げてきたのはもちろんお妙。
相変わらずの怪力っぷりを見せつけ、銀時は怯える。
もちろんお妙の両手には、他の客が座っていたであろう椅子が軽々と持たれていた。
「銀さん。元はといえば貴方が一番悪いことくらい分かるでしょ?いい大人なんですから。
それだというのに、何をしてるんです?覚悟決めろって言われたら、覚悟決めるしかないじゃないですか?」
「何の覚悟決めろっていうんだよ。今から死ぬ覚悟か?やガキ残して死ねるかよ!!
つーかおめぇ完全に俺殺す気満々だろ!?」
「返答次第によっちゃそのつもりです」
「そのつもり、どころか、そうするつもりだろうがぁああ!!」
「どうするんですか、銀さん。聞いた話だと、人によっては初期状態でも立ってるのが辛い人だって居るらしいんですよ。
このままちゃんが救急車で運ばれるような大惨事になったらどうするんですか?
お腹の子供だって危険に晒されることくらい理解してます?」
「!!」
お妙の言葉に銀時は急いで立ち上がり何処かへと走り去っていった。
恐怖のあまり逃げたのか、と思うも
先程言い放った言葉を受け止めた銀時の表情は真剣な物だった。
「少しくらい自覚、持ってくださいね・・・銀さん」
そう言葉を零したお妙は笑みを浮かべ、持ち上げていた椅子を元に戻したのであった。
「はぁああ?帰っ、帰ったぁああ!?」
「そうなんでさぁ旦那ぁ」
銀時が向かった先。
もちろんそれは、真選組屯所。
お妙の言葉に突き動かされた銀時が走り急いだ先が
の居るであろう屯所だった。
丁度門前に、今から見回りに向かおうとする沖田を呼び止め
を尋ねた所――――――。
「何でも、朝から吐き気酷くて顔も真っ青だったもんで。
心配になった近藤さんがに帰るよう促して、アイツさっき帰りやした」
タイミングが悪いことに、は屯所を後にし帰ったと告げられた。
「さ、さっきっていつ頃?」
さっき、と言うからには5分ちょっとくらいだろうと銀時は思っていた。
運が良ければ追いかけてでも間に合うはず、と彼は沖田に尋ねた。
「なーに、1時間前くらいですぜ」
「さっきって時間じゃねぇだろうがぁあ!!全然さっきじゃねぇよ!!1時間も前ならさっきなんて言葉要らないよ!!
完全に家に着いてんじゃねぇかよ!!」
沖田の口から出てきた言葉に、銀時は凄まじい勢いでツッコミを入れる。
5分ちょっとなら追いつけると思っていたのに
蓋を開けてみると、5分どころか1時間も前にが屯所を後にしていたという事実。
追いつけるどころか、確実に銀時はの家に向かわなきゃいけないフラグが立ってしまった。
「大丈夫ですって旦那ァ。病人歩いて帰らせるほど俺達ゃワルじゃねぇでさァ。
トイレ引きこもってゲーゲー吐くが珍しくて籠呼んだくらいなんですぜ」
「此処来ても、アイツ・・・吐いてたのか?」
「土方さんが大好物のマヨ丼食ってる姿見るなり」
「いや、それは誰が見ても吐くわ」
誰が見ても、土方がマヨ丼をかっ食らっている様は吐く・・・と銀時は頷く。
「まぁそうでなくとも、普段のからしたら考えられねぇ事だったんで。
俺も近藤さんも心配で帰れって言ったんでさァ。最初は駄々こねて、帰らねぇとか言ってたんですが
籠呼んで、無理やり乗せて家に帰しやした。だから此処には居やせんぜ」
「そ、そうか。悪ぃな呼び止めて」
沖田の話を聞いて、銀時は屯所にが居ないと分かり踵を返す。
「旦那」
踵を返し、歩き出そうとすると沖田が銀時を呼び止める。
沖田の声に銀時は振り返る。
「何があったか知りやせんが・・・珍しいこともあるんですね」
「あぁ?どういうこった?」
沖田の意味深な言葉に、銀時は眉をひそめる。
「だって、アンタが此処に来ること自体有り得ねぇって話でさァ。
が此処に居ようが居まいが、旦那が此処に来る事なんてよっぽどの事がない限り来ないはず。
まぁが絡んでたら・・・アンタが此処に来るのは当たり前って事で」
「お、沖田クン・・・な、何が言いたいのかなぁ?」
すると沖田がゆっくりと、銀時に近付く。
一方の銀時は近付いてくる沖田に少々怯え気味。
何故なら自分の元に近付いてくる沖田の纏ったオーラがいつも感じる
ドS同士の空気とは違うものだと分かっていたからだ。
「つまりは旦那ァ」
そして、数メートルと距離が離れた所に沖田は立ち止まり―――――。
「に何かあったら只じゃおかねぇぞ、って事でさァ。
いくらアンタでも真選組全員は敵に回したくねぇでしょ?何せはウチの紅一点なんですから」
黒々しい殺気を含んだ笑顔で銀時に言葉を向ける沖田の背後に
屯所の塀という塀を真選組の隊士達が覆い尽くし
今までのやりとりを見ていたかのように銀時に睨みをきかせてていた。
「ひぃいぃ!!ごめんなさいぁぁぁぁああいぃいいぃいい!!!」
沖田の笑顔や、隊士達の視線に耐え切れず
銀時は恐怖のあまりその場を凄まじい早さで走り去っていったのだった。
「ハァハァハァ・・・やっぱ、ああいう所は俺には無理だ」
真選組屯所を凄まじい勢いで走り去り
銀時は再び街中へと戻ってきた。
仕事に向かったと思えば、仕事場で体調不良を起こし帰宅済み。
完全に銀時はの家に向かわざる得ない状況になってきた。
「ま、マジでどうしよ・・・これでの家に行ったら・・・・・・・・・」
ふと、銀時は考えた。
の家に向かう自分、そして門前に立つ・・・薙刀を持ったトネの姿に。
「(ババァに首ふっ飛ばされる・・・!!!)」
それだけは避けたかった状況なのに、避けられない状況になり銀時は怯え始める。
そうでなくとも彼自身相変わらず覚悟が決められないらしく
頭の中はパニック状態のまま。
考えるにも考えられずに、銀時は再び電柱の影で蹲り頭を悩ませる。
「・・・こうなりゃ、経験者に聞くしかねぇ」
ふと、頭を悩ませていた所に一筋の光。
どうやら銀時の中で経験者、と言われる人物を見つけたらしい。
今度こそいい回答を貰えそうかもしれない、と思い彼は立ち上がり
ある場所へと足を急がせたのだった。
覚悟を決める前に覚悟する準備を下さい
(何事も、段階を踏んで)