-----コンコン・・・!!
「え?」
夜も更けた。
私は部屋で寝る前の読書をしていたら
突然庭を閉めた戸を叩く音がした。
あまりに突然のことで私は、返事もせず刀を握る。
もしかしたら私の寝込みを襲おうとしている攘夷浪士かもしれない。
そう考えたら下手に返事を返してしまうと、起きていることがバレて速攻で粛清される事は
奴らにとっては不都合なこと。
此処はあえて、奴らの作戦に乗ってやろうか・・・と思いながら
刀を構え、息を潜めていた。
-----コンコン・・・!!
もう一度、戸を叩く音がする。
私は柄を握り、抜く態勢に入る。
『あれ?おっかしいな・・・まだ起きてると思ったんだが』
「ぇ?」
二度、戸を叩く音がした。
次に叩いたら、私は刀を抜くつもりだったが
外から聞こえてきた声に、刀を抜くどころか其れを床において、すぐさま戸を開ける。
「ぎ、銀さん!」
「んだよ。起きてたんなら返事くれぇしろって」
「いや、こんな夜に玄関から入ってこない貴方もどうかと思います」
戸を開けると、其処には銀さんが立っていた。
しかも何だか少し土にまみれた感じで、服どころか顔や、頭も汚れていた。
「玄関叩いても、ババァ出てこねぇんだ」
「あ、ばぁや・・・もう寝たんだった」
「年寄りは寝るのも早けりゃ、起きるのも早ぇだろうよ。だから庭まで回ってきたんだ」
「すいません銀さん。ところで、何か御用でも?ていうか、大分汚れてますけど何かしてたんですか?」
こんな夜更けに銀さんの訪問は驚きでもあるし嬉しいけれど
一体何の用があってやってきたのかが謎だった。
もちろん、彼本人が汚れているところも。
銀さんは縁側に座り、私もその隣に腰を下ろした。
「何万分の一の確率の、大博打してた」
「それでボロ負けしちゃったから、そんなに汚れてるんですか?」
「負けちゃいねぇーよ。ちゃぁんと、大勝利収めてきたぜ。ホラよ」
「え?・・・あ」
目の前に差し出されたのは、四つ葉のクローバー。
確かに昼間。
お登勢さんのお店で四つ葉のクローバーの話をしていた。
欲しいとは思っていたけれど、たまの確率を聞いてやっぱり見つけるのは
困難だろうと心の中で呟いていた。
だけど、今目の前に・・・ある。
私がそれを受け取ると、銀さんは後ろにと倒れ伸びをする。
「ぎ、銀さん・・・あの、コレ」
「有能からくりの確率もアテになんねーな。川原に行ったらそこら中に生えてやがった。
なーにが何万分の一の確率だ。すぐ見つかったっつーの!今度アイツの確率云々源外のジジィに直してもらったほうがいいな」
銀さんは大見得を張っているようだが
何万分の一の確率のモノが、すぐに見つかるわけもなければ・・・かの人が体中土だらけになるはずもない。
探してくれていたんだ・・・必死になって。
手も、さっきから汚れていることを悟られないように上手く誤魔化して隠している。
「じゃあ、私も今度探しに行こうかな。そこら中に生えてるなら」
「ダ、ダメダメ!銀さんの大好きなチャンの綺麗なおててが汚れちゃうからやめなさーい。
欲しいなら銀さんがいくらでも取ってきてあげるから、綺麗なおててを汚すのだけはやめなさい」
私がそう言うと、銀さんは寝転ばせていた体を起き上がらせ
必死で言葉を取り繕いながら言う。
「フフフ・・・嘘ですよ。コレ1個ですごく十分です。ありがとうございます、銀さん」
「お、おう・・・だ、大事にしろよ」
「ええ」
初めて見る、本物のソレに私は笑みを浮かべクルクルと回していた。
「勝利・努力・友情のジャ○プお決まり文句もいいけどよぉ・・・希望・誠実・愛情・幸福っていうソレも悪かねぇな」
「え?」
「葉っぱ一個一個にそういう意味があるんだと。女の子はこーいうの好きなんでしょ〜?」
「え・・・えぇ、まぁ」
「もこういうの好きそうだもんな。まぁテメェんトコのヤロー達にゃ
のそういう乙女心は分からんだろうな。でも、まぁ銀さんにはお見通しですけどー」
「フフフ、そうですね」
一枚一枚、葉っぱに込められた意味。
見つけてもらっただけで幸せになれそうなのに、そんな話を聞いてもっと幸せになれそうな気がした。
「ちなみにコイツ、別の意味も持ってるんだと」
「別の意味?・・・って、きゃっ!?」
するといきなり銀さんに引き寄せられ、顔がすごく近くにある。
赤く光る瞳に吸い込まれそうで目が・・・離せない。
「ぎ、銀さん!?」
「・・・コイツの別の意味、知りたくね?」
「し、知りたいですけど・・・か、顔が近いです」
「だって近くで言わねぇとムード出ねぇじゃん」
「で、ですけど・・・っ」
顔が近いし、更には銀さんが耳元に顔を近付けて
其処で多分言おうとしているに違いない。
おかげで私は、顔が真っ赤どころか耳までも熱くて赤いに違いない。
そして、彼の息遣いが聞こえてきて―――――――。
「四つ葉のクローバーってな・・・――――わたしのものになって、って意味もあるんだぜ」
「っ!!」
その言葉に心臓が思いっきり跳ね上がった。
心拍数が上がるどころか、熱が体中を駆け巡り始める。
熱くなった体に、銀さんがやたら優しく触れだして
挙句、耳元で鼻から息を吸い込み吐き出す音が聞こえる。
「・・・すっげぇイイ匂い。何の匂い?シャンプー?それともボディーソープ?」
「ぎ、銀さん・・・あ、あの汚れてますから・・・その、お風呂っ」
「風呂か。じゃあも入ろうぜ。お背中流して欲しいんだけど?それに、おめぇも汗かいてんぞ。
1人よりも、2人で入ったほうが・・・楽しみってもんがあんだろ?」
ああ、もうなんか・・・この人、ズルい。
「銀さんズルいです」
「大人は皆ズルい生きモンだ。さてと、ババァ起こさねぇようにしねぇとな、」
「もぅ、銀さんやっぱりズルいです」
「はいはい。後は風呂ん中でたっぷり聞いてやっから・・・お前の声全部」
そう言って銀さんはブーツを脱いで上がり込み
肩を抱かれながら2人で浴室へと向かうのだった。
幸せになれるという、四つ葉のクローバー。
でも、私の幸せなんて貴方の側に居るだけで幸せでもあるし
とっくの昔に・・・私は、貴方だけのモノになっていますよ。
プレミアム・ガール
(最愛なる君に送る、幸せの贈り物)