「精が出るわね」
「あ、お疲れ様です」
とある日。
二人の少女が、偶然鉢合わせた。
一人は真選組の隊服を身に纏った齢18の少女。
もう一方はごく普通な小袖を身に纏った齢16の少女。
「買出しの帰り?」
「はい。あ、見回りですか?」
「うん。でも、そのまま直帰していいって言われてるの。だから今日は
もうこのまま帰ってやろうとか思ってるわけ」
「真選組も大変ですからね」
「ストーカーする上司とかマヨネーズをこよなく愛する上司とか、破壊活動する上司とか。
こんなんばっかりと同じ職場なのが本当に私の職運は最初から尽きてるわ」
彼女の言葉に苦笑を浮かべる。
「貴女・・・今日も仕事でしょ?」
「はい」
「大変でしょ?体壊したりしないでね。料亭も大変なお仕事なんだから」
「大丈夫です。小さい頃からやってますから」
「それでも貴女は女の子なんだから、体には気をつけなきゃ」
「そのお言葉そっくりそのまま返させていただきますよ」
そう言いながら二人は笑いあう。
「あんまりこんな所で貴女を足止めしてちゃ悪いわ。じゃあまたね」
「はい。お勤めご苦労様です」
「貴女もお疲れ様」
そして二人はすれ違い、別れた。
「さて、見回りもある程度終えたし。銀さんの所には明日行くとして、今日はもう帰〜ろ」
湊屋の仲居、本庄優と別れた私は一人考えながら空を見上げる。
近藤さんが久々に「見回りが終わったらおめぇは今日はそのまま帰っていいぞ」なんて
気前なこと言うから、確実に明日は雨か?槍でも降ってくるとか思っていた。
-----ゴロゴロゴロ。
「おい、言ってる側から雨降りそうだし」
心の中で「明日は雨か?」とか呟いた矢先、空模様が変わる。
雷が唸りを上げ、今にも雨が降りそうな状態になる。
濡れる前に帰ろうと、私は足を急がせる・・・・・・と。
「貴様、真選組のだな」
目の前に、数名の男。
後ろにも同じように・・・・・ようするに、囲まれた。
「えぇそうだけど?言っとくけど援交とか興味ないから。私、カッコイイ人とお付き合いしてるの」
「冗談のうまいお嬢さんだ。我々が何者か分かっているだろう」
「そうね。現れて、私の名前呼ばれた瞬間から気づいてたわ」
私はそう言いながら、腰に差していた長刀を抜く。
「私の大嫌いな攘夷浪士たちですもの。分からない方がおかしいわ」
私が刀を抜くと、取り囲んでいる男達も一斉に刀を抜く。
「貴様の命、今すぐに消してやろう」
「やれるもんならやってみなさいよ。あんた等全員私が粛清してやる」
「ほざけアマがっ!切り捨てろ!!」
一人の男の声で全員が斬りかかってくる。
その瞬間・・・雷が鳴り、雨が・・・降り出した。
------------ザーーーー。
「ただいま戻りましたー」
「お帰り。濡れなかったかい?」
「はい荷物は大丈夫です」
「いや、荷物じゃなくてお前自身のことなんだがな」
湊屋に戻ると、旦那様が拭き物を持って私の帰りを待っていた。
真選組隊士である新堂真衣さんと別れてすぐ
突然雷が鳴り、雨が降り出した。
「いきなり降ってきたので驚きました」
「雷が鳴っていたからね。部屋に戻って着替えておいで」
「はい。戻ってきたらすぐ準備します」
「いや、準備はまだいいよ。少しゆっくりしておいで」
旦那様が私の持っていた荷物を、自分の元にと引き寄せ
私の頭を撫で、部屋に戻るよう促した。
私は照れながらも、1つ頷き部屋に行く。
廊下を歩き軒下から、空を見上げる。
「いっぱい降ってきた・・・・・・でも大丈夫かなぁ」
真衣さん、濡れてなきゃいいけど。
そう心の中で呟きながら、私は自分の部屋へと戻るのだった。
雨降る、江戸の町。
二人の少女が出会い、別れ、それぞれのその後。
一人は体中に返り血を浴び刀からは血が流れ落ちて、多くの死体に囲まれ雨に打たれていた。
一人は屋内から雨が降り続けるのを、見て止むのを待っていた。
ある雨降る日。
その後の少女達の話が、雨と共に続いていた。
それぞれの雨−prologue−
(雨の日には、人によって様々な物語が始まる)