外は相変わらずの土砂降り。
俺は服を簡単に着て、居間兼応接間の黒電話を握り
ダイアルを回しそれを持ったまま机に寄りかかり、受話器を耳に当てた。
----------PRRRRR・・・・・ガチャッ!
『はい、でございます』
「あー・・・どーも、どーも。毎度お世話になっております、万事屋銀ちゃんでございますぅ〜」
『イタズラ電話ならお断りじゃぞ天パ』
電話を掛けた先はの家。
出てきたのはんトコの使用人のババァ。
俺は(行儀悪いけど)机に座り、膝の上に電話機を乗せ、話を始める。
「イタズラ電話じゃねーよ、クソババァ。イタズラならお宅んトコのお嬢様におらぁいつでもしてるっつーの」
『貴様電話元で呪い殺してやろうか』
「まぁそれはさて置いてだな」
ババァに呪い殺されるくらいなら、に斬られて死んだほうが何百倍とマシだ。と
俺は心の中で思いながら話を続ける。
「お嬢様を途中で保護して、預かってるから迎えに来いよ」
『どういう意味じゃ、それは?』
「言ったとおりだっつーの。がずぶ濡れだったから、とっ捕まえて万事屋に連れて帰ってきたんだよ」
『お嬢様が、ずぶ濡れ?・・・坂田様、それは一体どういう?』
俺はため息を零し、電話元のババァに言う。
「帰る途中、攘夷浪士共に襲われたんだと」
『何じゃと!?それで、お嬢様はご無事なんでしょうな!?』
「無事だから電話してんだろ。まぁ左腕に刀傷があったが幸い傷口が浅ぇから手当てはしといたぜ、ありがたく思えよ」
ありがたく思えよ、って俺の言う言葉じゃねぇよな。
何せ風呂場で2回・・・あ〜んなことして、仕舞いには寝室まで持ち運んで3回・・・こ〜んなことしちゃったわけ。
おかげでのやつぁくたびれて寝ちまった。
寝てる間に左腕の手当てはしといた・・・はい、ある意味の償いです。
合計で5回はあの子抱いちゃってるわけだから。
『左様か。雨が少し止んだらそちらにお迎えにあがります。坂田様、わざわざご連絡ありがとうございます』
「別にいいけどよぉ。・・・・・・のヤツ、気にしてたぜ」
『何をでございましょう?』
「が人を斬って、血を浴びてくるたびに・・・おめぇさんが嫌な顔をするってさ」
俺はが雨の中言っていたことを、ババァに告げた。
それを告げると電話元のババァはため息を零した。
『お嬢様・・・そのこと、まだ気になさってたのですか』
「元はと言えばおめぇの発言だろうが。がそんな風に悩んだのはおめぇの発言ひとつだろうが」
『言葉のあやでございますよ坂田様』
「どういう意味だ?」
電話元のババァはワケの分からないことを俺に投げてきた。
いや、銀さん「言葉のあや」の意味くらいは知ってるよ。
そこまでバカ扱いされちゃ困るからねコレ。
『真選組に入ることを望まれたのはお嬢様のご判断。私もそれには素直に従おうと思いました。
ですが・・・・お嬢様が刀を握られ、血で染まると思うと心苦しいのでございます。
幼き頃からお嬢様を見ているこのトネにとっては』
「ばぁさん」
はで、大切な人を傷つけないために刀を握り、真選組に。
だが身内からしてみれば、本当の子供でなくても血で染まるのは嫌だろう。
『お嬢様のことを考えて言ってしまったことでしたが・・・どうやら、逆効果のようでした。
お嬢様をつらいお気持ちにさせていたのかと思うと、愚かな事をいたしました』
「愚かな事とか、んな事ないんじゃね?」
『坂田、様?』
「ばぁさんはばぁさんで、幼いをあんな立派な美人に育ててたんだしよぉ。心配するのは当然じゃね。
むしろ俺だったら刀すら握らせたくないし、嫁にすら行かせたくないわ。家族なんだしよぉ、そう思うのは当たり前なんだよ」
『坂田様』
「でも、まぁ・・・一言謝るとかしたほうがいいとは思うぜ。あんまりに落ち込まれても、俺が嫌だし。
俺はがどんなときでも笑ってて欲しいって思ってるから。アイツが泣いたり、悲しんだりするのはごめんだわ」
俺はただ、大好きな女が側に居て
楽しく、笑ってくれてさえすればそれでいい。
泣いてる顔や、悲しんでる顔は俺は見たかねぇ。
あの雨で涙を必死に隠している姿は、しばらく俺の脳裏から消えそうにない。
がちゃんと笑ってくれたら、多分消える。
アイツの笑顔が、俺の全てを明るくしてくれてるようなもんだからな。
『そうでございますね。たまには良い事を言うな、天パ』
「天パ天パうっせぇよクソババァ。雨止んだら迎えに来い、来なかったら今晩をウチに泊めっからな」
『雨を止ませるよう儀式でもせぬばな。では、後ほど』
そう言ってババァは電話を切った。
確実にをウチに泊めねぇつもりだな・・・あのクソババァ。
「チッ・・・つまんねぇお節介だったか。しょーがねぇ、ババァが来るまでとイチャついとこー」
俺はそう呟き、電話機を机に置いて
が眠っている寝室に足を運ばせる。
襖を開けると、畳に敷いた布団の上にが眠っている。
俺は眠っているの頭を撫でた。
「・・・・・んっ・・・」
撫でるとくぐもった声がし、閉じていた瞳が薄っすらと開く。
「銀、さん?」
「悪ぃ、起こしたな」
「いえ・・・あの・・・大丈夫、です」
大丈夫つっても、目がまだおねんね状態だぜおい。
「あんま無理すんな・・・いや、無理させたのは俺だよな、すまん」
「いえ、あの・・・本当に、大丈夫・・・です。手当てまで、していただいたので」
「」
はまだ眠そうな声で俺の服を握り、笑う。
その表情に俺は何も返せなくなり、頭を掻き
服を握っているの手を解かせて、俺はもぞもぞとの隣に入った。
「銀さん?」
「何もしねーよ・・・添い寝だ添い寝」
頭を支えるために肘を立てて、もう片方の手でを自分の元に引き寄せた。
「ババァに電話しといた。雨止んだら迎えに来いって」
「すいません。何から何まで」
「別にいいよ。それまで寝てろ・・・ババァ来たら起こしてやっから」
「あ・・・はい」
は小さく返事をした。
小さな返事を耳に入れた俺はの背中を優しく叩いた。
部屋は静まり返り、外の雨の音しか聞こえない。
「、起きてっか?」
「はい」
なんとなく寝た気配を感じられなかったので、声をかけると
案の定は起きていた。
「あんま、気にすんな」
「え?」
「皆おめぇが心配で言ってんだ。だから気にしなくていいんだよ」
「銀さん」
俺が何を言おうとしていたのが分かったのか
は俺の名前を優しく呼んだ。
「悪ぃ・・・お節介だったか?」
「いいえ、ありがとうございます」
そう言っては俺の体にさらに密着させてきた。
あ、やべ・・・可愛い。
てか髪の毛からすっげぇいい匂いすんだけど・・・あー・・・ムラムラする。
「銀さん」
「ん〜?」
名前を呼ばれ、を見ると・・・・・唇が軽く触れた。
思わず目が点になる俺。
そして、布団から抜け出る。
彼女はそこら辺に置いていた俺の着物を取り、軽く身に纏う。
「銀さんのおかげで、雨が少し好きになれそうです。・・・お風呂、また借りますね」
明るい声で寝室を出て、再び風呂場に向かう。
俺はというと、頭を支えていた肘の力を抜けさせ布団にへたれこんだ。
あの子なんなの?
また俺の理性ぶっ壊すつもりなの?
それってどうよ?いいってことなの?
窓の障子から外を見ると、雨はまだ一向に止みそうにない。
ババァの迎えは程遠い、か・・・それとも―――――。
「ちゃ〜ん、銀さんも一緒に入っていい?今度はちゃんと背中流してやっからさぁ〜」
いっそ泊まらせて、帰さねぇようにしてやる・・・かな?
生憎の空模様でも、きっと何かが起こりそうな予感。
雨はそれぞれの場所で降り、それぞれの物語を生み出し・・・紡いでいく。
それぞれの雨−Side.G−
(雨の日の出来事。俺はお前の心に降り注ぐ優しい雨になった)