「・・・・」
「・・・・」
朝。
俺の頬には白い湿布が貼られていた。
そして、応接間兼居間で
神楽はの作った朝飯をバカ食いし、その隣では
俺と目も合わせたくないのか顔を横に向けていた。
朝から出勤してきた新八も部屋の異様な空気に言葉も出ずソファーに座っていた。
んで、俺はというと頬杖をついてをジッとみていた。
「!おかわり!!」
「はい神楽。朝からよく食べるね」
「のご飯がオイシイからネ!!銀ちゃん、食べないなら私が食べるヨ?」
「人様の飯にまで箸を伸ばすなバカ食い娘。ちゃんと食うから自分の食ってろ」
俺の朝飯にまで箸を伸ばしてきた神楽の手を叩く。
「ケチ」という神楽の声を耳に入れるも
そんなもん、今の俺には右から左に受け流し状態。
俺は今、朝飯を食うよりもとの昨晩の事を話しがしたく
アイツをじっと見つめていた。
だが、肝心のは俺の目を見るどころかそっぽを向く始末。
おかげで用意された朝飯も喉を通らないほどだ。
「あ、あの・・・銀さんにさん。何があったとか聞きませんけど
しゃ、喋りませんか?さすがに神楽ちゃんがバカ食いしてるだけの光景は異様です」
「別に何もないわよ」
「そーだぜ新八。なぁ、?」
「・・・・・・」
新八が上手い事助け舟を出したものの、「そうよ新八」とが
答えてくれるはずなのに、俺の言葉には答えもしない。
完全に昨日の夜のことで怒っているのは明白だ。
「そうだ神楽。後から2人でお買い物行こうか」
「ふぇ?とお買い物?・・・行く!!行くアル!!」
すると、が神楽を買い物に誘う。
が神楽を連れて出掛ける、ということは
明らかに俺と距離を置きたい・・・というか、顔も見たくない喋りたくもないという
意思の現れだった。
「神楽の好きなもの何でも買ってあげる」
「ホントアルか!?キャッホォオォオイイィ!!」
の言葉にはしゃぐ神楽。
ふと、が横目で俺を見る。
そんなアイツと目が合うけれど、すぐさまそっぽを向かれた。
駄目だ・・・完全に怒ってる。
「あ、あのさん。神楽ちゃんが食べ終わったら行ってきていいですよ。後片付けは僕がしますんで」
「そう?ならお願いしようかな」
「ごちそうさま!!、お出かけ!!」
「はいはい。じゃあ新八、あとヨロシクね」
「行ってらっしゃい」
俺に何も言葉を掛けず、と神楽はウチを出て行った。
結局朝から一言も喋れずは俺の元を去っていった(大げさかもしれんがそうなる)。
ようやく呼吸の出来る環境になったのか
新八が盛大なため息を零しながら、神楽の食い終わった食器を重ね始める。
もちろん俺は、目の前の自分の朝飯を今更ながら食べ始める。
相変わらずの作る飯はウマイ。本当に出来の良い子だ。
「珍しく喧嘩ですか?」
「まぁな」
「昨日、僕が出て行くまで仲睦まじかったのに」
「そーですね」
新八の言葉を受け流しながら、味噌汁を啜る。
あー・・・ホント、の作る飯はウマイ。
「何があったとか、聞きませんよ」
「話すつもりもねぇよ」
「さんが彼処まで機嫌が悪いってことは、どーせ昨日銀さんが先走ったからだろうと思いますけどね」
「ぶふっ!?」
「うわっ、汚っ!?」
的を射た言葉に俺は飲んでいた味噌汁を噴き出した。
机の上がデロデロに、味噌汁で汚れた。
「図星ですか」
「・・・う、うっせぇ!!どぉーせ先走ったよ!!我慢できずに寝てるアイツにイタズラしたよ!!
そしたらこのザマだ!!ビンタはされるわ、部屋から放り出され朝まで放置されるわ!!
しまいにゃ、目も合わせて話もしてくれねぇ!!どぉーだ!!笑うなら笑えよ!!
銀さんバカみてぇだろ!!盛大に笑えってんだよ!!」
「虚しいからやめてください銀さん。笑うどころか、呆れてモノも言えませんから」
そう言いながら新八は神楽の食器を台所へと運ぶ。
俺はというと、言ってて本当に虚しかったし呆れられて当然だと思っていた。
新八は台拭きを持って居間に戻ってきて
俺の食事以外片付けを始める。
「明らかに銀さんが悪いですよ。寝てるさんにイタズラするから」
「だったら俺に我慢しろってーのか?んなの出来っかよ!1ヶ月だぞ、1ヶ月!!
ウチにも来なかったし、エッチだってさせてくれなかった。
俺の息子もグレてナニしても出やしねぇトコまで落ち込んでたんだぞ!!」
「だからって寝てる人間にそーいうのはNGだと思います」
「うっ!?そ、それは・・・っ」
当たり前の事を言われて、俺は何も言い返せない。
確実に否があるのは俺。
は何一つ悪いことはしてねぇ。
「とにかく銀さん。さんに謝らないと、次は1ヶ月どころの問題じゃないですよ。
このままだと確実に破局になりかねませんよ?」
「わ、分かってらぁ」
そう。
それくらい、自分でも分かってる。
だけど俺の話も聞かなければ、顔も見てくれない人間にどうしろっていうんだ?
何を言えばいいんだ?
土下座して謝れって?
出来る事ならそうしたいし、が許してくれるまで謝り倒したい。
俺のすっからかんな空っぽの頭だけど、誠心誠意込めて謝りたい気持ちは大きい。
でも「ゴメンな」の一言で今回ばかりは片付けられない。
自分の我慢限界領域を超えてしまったばかりに
寝ているを半ば襲うような事をしてしまったのだから
そんな一言じゃ、アイツは許してもくれないだろう。
「コレがさんの作る最後のご飯にならなきゃいいですけどね」
「うるせぇ、一言余計だ。・・・ごちそうさん」
作ってもらった飯を食い終え、空になった皿を見る。
の作る最後の飯・・・そうならないようにするには、本当にどうすりゃいいんだろうか?
これが最後の飯だなんて死んでもゴメンだ。
「でも、さんが神楽ちゃんを預かってくれて良かったですよ」
「あ?何で?」
「今日、ちょうど男手が欲しいっていう依頼があったんで。
だから神楽ちゃん連れて行くわけにはいかなかったから良かったです」
「んな時に限って仕事とか・・・かったりぃ」
「どーせさんと喧嘩してるんですから、家にいても意味無いでしょ。本人も居ないんですから」
「・・・・・・・」
新八の言葉に頭を掻く。
確かにが居ないんじゃ、いつもの日常と変わらない。
家に引きこもってても、昨日のことを思い出して落ち込む一方だ。
それよりかは、仕事して何か良い案を考える方が良いのかもしれない。
「ホラ、行きますよ銀さん」
「へぇへぇ」
そう言って俺と新八は家を出て、仕事へと向かうのだった。
「いやぁ〜意外と貰えたもんですね」
「そーだな」
昼過ぎ。
仕事を終え、その日の給料を貰った俺と新八は万事屋まで歩いていた。
貰った金と仕事の内容が相反していたが
その金額に新八は喜ぶ一方、俺はというと仕事をしながらも
との事を考えていた。
結局、何も思い浮かばなかったけど。
「銀さん」
「あ?・・・・・・んだよ」
すると、横から新八に声を掛けられた。
顔を横に向けると、アイツは貰った金の少しを俺に差し出していた。
「何これ?お小遣い?」
「パチンコに使わないでくださいね」
「だったら何に使えってぇんだよ?銀の玉転がしがダメなら馬か?それともお船か?」
「誰が博打に使えって言ってんだ。コレでさんに何か買ってあげて下さい」
新八の気遣いに、俺はため息を零す。
「別にいらねぇよ、んなの」
「どうせ何も思い浮かばなかったんでしょ。
アンタの事だからさんに土下座して謝り倒せばいいとか考えてたんでしょ?」
「・・・・・・・」
思考を読まれてしまい、何も言えない。
ホント、時々神楽もそうだが新八もこういうことに関しては鋭いからイヤになる。
でも、きっかけは欲しいと思っていた。
謝るだけじゃ物足りないと思っていた。
「たまにはさんに何か買ってあげたっていいじゃないですか。
まぁ、それでさんの機嫌が直るとか僕には分かりませんけど」
「はぁ〜・・・ヤダねぇ。これだからおこちゃまは」
「なっ!?万年子供みたいな銀さんに言われたく」
「はいはい。大人にそういう気遣いしなくてもいいですよーっと」
そう言って俺は新八の手から金を取った。
「あ、銀さん!!」
「新八ー・・・先に万事屋戻っとけー。銀さんちょっくら行くトコあっから」
新八の先を歩き始めると、後ろから「パチンコに行くなよ!!」と声が聞こえてきた。
今の俺には銀の玉転がしや、馬になんざ興味はない。
ただ、あるのは・・・大好きな女の機嫌と笑顔を戻すことだけしか今の俺の頭の中には無かった。
「んー・・・女って、何やりゃ喜ぶんかねぇ」
街をフラフラと歩きながら考える。
正直、何をやれば機嫌が直るとかそういうのが俺には一切分からない。
だから、新八から金を貰っても何を買えばいいのかも分からなければ
何をやればいいのかも分からない。
むしろ、は俺がやれば何でも喜びそうな気がする。
パチンコで勝って持って帰ってきた景品のお菓子もアイツは嬉しそうに受け取ってくれたし
とある依頼人から貰った花をやった時は頬を染めて喜んでくれた。
高価な物なんて、万年金欠病の俺がやれるもんじゃないことくらい
は重々承知している。
それとは逆に、が神楽や俺、新八に色々買い与えてくれている気がする。
「やべぇ・・・立場違いすぎじゃねぇか」
普通なら、男が好きな女に何でも買ってあげるのが世の常。
しかし、それが逆となれば見っともない事この上ない。
「おいおい、マジで何やりゃいいんだよぉぉ」
「あれ?銀さん?」
「長谷川さん」
頭を抱え悩む俺に声を掛けてきたのは長谷川さんだった。
「なるほどねぇ。ちゃんにご機嫌取りの品をってワケかい」
「アンタ、別居してるとはいえ嫁さんいんだろ?嫁さんにプレゼントとかしたことあんだろ?知恵貸せや知恵」
「それが人に物を頼む態度かよ」
とある公園のベンチに座り、俺は昨日のことを話した。
(長谷川さんは俺達の関係を流出する恐れはねぇから俺が勝手に関係をゲロった。
ちなみには知らねぇ)
曲がりなりにも長谷川さんは既婚者だ。
嫁さんが居る男はプレゼントくらいやったはず。
今はマダオでも、以前は幕府高官の地位に居た人だ。
プレゼントだってそれなりにしていたと思う。
知恵を借りるならもうこの人しか居ない。
「プレゼントねぇ。ハツになーにやったかなぁ〜?」
「おいおい頼むよ長谷川さん、思い出してくれよ。アンタが俺の唯一の希望なんだ」
「そー言われてもなぁ。あんま恥ずかしくて覚えてねぇや」
「使えねぇ」
「おおぉおいい、使えねぇとは何だ!!
大体あんな可愛い子の寝姿見て興奮して襲ったアンタがそもそもの原因だろうが!!」
「うっせぇええ!!襲ってねぇえ!!おっぱい触って半分突っ込んだだけだっつーのぉおお!!
お陰でビンタだよ!!朝まで居間に放置プレイだよ!!息子はグレて、おっきもしねぇし発射もしてくれねぇよ!!
1ヶ月もお預けされたら誰だって萎えるわ!!ナニしても抜けれねぇよ!!」
真っ昼間の公園には普通だったら非常にいかがわしい会話だ。
しかし、そんな事・・・俺や長谷川さんには日常茶飯事な事で気にしていない。
互いに息を切らせながら言い合う。
すると長谷川さんはベンチに座り直した。
「アンタがそんなんだったら、ちゃんも怒るわな。銀さん、ちゃんより大人だろ?」
長谷川さんは煙草に火を付け、紫煙を吐き出す。
その一言を言われ、俺もベンチにドカッと座り直した。
「大人でも我慢できねぇもんはできねぇんだよ。の事になったら余計、我慢なんかできっかよ」
自分がより「年食った人間」つまり「大人」というものなのは分かる。
腰に刀を差して、野獣共の中にいても、はまだ「子供」で「女」なんだ。
年食ってる分、世の中をある程度渡ってきた。
子供のアイツより、我慢の仕方くらい十分に知っている。
でも、を前にしたら・・・我慢なんかできやしねぇ。
アイツの全部、独り占めしたい。
アイツの体だけじゃなく心ごと、独り占めしていたい。
誰かに取られるのは真平御免こうむりたい。
「どっちがガキでどっちが大人か分かんねぇな、アンタたちは」
「あ?んだよそれ?」
意味深に吐き出された長谷川さんの言葉に俺は眉を歪め、睨みつける。
「この前、ちゃんに会った時なんだけどさぁ・・・――――」
それから長谷川さんの話を聞いた後、俺はある場所へと赴き
新八から貰った金で、ご機嫌取りの品を買った。
それを持ったまま、万事屋に帰る。
階段を昇り、玄関の扉の前に立つ。
着流しの懐に入れた品物を今一度見る。
「んなもんで、喜んでくれんのかねぇ」
女の好きそうなものなんて、俺には全く分からない世界だから
長谷川さんの話だけでが喜んでくれるかどうかなんてさっぱり分からん。
しかし、何もせずなままだと1ヶ月と1日の放置が長引くどころか
んちのババァも大喜びの破局になってしまいかねない。
一か八か。
空っぽの頭での土下座と、ご機嫌取りの品だけでやるしかねぇ。
そう自分に言い聞かせ、扉を開ける。
ふと、並ぶ靴は一足・・・しかも草履・・・更に言うなら女物。
新八は先に帰ってるはずなのに、アイツの草履がない。
神楽の靴だってどこにも見当たらない。
確実に、部屋の中には1人しか居ない。
俺は靴を脱いで、短い廊下を歩き――――――。
「神楽。定春の散歩早かっ」
「よ、よぉ」
「銀、さん」
居間に赴くと、台所からが現れた。
俺の突然の帰宅に、本人予想していなかったのか驚いている。
すると、顔も合わせたくないのかいそいそと台所に戻ろうとする。
「な、なぁ」
そんなアイツの後ろ姿に声を投げた俺。
俺の声に、動きを止めた。
「少し、話しねぇか」
俺の口から出てきた言葉に、は振り返り一つ頷き
2人で和室へと入っていくのだった。
男は黙って謝るすべを考えるべし!
(アレで、上手くいくかどうか・・・)