、居るかァー?」






とある日。

俺は部下であるの家にやって来た。風呂敷に包んだ”あるもの“を持って。


庭先からアイツの名前と所在確認の為に声を上げると襖が開く。







「総悟。どうしたの?」






襖を開けた奥から小袖を着たが出てきた。
隊服ばっかり見慣れているせいか、その姿に一瞬驚いた表情に
自分自身なったが、それを気づかれないように俺は話を始める。







「おめぇにやる」



「は?」







俺は手に持っていた風呂敷に包んだ”あるもの“を縁側に置いた。

はすぐさまそれに近付き風呂敷を開ける。
中の物がの目に映ると、アイツは俺にと視線を向ける。






「総悟・・・何これ?」



「見りゃ分かるだろ。着物だ」



「男のアンタが何で”女物の着物“持ってきたっていうの?アンタに女装の趣味でもあったのかしら?」






風呂敷の中のモノには笑いながら俺に
冷やかしながらなそんな言葉を投げかけてきた。

確かに、男の俺がそんなものを持ってきた時点でそう思われても仕方がないかもしれない。


いつもなら其処に嫌味の一つや二つを上乗せして返すのだが
今の俺にはそんな言葉は思いつかなかった。







「違ぇよ。それは・・・俺の姉上の形見でぃ」



「あ、ご、ゴメン・・・そう、だったんだ」






に渡した着物は、俺の姉上・・・沖田ミツバ姉ちゃんの物だった。






「亡くなってから、姉上の遺品整理してる時に見つけてな。
焼くのも勿体ねぇし、売っちまったら死んだ姉上に申し訳ねぇ。かと言って
万事屋の旦那んトコのチャイナには着物っていうガラじゃねぇからよぉ」



「成る程。でも、いいの?大事なミツバさんの着物、私なんかがもらって」







は着物を手で持ち上げ、俺を見る。

俺はというと、着物に目が行く。









「本当は・・・焼いて、捨ててしまいてぇくらいだったんでィ」



「え?」








本当は、そうしたかった。


姉上が亡くなった、あの日からずっと思っていた。



燃やして、灰にして、何もかも無くしてしまいたかった。







「総悟・・・何で?ミツバさんのものなら大事に遺してあげとくのも、家族なんじゃないの?」



「だからだよ。そいつぁ、姉上のモンだ・・・姉上が着ていたモンだ。遺しとくくらいなら
焼いて捨ててちまえばいいやって考えたんだけどよォ・・・死んだ姉上に怒られそうでさァ。
だから、・・・おめぇにやるんだよ、大事にしろ」



「総悟」







遺しておきたいけれど、俺の側にあれば・・・亡くなった日の事を思い出してしまう。


焼くより、手放したほうがいい。





幼い頃姉上に守られていた分、だから俺が姉上を守ろうと誓った。


だから、自分で守れるものは全力で守っていた・・・今いる仲間も、家族も。











『そーちゃん。いつまでも、姉上を守ってくれなくてもいいのよ?』


『嫌です!僕は、僕はずっと姉上を守っていきます!だから―――』


『そーちゃんは良い子ね。でもね、貴方にもいつかきっと姉上だけじゃない、守るべき人が出来るから』


『姉上』








幼い頃に言われた言葉。

今思えば、もう俺に「姉上だけじゃない守るべき人」が見当たらない。



俺ぁもう・・・姉上以上に守るべき人なんて、居やしない。







「ばぁや!ばぁや、ちょっと来てくれる?」






途端、が大声を上げて使用人のババァを呼び出した。






「はい、お嬢様。おや、沖田様いらっしゃってたんですか」


「野暮用で家に来たのよ。ねぇ、ちょっと手伝って欲しい事があるの。あ、総悟・・・其処に居なさいよ」


「お、おい


「いいから居なさい」








そう言い残し、は使用人のババァと一緒に部屋に戻っていった。


「居ろ」と言われたからにはとりあえず待っていることにした。
しかし、一体何があってそう言い出したのかも分からなければ、部屋の中で何をしているんだ?としか思わない。








『まぁ・・・お嬢様、素敵でございます』







すると中からババァの感嘆な声が上がる。

本当に何してやがるんだアイツ?






「おい、・・・何してるんでィ?」



「今行く。・・・コレでよし、っと。はい、おまたせ」







襖が開いて、中から出てきたに俺は目を見開かせ驚いた。




アイツが身にまとっている着物は、先程俺が渡した姉上の着物だった。
そしては縁側に腰を下ろす。






「ほら、座れ」



「は?」



「いいから座れ」






縁側に座ったが自分の隣を叩いて、俺に座れと促す。
意味が分からないが、座れと言われた以上そうしてやったほうがいいのか?と思いながら
俺は刀を腰から抜いて、の隣に座った。


座った途端、頭を撫でる柔らかな感触。




髪に触れ、撫でてくるその感触は
幼い頃・・・そして、死に際に自分を撫でてくれた姉上の感触に似ていた。




そして、初めて知る。

コイツ−−の手は、こんなにもあたたかく優しい事に。




そう思ったら、何だか目が熱くて仕方ねェ。







「総悟」



「誰にも・・・言うんじゃ、ねぇぞ。言ったら、ブッ殺すからな」



「言わないわよ、アホ」






何があったとか、聞かねぇで欲しいところだ。


でも「そうなった」俺をは何も言わずただ優しく頭を撫でていた。










『貴方にもいつかきっと姉上だけじゃない、守るべき人が出来るから』










姉上。

俺には、姉上だけじゃない守るべき人がもう一人居ました。


目の前に、そしてすぐ近くに・・・守らなきゃいけねぇ大事なヤツが。




もう、もう失ったりしません。






『総悟』





この、あたたかな優しさを―――――。
























「んな格好で出歩くと、女連れてるみてぇじゃねェか」




数分後。

何故か姉上の着物を着たに連れられ俺は街を歩いていた。
肩を並べて歩く姿は他からすれば一般カップルさながらだろう。







「アンタね、私女の子ですけど。いいのよ、別に?
アンタがベソかいたこと、屯所の皆に言いふらしてやってもいいんだからね?」


「チッ」






しかし、蓋を開ければ俺の隣を歩く女は一般人ではなく
刀を握り攘夷浪士を斬り捨てる真選組の紅一点。


そんなの姿を誰が思うだろうが。

まぁ道行く雑魚共はそんな事思っちゃいねぇがな。






「よーし総悟!買い物に付き合え、どーせサボってたんでしょ?」


「はァ?俺はただ姉上の遺品をテメェに渡しに来ただけだ。それ以外の事は」


バラすぞ?


・・・荷物持ちでも何でもさせていただきやす


「よろしい。じゃあ、行くわよ総悟」


「お、おいっ、何しやがる!手ぇ握んな!!」


「いいからいいから」





は俺の手を握り
引っ張りながら楽しそうに俺の前を歩く。


ふと、握られた手を俺は見た。




この手を、俺はこれから守らなきゃならねぇんだ。


コイツ−−が俺の側で背中を守ってくれてるように
俺は、俺の全てでコイツ−−を守ってみせます・・・姉上。









「(しっかしこの現場・・・万事屋の旦那に見つかったら、どーすっかねェ。まぁ、いっか・・・たまには)」



「ほら、行くぞ総悟。きりきり歩け」



「へぇへぇ。かしこまりやしたお嬢様ァ」





規則は破るためにあるけれど
誓いは守るためにある

(天国にいる大切な人−姉上−へ。俺はもう一つ、守るもの−女−を見つけました) inserted by FC2 system

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