「はぁ?海水浴に付いて来いぃ?」
「そうなのよ〜・・・アタシ達と一緒に海水浴に付いてきて貰えないかしら?」
見回りをしている最中。
かまっ娘倶楽部のオーナーにして、かぶき町(元)四天王の1人。
マドマーゼル西郷に開店前の店に連れて来られ、いきなり何かと思えばそんな話に私は驚いていた。
「何で私がオカマのアンタ達の海水浴に付いて行かにゃならんのだ?」
「アタシらだって、いつ何時男に襲われるか分からないでしょ?海は危険な場所って言うじゃない」
「私からしたらあんた等の方がよっぽど危険で海にすら近づきたくないわよ。
ていうか、私が行かなくても良くね?自分の身は自分で守れる奴らばっかりなんだし」
オカマ、と言えど・・・もともとは此処に居る奴らは男だったわけで
性別は下の工事でもしない限り、変えられることは出来ないのだから。
そんな奴らがわざわざ私を連れて海水浴なんぞに行かなくてもいいように思えている。
それに―――――。
「私、一応お役所勤めしてる身なんですけど?分かります?国家公務員ですよー。
あんた等が忌み嫌う税金泥棒ですよー?」
そう。私は真選組隊士。
お役所勤め・・・つまり、公務員だ。
ただでさえ、近藤さん(の破廉恥行為の後始末)や総悟(の破壊活動の後始末)の書類を
書かなければいけないし、土方さんの手伝いもしなければならない。
下手したら、三番隊の原田さんや密偵の山崎のお声がかかることもしばしば。
一端の隊士、なのだが・・・正直、業務は隊長格並の量。
それをほっぽり出して、海水浴なんぞ行けはしない。
むしろ、私が此処を離れたら・・・確実に困るのはあいつらだ。
「仕事溜まってんのよ。海水浴になんて行けない」
「〜いいじゃない。ハメ外しなさいよ〜」
「お宅らと違って、ちゃんとハメ外す隙も作ってるからご心配なく。
あんた等のお守り頼むなら他に頼んで。私は忙しいんだから」
そう言って踵を返して、店を出ようとした。
「ま、待ってよ姉ちゃん」
「?・・・てる彦」
「てる君」
店を出ようとした途端、子供の声に呼び止められた。
振り返ると其処には、西郷の一人息子である、てる彦が立っていた。
「付いてきて欲しいんだ・・・その、曲がりなりにも・・・皆、女・・・だし」
「女っていうより、ゴツい男の集団だけどね・・・此処の場合。むしろモノホンの女の私が行って何になるって言うの?
正直アンタんトコの父母親・・・その昔、天人を脅かした人でもあるんだよ。私なんか行って何になるって言うのさ?」
「で、でも・・・む、昔は男でも・・・い、今は・・・皆、女だから・・・その、あのぉ・・・っ」
握りこぶしを作って、必死に私に言う姿。
正直子供に此処まで言われると引きにくい。
だから、西郷のところのてる彦もそうだが、日輪のところの清太も厄介だし。
銀さんの所で預かってる神楽や、お妙さんの弟である新八も厄介だ。
子供を突き放すことができないのだ、自分が「女」という生物学上。
つまり、母性本能・・・というソレだ。
子供相手に酷い言葉で突き放すほど、私は外道でもなければ、下衆でもない。
「あー・・・こういう時自分が女っていうのが本当に嫌になる」
「?」
「今回だけだからね西郷。ていうか、私有給溜めてたのに・・・どーしてくれるんだか、ホントに。
ていうか、私を特別的に動かしてんだから特別手当の一つや二つ、出せよ・・・いいな?そうじゃないと、私引き受けないから」
「姉ちゃん・・・・じゃ、じゃあ行ってくれるの?」
てる彦の嬉しそうな声に、私はため息を零し頭を優しく叩く。
「今回だけだからね、アンタんトコの父母親と店の女どもの面倒見るのも」
「う、うん!ありがとう姉ちゃん!!」
子供は無邪気に笑う。
コレ見たさに引き受ける私も、やっぱり女で母性本能がくすぐられてしまう。
「詳しい日時決まったら連絡して、準備するから」
「。アタシらより目立つ水着着るんじゃないわよ?」
「私のそういう姿より、アンタらの方がよっぽど水着よりも目立つっつーの」
そう言って、私は店を後にし街をフラフラと歩く。
海水浴・・・か。
「(銀さんたちも、一緒に行けたらいいのになぁ〜)」
せっかく休みをもらって海水浴に行くのだから
銀さんや新八、神楽も一緒に連れて行きたい、と西郷に言おうとしたが
西郷に其処は断られそうだから、言うのをやめた。
一緒に行ったら、きっと・・・楽しいだろうけど。
「ま、いっか・・・今度の休みにでも一緒に海に行くか誘ってみよ」
銀さんたちと海水浴、は今度にして
今回はオカマ+子供の面倒を見ることにしたのだった。
「すまねぇな西郷さんよォ」
「真選組の局長様直々のお願いなんて、驚きだわ」
「最近にゃあ無理ばっかさせてっからな。ハメくれぇ外させたくってよ。
でも俺らが休めって言ってもあいつぁ多分聞かねぇだろうし。まぁおめぇんトコのガキが一役買ってくれて助かったぜ」
「当たり前よ。何たって、てる君・・・と一緒に居たいからね」
「と、父ちゃん!?そ、それ言わない約束だろ!!」
「なーに言ってるの!今が未来の花嫁捕まえるチャンスなんだから、頑張りなさいてる彦!」
「もういいって!・・・お、おじさん、僕が姉ちゃん好きなこと、姉ちゃんには言わないでよ!!」
「あ・・・ああ、わかってるさ(アレ?もしかして・・・が万事屋と付き合ってること、俺ら以外知らねぇの!?)」
夏といえば、やっぱり海水浴じゃね?
(しかし何だか波乱の海水浴?)