とある屋形船にて。
「おい、」
「はい、何ですか?晋助さん」
「おめぇこの後仕事終わりか?」
「え?・・・えぇ。晋助さんの今居るこのお部屋を片付けたら終わりですよ」
「そうか」
「晋助さん?」
部屋の食器や、お膳を片付けるそんなを見て
高杉はキセルを吹かし、外を見る。
不思議な事を聞いてきた高杉には首を少し傾げた。
「今日は」
「はい」
「今日はこのままでいい・・・ずっと、このままで居てぇ」
「晋助さん」
高杉、我ながら良い口説き文句を放つ。
好意を抱く相手は一般人の、しかも贔屓にしている料亭の仲居。
そして高杉の言葉で落ちない女性は多分居ない。
更に言うなら、部屋には自分と彼女だけ。
これだけの材料が揃いながら落ちない女性はいないはず。
高杉は心の中で、「落ちたな」と確信していた。
彼女もそんな高杉の言葉に、少し安堵の声を出し答えていたのだから。
「お部屋の使用時間の延長でしたら、私お店の人に言ってきましょうか?」
「は?」
しかし、返ってきた言葉に高杉は素っ頓狂な声を上げた。
あの高杉晋助にそんな声を上げさせたのは、多分彼の目の前に居る
、彼女だけだ。
そしてこれが計算で言うはずもない。
はいたって真面目に返している。
「いや・・・あの、お、お前な・・・」
「晋助さんは本当に屋形船、お好きなんですね」
満面の笑顔で返され、高杉は何も言えなくなってしまった。
後日。
「晋助、アホでござるな。また失敗でござるか、これで何回目、いや何万回目でござるか?」
「うっせぇ。またっていうな。ていうか数えんな」
先日の事を、万斉にポロッと零した高杉は
万斉にバカにされていた。
「百戦錬磨のお主が、幼い女子(おなご)一人に苦戦しているとは・・・滑稽でござる」
「マジ斬り殺すぞ万斉」
「事実でござろう。女子一人に何を怖気づいてるでござるか?落とすには他愛もないはずでござろう」
「うるせぇよ」
万斉の言葉に、高杉はキセルを吹かした。
「(穢せるわけねぇだろ)」
『晋助さん』
「本気で惚れちまってるんだからよぉ」
そう言いながら、高杉は笑みを浮かべた。
「そうやってズルズル引きずるから、成功しないんでござるよ晋助」
「だからマジで黙れっつってんだろおめぇはよぉ!!」
『何万回の失敗』と『たった一度の成功』は表裏一体
(さて、うまく行く日はいつになることやら)