「じゃあ、お膳と食器片付けてきますね」
「悪ぃないつも」
「いいえ」
食事を済ませ、がニコニコしながら食器の乗った膳を片付けに
俺の側から離れる。
そして俺は食後の一服を吹かしながら考えた。
が膳を片付けてしまえば、もう後は船を
波止場まで向かわせ、それで終わる。
別にアイツの事押し倒して、体を求めるわけでもなく
ただ、毎日毎日それを繰り返している。
こうも毎日好きな女が隣に居て、そいつを食わないというのは
正直なところ俺としては上出来なほうだ。
いつもだったらぜってぇありえないだろうが。
ぶっちゃけた話。
壊したい気持ち10割。
ようするに、を襲ってしまいたい気持ちが100%ある。
しかし、あのだ。
俺の言葉をあっさりと、しかも全部素で返すあのだ。
遠まわしな言葉言ったところで
全部普通にあいつには返されてしまうのがオチだ。
だが、毎日
俺の素性も知らずに健気に尽くすアイツを見てて――――。
『晋助さんいらっしゃいませ。今日もありがとうございます』
『タバコ。吸うのはいいですけど、体に良くありませんからよ』
『お酒、切れちゃいました?じゃあ新しいの持ってきます』
『お膳と食器片付けてきますね』
『おやすみなさい晋助さん。またいらしてください』
「(襲いてぇ)」
何も知らない、純真無垢な。
食べてしまいたい気持ちはもう限界ギリギリ。
俺はキセルの灰を落とし、立ち上がり
食器や膳を洗っているの元へと行く。
俺がいるという気配に気づく事なく洗い物をする。
ゆっくりと手を伸ばす。
うなじにキスを始めたら・・・そのあとは、多分流れるままに出来る。
「わっ!?び、ビックリした」
「!?」
手を伸ばし、届きそうになった瞬間・・・が此方に振り返る。
俺は思わず伸ばしていた手を引っ込めた。
「晋助さん。どうかしたんですか?」
「え?・・・あー・・・・・・い、いや」
「お皿洗い終わるのはもう少しですから。多分洗い終わる頃には波止場にも着きますんでもう少し待っててくださいね」
「そ、そう、だな」
「あ、まだあっちのお部屋に空になった徳利が残ってましたよね?それも洗わなきゃですね、ごめんなさい」
「お、おう」
そう言って、は俺の横をすり抜け元居た部屋に戻っていく。
俺は自分の手を見て・・・・・・肩を落としたのだった。
食べてしまいたい
(まったくよぉ、神様ってのは本当に残酷だぜ)
-オマケ-
「今日も早い帰りでござるな晋助」
「・・・うっせぇ」
「相変わらずでござったなその反応は」
「・・・うっせぇ」
「まったくこういう時は”ぶっ壊したい“精神はなくなるでござるなお主も。やはり滑稽でござる」
「うっせぇっつってんだろおめぇはよぉ!!サングラス割るぞ!!」