「女性がこんな所で、花火見物とは危なっかしい限りだ」



「あ、鴨さん!」





ある日の夜。

花火大会があると言って私は屯所の屋根の上に登って
一人花見見物をしていた。


まぁ都合が良い事に、口うるさい土方さんが居ないからこれ見よがしに
私は屋根の上に登って一人花火見物としゃれ込んでいた。


すると立てかけていたはしごから、見知った顔が現れた。




伊東鴨太郎。




真選組では参謀ポジションと言ったところだろうか。


しかし、副長である土方さんとは非常に仲が悪いと
局内では噂・・・・・・いや事実が飛び交っている。


皆「伊東さん」とか、近藤さんに限っては「伊東先生」って呼んでいる。
私は少しでも親しめるように「鴨さん」と呼んでいる。







「危ないじゃないか、君。女性が屋根の上登って」


「縁側だと何か見えづらくって。土方さんも居ないし、屋根のほうに上ってみようかと」


「気づいたのが僕でよかったね。土方君だったらどうなっていたことか」


「すっごい怖い顔して怒られますね・・・フフフ」




笑いながら鴨さんと話す。


夜空に、大輪の花が咲き誇る。







「いつ、お戻りになられたんですか?」


「先刻。今から近藤さんに会う予定だったが、明日に回す事にした」


「どうしてですか?近藤さんならまだ居ますよ?」


「花火を見ていたら気分が変わった。それに、君が屋根から落ちないよう見ておかなければならないからね」


「私どんだけおっちょこちょいなんですか鴨さん」






私がそう言うと鴨さんはクスクスと笑っていた。

やっぱり私はどうやらこの人からも子ども扱いだ(いや、事実総悟とタメだからガキではあるんだけどさ)。


ちょっとふて腐れていると、鴨さんと目線が合った。
目線が合い、フッとかの人は微笑んだ。






「鴨さん?」


「髪を下ろしていると、君はやはり女性だな」


「日常男っぽいよって言ってるようなもので腹立ちますよ流石に」


「髪を結えば誰だって、印象は変わる。君が髪を結べば一人の隊士だ。だが、解けば一人の女性だ。その違いだよ」


「結局は一人の人間だって言いたいわけですね」


「印象の話をしているんだよ僕は」




頭の良い人間の話はよく分からない。

だからって私そんなにバカじゃないからね。
ゴリラやマヨラーやドSみたいに無鉄砲ではないし、バカではない。

それなりに人並みな学習能力はある。


しかし、鴨さんは頭が良すぎるから時々話がついて行けない。





「だが、珍しいな。君が髪を下ろしているなんて」


「見回りのときに過激派の攘夷浪士見っけて、髪ゴム切られたんです。まぁ浪士たちは
私が髪ゴムの無念を晴らすために斬りましたけど」


「アハハハ・・・・まぁ髪が切られなくてよかった。僕も安心したよ」






すると鴨さんが着物の袖から何かを探り、取り出し私の目の前に差し出した。







「これをやろう。これで髪を結んでおくといい」






鴨さんの手に持たれていたのは、髪ゴム。
しかも揺れたら何か反射して、キラキラしていた。




「強度は、普通の髪ゴムとでは比べものにならない。そう簡単には切れないから」


「鴨さん」


「たまたま武器を集める際に見つけた代物だ。それに髪ゴムを買うにもお金が必要になる。
それ1個あれば、充分だろう。手を出して」




鴨さんに言われるがまま、私は手を出した。
手をお皿のように広げると、それはすぐさま私の手のひらに落ちてきた。


花火の光が髪ゴムに反射して・・・・・・綺麗。






「ありがとうございます、大切にしますね!」


「あぁ、大切にしてやってくれ」






私がお礼を言うと、鴨さんは少し淋しげに言いながら
夜空に上がる花火へと目線を移した。







「鴨さん?」


「なぁ、君」


「はい」


「もしも・・・・・・もしも、僕が近藤さん達に刃を向けたら、君は・・・・・・どうする?」


「え?」






花火が上がって、散りになって落ちていった。

鴨さんは空から視線を外すことなく見ている、私はそんな鴨さんの横顔を見つめた。



近藤さん達に、鴨さんが刃を?







「鴨さん・・・・・・そんなことしたら、局中法度で貴方は」


「もしもの話さ。・・・・君なら、どうする?刀を収めたまま見過ごすか?それとも、僕に刃を向けるか?」






私なら・・・・・・私なら・・・・・・。







「私は、近藤さんや土方さん、総悟に山崎・・・そして、皆の事が大切です。私の大切な人たちに
刃を向けるというのでしたら・・・・・・私は、鴨さんに刃を向けます」



「・・・・・・・そうか」






本当は、そんなことしたくない。


だって、鴨さんも私の中で・・・大切な人たちの中の一人だから。





大切な人だから・・・・・・誰一人として、欠けちゃいけない。




私は目を閉じて、再び開いた。








「鴨さん、今度は皆で花火見ましょう!局内の皆と」



君」



「何日後かにまた花火大会があるんですよ。その時に皆誘って、縁側でお酒飲みながら。
やりましょう鴨さん!」



「・・・・・そう、だな、約束しよう」



「はい、約束ですよ。土方さんが嫌いだからって、ドタキャンなしですからね!」



「これはこれは。まったく、君には敵わないな」







鴨さんは呆れながら私に言う。




約束をして、終わるまで私は鴨さんと花火を見ていた。







でも、花火は咲いては散る運命・・・それは、私達真選組隊士と同じ。






次の日から、激しい戦いが始まるなんて知らなかった。


そして、あんな結末を迎えるなんて・・・・・・私は、知らなかった。










夜空に咲き誇る花火を、この人と見るのが最後なんて・・・・・・・私は知らなかった。






うたかた花火
(花火は咲いて散って、まるで泡沫。動乱前の出来事)
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