線路の上、馬を走らせていると火薬の匂いに混じって
血の匂いがしてきた。
急に嗅覚を強烈な匂いが刺激し
私は馬の足を止めた。
私は袖で鼻を覆い隠し、馬をゆっくりと歩かせた。
すると目に飛び込んできたのは、爆撃・銃撃戦が行われた後。
いろんな所に死体が転がっている。
「何・・・コレ・・・」
私がその言葉を呟くと、地面に倒れている隊士の動く姿を見つけ
馬を降りてそこに駆け寄った。
「しっかりして、大丈夫?」
「、さん」
「何があったの?それに、コレは・・・一体何?」
私が彼に尋ねると、向こうはもう長く持たないと分かっているのか
呼吸もままらぬが最期の力を振り絞って私に訴える。
「い、伊東が・・・」
「鴨さんが、どうしたの?」
「伊東が・・・謀反を起こして・・・局長の、命を・・・狙っているんです」
彼の口から出てきた言葉に、私は耳を疑った。
「う、嘘・・・鴨さんが、謀反だなんて・・・」
「事実、なんです。攘夷の奴らと手を組んで・・・局長の命を・・・」
「そんな・・・っ」
嘘かもしれない・・・とは、言い切れない。
なぜなら、此処に倒れている死体たちの中に鴨さん側についていた奴らの
死体まで此処にはある。
一見、攘夷の奴らとの攻防戦を繰り広げたように見えるが
裏を返せば・・・・・・謀反。
まさか、こんな事が起こっていたなんて・・・・・。
「でも、副長が・・・・俺らに呼びかけてくれたおかげで、局長は無事です」
「土方さん」
彼の言葉を聞いて、軽い笑みが零れた。
今の、今までどこに居て、何をしているのかと思いきや・・・大事なときに
戻ってきてきっちり仕事はするんだから。
あの人は本当に真選組の折れない刀だ。
「万事屋の・・・奴らと、一緒に・・・山の向こうに」
「万事屋って・・・彼らも一緒なの?」
どうして、こんな所に銀さんたちが?
私はそれにも驚いた。
「副長を、連れてきたのは・・あいつ等、ですから・・・」
「そうだったの」
理由を聞いて、納得した。
しかし、どういった理由で銀さんたちが土方さんを連れてきたのか
分からないが、なんとなく今は状況を把握するしかない。
「、さん」
「何?」
すると、彼は私に言う。
「後・・・よろしくお願いします。・・・局長を・・・真選組の魂を・・・」
そう言って、彼は息を引き取った。
私は亡くなった彼を地面にと倒し、合掌して
止めていた馬の元へと戻り、再び乗り線路の上を走る。
「鴨さん・・・・・なんで、謀反なんか・・・・・鴨さん」
先ほどの話で鴨さんが謀反を起こしているとの事。
それが事実かどうかが、私には分からない。でも、信じたくない。
鴨さんが・・・・謀反なんて。
「確かめなきゃ・・・・・この目で」
自分の目で確かめないと分からない。
私は馬の足を急がせた。
左足が、もう痛みを通り越して感覚がないみたいだった。
でも今は自分の足よりも、皆の事が心配だった。
山の向こうからは激しい轟音が聞こえてくる。
馬の息遣いが大分酷い。
もうきっと、限界を過ぎている。
「ごめんね。・・・あと少し、頑張って」
走り続ける馬に言うと、馬にもそれが伝わったのか走る足が速まった。
私は手綱をしっかりと握り、山の向こうに急いだ。
空を見ると、段々と夜が明けていく。
先ほどまで暗かった辺りが明るくなっていく。
「夜が明けるまでに、皆の所に」
馬を走らせながら私は呟いた。
山の向こうには、近藤さんや総悟、それに土方さんと
彼を連れてきた銀さんたち。そして・・・・・・謀反の首謀者である、鴨さん。
全ての真実を確かめるまで、足を止めるわけにはいかない。
それに、今すぐこんなバカ騒ぎをやめさせなければ
大切な人たちを失いかねない。
止める道具なんて持っていなくても・・・・・言葉は、聞こえるはず。
「急いで・・・・・お願い、早く・・・・・」
私はそう言いながら、馬を走らせる。
ゆっくりと、陽が・・・昇る。
「夜が、明ける。・・・・・・皆は、ドコ?」
首を動かしていると、何やら黒い服の集団を見つけた。
見間違えるはずがない、あれは真選組の隊服。
遠くからじゃ分からないけど円陣になっている。
途端、胸騒ぎがした・・・ザワザワと、胸の中で草木の揺れるような
ざわつきが起こる。
私は馬から降りた。
「あ・・・さん」
すると隊士の1人が私に気づいた。そこから誰もが私のほうを見る。
ふと、人混みの間から見えた地面。
一気に視界が歪んだ。
「鴨・・・・・・さん」
地面に鴨さんが居た。
居たというより・・・倒れている。
私がゆっくりと進むと、隊士たちは道を開け
その間を私は歩き、そこへと進む。
ようやく輪の真ん中に着いた。
足元を見ると・・・鴨さんがうつ伏せで、大量の血を流していた。
私は膝を落として、鴨さんの肩に触れ揺さぶる。
「か、鴨さん・・・鴨さん、こんなトコで寝ないでくださいよ・・・鴨さん」
揺さぶっても、返事がない。
目から、涙が零れてきた。泣きたくないのに・・・涙が。
私は鴨さんの体を起こし、抱きしめた。
冷たい・・・温度が、感じられない。
「鴨、さん・・・か、も・・・さっ・・・」
あんなに・・・あたたかったのに・・・どうして、こんなに冷たいんだろう?
ふと、視界にあったはずの右腕の存在がないことに気づいた。
抱きしめる手に力が入る。
「鴨さん、右腕・・・ないじゃないですか。こんな腕じゃ、刀も握れませんよ。こんな腕じゃ・・・こんな、腕じゃ・・・っ」
『・・・・・そう、だな、約束しよう』
「鴨さん・・・っ」
『君が1人前に、心の鬼とやらを制御できたら君の言う甘味を奢ってやろうじゃないか』
また・・・大切な人が――――――。
「鴨さん・・・か、もさっ・・・鴨さん!なんで、何で・・・約束、破らないでくださいよ!
鴨さん・・・鴨さん・・・!!!」
守られるはずだったあの時や、あの日の約束は
果たされないまま・・・花火のように消えていった。
約束も・・・あの人の、命も。
うたかた花火
(守られなかった約束は花火のように消えていった)